JW84.8 湖を解放せよ
【阿蘇開拓編】エピソード8 湖を解放せよ
ついに阿蘇山(あそざん)北部の手野(ての)に辿り着いた健磐龍命(たけいわたつ・のみこと)(以下、たつお)一行。
妻の阿蘇津媛(あそつひめ)(以下、あっちゃん)と家来の鬼八(きはち)と共に、解説・・・もとい開拓をおこなうのであった。
たつお「まずは、阿蘇山についての解説やな。」
あっちゃん「阿蘇山の周囲にある盆地は、二千年後、北側が阿蘇谷(あそだに)、南側が南郷谷(なんごうだに)と呼ばれちょりますが・・・。」
鬼八(きはち)「わしらが来た時は、盆地ではなく、湖だったんやじ! これを介鳥湖(かいちょうこ)と呼ぶらしいっちゃ。」
たつお「らしい?」
鬼八(きはち)「作者いわく、読み方が分からなかったそうやじ。」
たつお「と・・・とにかく、我(われ)は良いことを思いついたっちゃ! 湖水を排水して、その水で田んぼを作るんやじ!」
あっちゃん「そ・・・その前に、子供が出来ちゃったんやじ。産むまで、待ってくんない!」
たつお「なにぃぃ!!」
鬼八(きはち)「こうして産まれたんが、速瓶玉命(はやみかたま・のみこと)やじ。」
たつお「じゃが(そうだ)。パヤオと呼んでくんない。そして、パヤオが産まれた地は、産山(うぶやま)という地名となった。現在の熊本県産山村(うぶやまむら)のことっちゃが。」
あっちゃん「では、子供も産まれたということで、阿蘇山を囲む山・・・外輪山(がいりんざん)を切り崩し、排水するっちゃ!」
たつお「ちなみに、外輪山とは固有名詞ではない。火山によって窪地が形成されると、それをカルデラと呼ぶんやが、そのカルデラの縁にあたる尾根の部分を外輪山と呼ぶんやじ。」
こうして、たつおは排水を試みた。
どうしたのかというと、蹴破ろうとしたのである。
鬼八(きはち)「蹴破るっちゅう発想は、どこから出て来たんや!?」
たつお「じゃ・・・じゃっどん、山が二重になっちょって、蹴破れなかったじ。そういうことで、ここは、二千年後、二重峠(ふたえとうげ)と呼ばれるようになるんやじ。」
あっちゃん「そんげなこつより、諦めちゃダメっちゃ!」
たつお「無論! 次は、もう少し南の方を蹴るっちゃが!」
次の蹴りは、山の隙間に見事命中し、湖水は西方へと流れ出た。
排水が成功したのである。
蹴りの勢いは凄まじいものだったようで、たつおは、その反動で尻もちをついたのであった。
たつお「た・・・立てぬ・・・。」
あっちゃん「旦那様が『立てぬ』と言ったことから、その地を立野(たての)と呼ぶようになったっちゃ! ちなみに、私たちの時代は『野』を『ぬ』と呼んでいたんやじ!」
鬼八(きはち)「更に、蹴破って誕生した滝は『すきまがある』ということで、略して『すがる』となり『数鹿流ヶ滝(すがるがたき)』と名付けられたじ。」
あっちゃん「後の時代に、数匹の鹿が流されたので『数鹿流』と書くようになったみたいやね。」
鬼八(きはち)「じゃが(そうです)。阿蘇神社(あそじんじゃ)の神事で、下野狩り(しもの・のかり)という狩りが有ったんやが、それをやってる時に、鹿が数匹、流されたみたいっちゃが。」
あっちゃん「有ったってこつは、今は無いん?」
鬼八(きはち)「阿蘇氏(あそ・し)が戦国時代に没落してから、廃絶したそうやじ。」
たつお「そ・・・そんげなこつより、起こしてくんないっ。」
鬼八(きはち)「も・・・申し訳ないっちゃが! どうぞ、お手を・・・。」
たつお「よいっしょ・・・。さてと、我が蹴破った際、勢いよく飛んでいった山の破片も地名になっちょるんで紹介するじ。熊本市東区の小山(おやま)と戸島(としま)やじ。」
あっちゃん「それだけじゃないっちゃ。菊陽町(きくようちょう)の津久礼(つくれ)も『つちくれ』が訛(なま)って『つくれ』という地名になったみたいっちゃね。」
鬼八(きはち)「合志市(こうしし)の『合志』も『小石』が訛って生まれた地名やじ。」
たつお「それ以前には、合志市と菊陽町、その他の周辺地域を含む領域を合志郡(こうし・のこおり)と呼んでいたんや。」
あっちゃん「大津町(おおつちょう)の引水(ひきみず)も水が流れたことによる地名っちゃ。」
たつお「とにもかくにも、水が流れ出たことにより、稲作がおこなえる地域になったっちゅうことやな。ちなみに、北側の阿蘇谷を流れる川が『黒川(くろかわ)』で、南側の南郷谷を流れる川が『白川(しらかわ)』やじ。白川は、海まで流れちょるじ。」
あっちゃん「黒川は、立野で白川と合流するっちゃ。」
鬼八(きはち)「ちょ・・・ちょっと待ってくんない! 湖水は引いたけど、まだ水が溜まっちょるところが有るじ!」
たつお「た・・・確かに。あれは・・・鯰(なまず)か?!」
あっちゃん「間違いないっちゃ。大きな鯰が、水をせき止めちょるよ!」
すると、大鯰は、しゃべったかもしれない。
大鯰「オル(わたし)の住処(すみか)が無くなったばい。どぎゃんしたら、良かとね?」
たつお「よし! 鼻に縄を通して引っ張るっちゃが!」
大鯰「ばっ! ばっ! ばっ!」
こうして、大鯰は流されていったのであった。
その後、鯰を見た者はいないとか・・・。
鬼八(きはち)「熊本県嘉島町(かしまちょう)に流れ着いたみたいやじ。」
たつお「どちらにせよ、大鯰の祟り(たたり)を鎮める為、大鯰の霊を祀(まつ)ったのが『鯰社(なまずしゃ)』やじ。」
あっちゃん「鯰社は、国造神社(こくぞうじんじゃ)の境内に有るっちゃ!」
鬼八(きはち)「そいは、我らの根拠地、阿蘇市一の宮町手野(ての)に有る神社っちゃね?」
あっちゃん「じゃが(そうです)。旦那様と私の子、パヤオを祀った神社やじ! 詳細については割愛するっちゃ。」
鬼八(きはち)「なして?」
たつお「その前に、新しき宮の地を定めるんやじ! 矢を射て、矢が落ちたところにするっちゃ。」
あっちゃん「旦那様! 頑張って!」
たつお「とぉう!」
勢いよく放たれた矢。
いったい、どこに落ちるのであろうか。
次回につづく。
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