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『正史・三国志』と『三国志演義』

 仕事で中国系の人と話す機会があったとき
「なぜ日本人はこんなに三国志に詳しいんだ?」
 と、言われたことがある。

 日本で一般的に知られる三国志は中国がモンゴル帝国に支配された時代である元(1271〜1368年)の末期から漢民族が政権を取り戻して建国した明(1368〜1644年)の初期に民族の誇りを取り戻すために、漢王朝復興を目指した2世紀の群雄を主人公に据えた事実に基づくエンターテイメント作品として記されたというのが有力な説となっている。これがよく知られる『三国志演義』だ。

 日本においては大正時代に吉川英治によって小説化され、大衆の知名度と人気を得たようである。

 そして昭和、戦後、高度成長を経て横山光輝センセイによる漫画、KOEIが制作した家庭用ゲームに若者たちは夢中になり、平成となってからも正史・三国志に基づいた漫画『蒼天航路』などの二次創作によって一過性のブームではなく安定した人気を獲得するに至っている。

 現代の三国志ファンのほとんどは漫画かゲームからその世界にハマったと思われ、それらを通っていない三国志ファンは少ないだろう。

 そしてスマホが普及した今では三国志を題材とし、様々な解釈や独特な世界観のソーシャルゲームがアプリストアに溢れかえっている。

 三国志は登場人物が豊富であることに加え、版権がないため二次創作に使用しやすいことが大きな理由であるのは間違いない。

 が、それを差し引いても武力行使によって領土を広げたり、その領土を繁栄させたり、有能なキャラクターを仲間にしたりとゲームとするのに相性がよいテーマである。三国志の人気には、こういったゲームシステムを確立したKOEI(現・コーエーテクモ)の功績が非常に大きいだろう。

 かくいう私もこの三国志をモチーフとしたゲームの脚本をかれこれ10年、執筆している。キャラクターや史実に基づいた戦い、逸話には限りがあるため、他のゲームやアニメとのコラボや「もし、この戦いで〇〇が✕✕に勝っていたら?」「もし軍師の△△が▢▢に仕えていたら?」などのいわゆるIFシナリオを企画して何とか既視感やネタ切れを回避しながらユーザーをつなぎ止めるに必死なのが実情である。

 レッドオーシャンのソシャゲでも歴史モノはさらにレッドオーシャンなのだ。もちろん三国志はその歴史モノに含まれる。

 そんな人を惹きつけてやまない三国志であるが、多くの人が『三国志』と理解しているのは創作が含まれている『三国志演義』だろう。
 前述の吉川英治の作品も横山光輝の漫画も、これを下敷きにしている。ゲームも同様で人物像や能力値は『三国志演義』を参考にしたものが多い。

 私が書いている脚本は『三国志演義』ではなく『正史・三国志』に基づいている。

 それらはどのように違うのか?

 『正史・三国志』は事実のみが記述されている(とされる)ときの国家/王朝が制作した正式な史書だ。

 正史は読み物というか書物である。ゆえに創作を入れる余地が多い。しかし国家に都合の悪いことは事実を強引に捻じ曲げて正当化されている可能性もないとは言えない。「これは歪曲なのでは?」と疑問を持つこともストーリーを膨らませたり、人物の主義や思想を想像してキャラづけすることに大いに役立ち、書き手としても楽しいところである。

 三国志の舞台となるのは2~3世紀の中国。

 そのころの中国の文化は日本の安土桃山時代ほどというイメージだ。中国ではすでに武力政権が乱立し、漫画『キングダム』でお馴染みの秦の始皇帝が初めて中国を統一したのは紀元前のことである。

 その時代の日本は中国では「倭国」と呼ばれ、卑弥呼が邪馬台国を統治していたとされる。当時の史書などは日本では発見されていない。その理由はその時代の日本に文字が存在しなかったからというのが有力だ。邪馬台国や卑弥呼についても『魏志倭人伝』という中国の史書に残された記述によって判明したというから文明格差は明らかである。

 殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢・三国・晋・南北朝・隋・唐・五代・宋・元・明・清・中華民国・中華人民共和国

 以上が中国を支配したとされる王朝の歴史であり非常に長く濃い。あれだけ広い国を統治するのが難しいのか何なのか、統一国家が建つ→しばらくすると政治が腐敗する→地方の権力者や民衆が国家に対して反乱を起こす、というループで戦ってばかりいるような状態だ。

 そんな中で三国時代が飛び抜けて人気なのはドラマチックだからということにほかならない。
 
 どのように魅力的な時代であるかは次回にて。
 以降、シリーズとして綴っていこうと思うので、どうぞよろしくお願いします。

【了】

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