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【第一回】#RTした人の小説を読みに行く をマネしてやってみた! 【1作目~6作目】

企画者より

作品をご提供いただいた作者の皆さま、ありがとうございました。

本企画は、大滝瓶太さん(@NovelYomyom)のマネっこです。

りゅういちクズ系文学YouTuber三浦 冬太朗 の二人で感想を贈っていきます~。




【1作目】来 根来(きたり ねごろ)『ペンギン達の楽園』/ヒトの在り方

http://ncode.syosetu.com/n1967gf/

@kitari_negoro

あらすじ(投稿サイトより)
 時は西暦2180年。地球は再び訪れた氷河期により氷に覆われていた。
未曾有の寒気に適応できなかった人類が引き籠る中、世界で羽を伸ばしていたのはーーペンギン達だった。 そう、世はまさに”ペンギン達の楽園” 氷河期により激変した世界を生きる人間達とペンギン達の生活を映す、近未来SF日常短編作品。

ヒトの在り方って?僕らも、ただのホモ・サピエンス。

「『ペンギン達の楽園』かあ、ずいぶん可愛らしい世界観だな」
三人称視点で描かれ、どうやら場面は授業中で、世界は氷河に包まれているということが分かっていきます。
そして、”新生代氷期”のなかでイキイキとしているのが、コウテイペンギン。
“もしも”の世界を楽しむ作品なのだろう、と読み進めました。
ペンギン愛にあふれる研究者”ケイ・ナカタ 博士”の功績により、“ペンギン達の楽園”は築かれました。

前編のラストはこう締めくくられています。


「知性を獲得し、原始的ではあるが――彼らなりの、”文明”を手に入れたのだよ」


文明?人類は室内に追いやられ、ペンギン達が世界を闊歩する。これ、大丈夫か?人類!
引きこもる、という消極的な選択しかできない人類。自然の驚異を再確認しました。同時に、この世界におけるトップは誰なのかも…。

後編のスタートは、アメリカンな会話にニヤリ。
人類とコウテイペンギンの関係性が描かれていきます。漁業をペンギン達に委託する人々。しかし、未だペンギンを人類の下位存在として認識しているアメリカンな二人。ペンギン達は腹に魚を溜め、それを人々に“施す”。
これじゃあ、まるで餌付けじゃないか。
ペンギン達の施しに嫌悪感を抱く人はいるものの、ほとんどの人類は良質なタンパク源をありがたく頂戴しています。
ラストに明かされる、ペンギン達の意図…。

後編の中盤、教授の最後のセリフ

「よろしい。では、本日の”人鳥(ペンギン)学入門”はこれまで! 来週も遅刻することなく接続するように」


そうか、ペンギンは漢字で“人鳥”だったな。
まて、皇帝って…。

なんだか、示唆的な言葉たち。

頂点に君臨しているつもりの人類も、動物の一種。驕ってはいけないな、と思いました。

@りゅういち


【2作目】ハルハル(春a裏)『ミニトマトと炎症性』/日常の盲目性

https://ncode.syosetu.com/n8888ga/

@UOBtw1qqvtVbNDb

あらすじ(※りゅういち)
『バルン症候群』風船病とも称される病の診断をくだしたのは、医者ではなく、車の整備士。不調を治すために診察を受けにきたのは、私ではなく、赤い車であった。

日常において意識の外にあるもの、ふだんは気にしていないもの、が“バルン症候群”を通して浮き彫りになる。


全体にただよう安部公房感。
〇〇ならば、××だよね。という論法で少しずつ認識をずらされていく感覚。

自らの体を治してくれる、つまりは車を主体として考えるとすれば、やはり目の前の人物は医者に等しい役割を担っていると考えられる。

作者は、ふだんからロジカルに物事を考えるのだろうな、と思いました。

 それに関してはただ単に拭き掃除を怠っていただけであった。
しかし状況もあいまって、私は赤い車にまるで水疱瘡みずぼうそうを発症したおさなごのような哀れさ、悲しさを抱きそうになっていた。

語り手の解釈によって、目の前の出来事に意味合いが付与される様は、いかにも小説らしい、と感じました。

整備士のセリフは、物語がすすむにつれてますます医者じみてきます。

「軽症だからといってあなどることは禁物ですよ、たとえ最初は地面すれすれをただよっているだけだとしても、ちゃんとした対処をしないとあっという間にアパートの三階ほどの高さまで浮かんでしまった症例もありますから」
「人間でも、風邪を放置してもっとヤバい病気を併発することだって、そう大して珍しいことでもないでしょうしね」

確かに。
しかしながら、私たちは風邪を侮ります。どうせすぐ治る、と、その病を軽く見ます。命に関わる病気を併発する危険性をはらんでいるのにも関わらすです。

後半、畳みかけるような語り手の思考によって、私たちが日々の生活をいかに鈍く捉え暮らしているのかを突きつけてきます。
私たちは、いかに何も考えないで日々を過ごしているのか。それに気づかされる作品でした。

@りゅういち


【3作目】T・G・ヤンデルセン『世界で一番美しい生き物~サリエリの蛇とイヴ~』/奉仕する者、される者。

https://ncode.syosetu.com/n1037fk/

@TGyandersen

あらすじ(投稿サイトより)
 その日、「私」は非合法の動物愛好家達の秘密組織【倶楽部】の先達である「老人」の屋敷を訪れていた。老人の秘蔵する『この世で最も美しい愛玩動物』【イヴ】をこの目で確かめるために。 

地下に造り上げられた偽りの楽園で、私は彼女……【イヴ】と出会う。 

そして私は後悔した。──今日、この屋敷に来るのではなかったと。

奉仕する者、される者。どちらが支配者か。

余計な装飾のない読みやすい文章でした。
作者さんが本人が「サスペンス」と表するとおり、散りばめられた細かい謎や疑問の回収が、物語の推進力となっていました。

「……重々承知しております。ここで見るものについては、一切の他言無用。万が一にも秘密が漏れそうになった場合には、速すみやかに【除名処分】が下される──でしたわよね?」


秘密の動物愛好会【倶楽部】。老人が秘蔵する【彼女】は秘密につつまれている。
【除名処分】という単語や【私】の反応で、緊張感が演出され、【彼女】への期待が高まりました。

そして気づきます。
「動物愛好会と言っているのに、【彼女】は人称だよな」
秘密、緊張、と相まって蠱惑的な匂いを感じました。
同時に、あらすじにある、後悔とはなんだろう、と。

隠し扉の奥の通路を抜け、秘密の螺旋階段を下り。

ついに扉の前にきます。

ごぐん、と重々しい音とともにロックが外れ、ゆっくりと扉が開いた。奥からは、微かに甘い香りの混じった暖かい空気がむわりと流れ出してくる。

嗅覚も刺激され、期待がさらに高まりました。

散々おあずけされて、ついに【イブ】の描写。

 身体つきは未だ成熟しきっておらず、その胸の膨らみも慎ましやかなものだ。
 だが、手足はほっそりと長く、猫科の獣のようなしなやかさを感じさせた。
 染みひとつない褐色の肌。
 背中まで伸びる、軽くウェーブのかかった艶やかな黒髪。
 やや吊り目がちなアーモンド型の大きな目と琥珀色の虹彩を、長い睫毛が彩っている。
 その眼差しは、気だるげに水面を見つめていた。
 足先は戯れるように水面をゆらゆらとなぞり、小さな波紋を作り出しては、またすぐにその波紋をかき消すように水面を撫でる。
 滝から跳ねる水の飛沫で潤った黒髪が、しっとりと濡れた羽のように背中に貼りついていた。
褐色の肌の上を滑る水滴は、光を反射して、透明な真珠の粒のように煌めいている。

期待通りの美しさ。
【私】が【イブ】に魅せられている心理も描写されていきます。

老人の長い独白が続き、


老人は無言のまま、慎重な手つきでその髪に柔らかな布を押し当てる。そして自分の服が水滴で濡れるのも構わず、ゆっくりと丁寧に【イヴ】の髪を拭いはじめた。
ひと通り髪の毛を拭った後は、肩から腕、そして背中へと。
何度も布を取り替えながら、少女の裸の肌から水滴を拭い取っていく。
【イヴ】はそれが当然のことであるかのように、何も反応しない。奉仕され、尽くされることに、完全に慣れきった者の態度だった。

どちらが飼い主か分からない。
作中にもある通り、ペットとは、「ただ奉仕され、愛されるためだけに存在する」のだけれど、飼い主が上で、飼われる者が下、という上下関係は間違いなのではないか。
【イブ】が人の形をしていることで、ここらへんの違和感を喚起するのに効いていると思いました。

「……いったい、どのようにして、【彼女】を?」

このセリフを境に、物語には不穏な空気が流れていきます。

老人は、なぜ【私】に【イブ】を見せたのか、なぜ【私】は後悔したのか。後半に明らかになっていきます。

もう終盤、というところになり、僕は【私】の後半部の行動の意図が分かりませんでした。
何か読み落としていたかなーと不安に思いましたが、最後の最後で、それは回収されます。
しっかりと計算されていたようです。
そのキーワードとなるのが、タイトルの「サリエリ」
「サリエリ」「蛇」「イブ」すべてのキーワードが、きっちりと回収される物語でした。

【私】の結末は、ある意味で最高の奉仕だったのでは、と思いました。

@りゅういち


【4作~6作目】

『アボットの槍』芝中一嘉

『あなたは殺人鬼です』ろき

『泣かない鬼と、笑う魔女』にゃごたろう



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