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『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』 ポール・ナース著 竹内 薫 訳 #君羅文庫

細胞周期を制御するcdc2遺伝子の発見によってノーベル生理学・医学賞を受賞した細胞生物学者ポール・ナースによる生命とは何か?を考える1冊

僕は教科書を読むだけでそこに書いてある情報が頭に入ってくるタイプではないんですが、本書は文章を読み進めるだけで現代生物学の重大な知見が脳内にするすると入ってくる感覚がありました。

ポール・ナースの筆力によるものでしょうか。例えをふんだんに用いてわかりやすく、そして、生物学における重大な発見をした研究者たちとの知られざる交流について明かされることからも各知見ごとに興味を惹かれ、グングンと読み進めていけます。


本題である「生命について考える」については、5つのステップで生命とは?に迫ろうとしています。

細胞、遺伝子、自然淘汰による進化、科学としての生命、そして情報としての生命。

特に「情報」が生命の中心であるとするステップ5は大変に面白く、たくさん考えさせられます。

細胞のシグナル伝達経路も遺伝子のエピジェネティックな制御も全て、生命の情報としての側面と捉えることができ、細胞が「情報」を管理することで、それぞれの細胞での夥しい数の化学反応と物理活動に指示が出され、秩序だった働きが可能になり、生物が「目的」を持って行動することにつながる。

情報としての生命、おもしろい。


また、生物を理解することの必要性についても本書にはたくさん散りばめられています。

「われわれはデータに溺れながら、知識を渇望している」という、mRNAを発見し、線虫の実験系を確立したことで分子生物学の発展に多大な貢献をしたシドニー・ブレナーの言葉を引用し、生物の化学反応を記録するだけでは、生物に対する理解は深まらないとし、

われわれが、どのレベルで生き物を調べていようと、理解を深めようとするならば、情報がそれらの内部でどう処理されているかを理解しなくちゃいけない。それが複雑さを「書き留める」ことから、複雑さを「理解する」ことへ飛躍する手段なんだ。
WHAT IS LIFE p195 ステップ5情報としての生命

とポール・ナース自らの言葉で、生物の複雑さを理解しようとするアプローチの大切さを語っています。

科学技術が発展を遂げ、凄まじいスピードで複雑な実験・解析を行うことができるようになった現代において、PCの画面上に表されるデータを追うだけでなく、生物がなぜその仕組みを採用したのか?生物がどのように情報を処理しているのか?について考えを巡らせることで、生物に対する深い理解が進むのだろうという生物学における先駆者からのメッセージを感じました。

同じ起源を持つ全ての生命に対し、特別な責任を持つ「人間」が、生命を慈しみ、その世話をするためにも生命を理解する必要があるとも最後に述べられています。

生物学ますます面白いなぁと感じます。

生物学に関わる研究者にとっても、大学で生物を学ぶ学生さんにとっても「生命とは何か?」を深く考えることの大切さと面白さを存分に教えてくれる素晴らしい本だと思います。

ポール・ナースが生物学を志すきっかけとなった一匹のヤマキチョウをイメージしたであろう美しい色の装丁を本屋さんで見かけた方は、ぜひ手に取って読んでほしい一冊です。


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