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『探究する精神 職業としての基礎科学』 大栗 博司 #君羅文庫

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の機構長であり、カリフォルニア工科大学フレッド・カブリ冠教授、ウォルター・バーク理論物理学研究所所長も務める物理学者大栗博司先生の半生を追うことで「探究心」について考えることのできる1冊

大学生・大学院生の学びについて、研究者としての考え方と行動について書かれており、まさにこれから大学生活を始める1年生、研究を本格的に進めていく大学院1年生は、この本を読むことで学んでいくことがさらに楽しみになるんじゃないかと思います。


本書では大栗先生の「知」の原点についても書かれています。

両親が働くお店の近くの大きな本屋さんに"放牧"されたことで本と出会い、自分の頭で考えるための知識を手に入れることができたといいます。

そして大栗先生を形作ってきたたくさんの本も紹介されます。

小学生時代の大栗少年の知的好奇心を刺激した『なぜなぜ理科学習漫画』『万有百科大辞典』

さらには小学生ながらブルーバックスにも手を伸ばしていたそうで、『はたして空間は曲がっているかー誰にもわかる一般相対論』『マックスウェルの悪魔』などから物理学の魅力を知ったそうです。


受験勉強から出会ったという哲学書もよく紹介されています。プラトン『ゴルギアス』デカルト『方法序説』など。

カントの『純粋理性批判』は、早くからブルーバックスなどで数学や物理学の法則に触れていた大栗先生にとっては、カントの主張の根拠となる数学と物理の例が間違っていたことから納得がいかなかったと語っています。物理学に興味を持って過ごした少年時代に得た知識から哲学者の主張も批判的に考えることができたという、まさに自分の頭で考えることを実践していた証拠のようなお話ですごいなぁと感心しました。


文章の書き方としては、文章の書き方を綴った他のベストセラーよりも本多勝一がなにより役立ったとして、本田勝一『日本語の作文技術』を紹介しています。副詞の使い方に関するスティーブンキングの言葉も『書くことについて』から紹介されていました。


そして、本書を通じて何度も登場するのがアンリ・ポアンカレの『科学と方法』です。この本を読んだ科学者に憧れていた高校生の大栗先生は、さまざまな研究の中で、「誰にも見向きもされない発見」と「社会そのものを変革するような大きなリターンをもたらすような発見」があり、どうすれば価値ある発見ができるのか?そうでない発見との違いは何か?に強い興味を持ったといいます。

そして本を読み進めていくことで様々に進歩する分野を結びつけるような「普遍的な法則」を見つけることが科学の価値につながることを知り、今でも大栗先生の頭の中にはこの考え方が残っているというほどに強く影響を受けた本として紹介されています。

大栗先生は新しい研究を始める時にはこの「普遍的価値」を意識して考え始めるとしており、実際に普遍性を持つ成果である「BCOV理論」の発見にもつながっているようです。

この他にも大栗先生が影響を受けた本もたくさん紹介されていて、僕は紹介されていた本いくつも買っちゃいました。本から影響を受けたと聞くとその本が読みたくなってしまうんですよね〜。

学びの姿勢、科学者として働くことも紹介されていて、アカデミックに関係のある人はもちろん「学ぶこと」に興味のある人にとっては興味深く読める本だなと思いました。


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