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JW85.2 火を守る乙女

【阿蘇開拓編】エピソード11 火を守る乙女


紀元前577年、皇紀84年(綏靖天皇5)。

一人の男の子が産声を上げた。

磯城津彦玉手看尊(しきつひこたまてみ・のみこと)(以下、タマテ)である。

父親は第二代天皇、綏靖天皇(すいぜいてんのう)こと神渟名川耳尊(かんぬなかわみみ・のみこと)(以下、ヌンちゃん)である。

そして、皇子(みこ)の名前についての解説の最中、奥阿蘇(おくあそ)から天彦命(あまつひこ・のみこと)(以下、あまっち)が来訪したのであった。

ヌンちゃん「前回は追いかけっこの話やったな。」

あまっち「じゃが(そうです)。健磐龍(たけいわたつ)こと『たつお』と、家来の鬼八(きはち)が、弓矢の練習を巡るイザコザで、追いかけっこを始めたんやじ。」

ヌンちゃん「ほんで、鬼八は討ち取られたわけやな。」

あまっち「じゃが(そうです)。じゃっどん、それから、阿蘇の地で不可解な現象が起きるようになったんやじ。それは・・・。」


ここで、舞台は阿蘇に移る。それは夏の終わり頃であった。

たつお「なんち・・・。稲が実らないっちゃ。」

そこに『たつお』の息子、速瓶玉命(はやみかたま・のみこと)(以下、パヤオ)がやって来た。

パヤオ「夏に霜が降っとぉと。こっじゃ(これでは)、どぎゃんもこぎゃんもならんばい(どうにもならないですよ)。」

たつお「こ・・・こいが、鬼八の祟りっちゅうやつか・・・。」

パヤオ「どぎゃんすっとです?」

たつお「こ・・・こうなったら、祈って鬼八を呼び寄せるしかないっちゃ。」

パヤオ「父上! がまだせっ(がんばれっ)!」

すると、天から鬼八がやって来た。

鬼八(きはち)「困っちょるね? 困っちょるね!」

たつお「我(われ)が悪かったっちゃ。これからは霜宮(しもみや)として祀(まつ)っていくっちゃが。そいで、許してくんない!」

鬼八(きはち)「う~ん。そいでも、首が痛いんやじ。首を温めてくんない。」

たつお「わ・・・分かったじ。首を温めるために火焚き神事(ひたきしんじ)をやるっちゃ。」

鬼八(きはち)「そいじゃ、そういうことで・・・。頼んだじぃぃ。」

台詞をフェードアウトさせながら、鬼八は天へと去っていった。

たつお「こうして建てられたのが霜宮神社(しもみやじんじゃ)っちゃ。」

パヤオ「霜神社(しもじんじゃ)とも呼ばれとるばい。」

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霜神社鳥居
霜神社拝殿

たつお「そして火焚き神事やが、なんと59日間もおこなわれるんや。」

パヤオ「ばばっ! 59日間?!」

たつお「じゃが(そうだ)。火焚き乙女という、氏子の集落から、毎年、輪番(りんばん)で選ばれた女の子が、火焚き殿という建物の中で、火を守り続けるんや。ちょっと前までは、学校にも行かずに守っちょったが、二千年後は、地元の人が協力して、火の世話をしちょるみたいやな。」

火焚き乙女
火焚き神事1
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火焚き殿の鳥瞰
火焚き殿
火焚き殿近景

パヤオ「父上の尻拭いば、集落の人が二千年間もやっとぉと?」

たつお「そ・・・それは言わんでくんない・・・。」

そこに『たつお』の妻、阿蘇津媛(あそつひめ)(以下、あっちゃん)がやって来た。

あっちゃん「旦那様・・・。乙女が火の世話を開始する神事を『乙女入り』と言うんやじ。8月19日におこなわれる神事っちゃ。古式にのっとって、火を起こすんやじ。」

火起こし
乙女の火入れ
鬼八の首
火焚き殿に安置
煙
拝んでもらう鬼八

たつお「そして、9月15日に『温め綿入れ(ぬくめわたいれ)』がおこなわれるんやな?」

あっちゃん「じゃが(そうです)。温めた真綿(まわた)で、御神体を包むんやじ。」

パヤオ「母上? 終わる時も神事が有るとですか?」

あっちゃん「有るっちゃ。10月16日におこなわれる『乙女揚げ』という神事で、乙女と鬼八が火焚き殿という建物から出るんやじ。」

神社に帰ろう
もう少しで帰宅
乙女揚げ

たつお「そして、締めの神事として夜渡祭(よどまつり)が有るんや。」

パヤオ「夜渡祭?」

たつお「10月18日の夜から19日の早朝にかけて、神職による古代神楽や相撲の奉納が有るんや。神職と火焚き乙女の火渡りも有るじ。」

神楽殿
神楽
相撲
相撲2
火渡り?

パヤオ「尻拭いも楽じゃなかねぇ。」

たつお「パヤオ・・・。まこち(本当に)、それは言わんでくんない・・・。」

こうして、鬼八の祟りは収まり、再び稲が収穫できるようになったのであった。


そして、舞台は再び中つ国に戻る。

ヌンちゃん「めでたし、めでたし・・・やないか。汝(いまし)が報告に来るまでもなかったんやないか?」

あまっち「そ・・・それが、その後、物語に進展がありまして・・・。」

ヌンちゃん「な・・・なんや?」

あまっち「実は『たつお』ですが、9年後の紀元前568年、皇紀93年(綏靖天皇14)に・・・。」

ヌンちゃん「9年後・・・。もしかして!」

あまっち「し・・・死ぬんやじ。8月15日のことやじ。」

ヌンちゃん「親子二代でフライングかいなっ。覚えてない人は、エピソード82を見ておくんなはれ。」

あまっち「そういうことで、我(われ)は奥阿蘇(おくあそ)の草部(くさかべ)に戻るっちゃが。」

ヌンちゃん「これで、阿蘇開拓編も完結なんやな?」

あまっち「じゃが(そうです)。大王(おおきみ)も御達者でっ! また、会いましょう!」

ヌンちゃん「常世(とこよ:あの世)でなっ!・・・って、何を言わせてるんや!」

あまっち「言ったのは自分やないですか!」

ヌンちゃん「せやけどもな・・・。なんか、寂しいなぁ。」

あまっち「仕方なかです。それでは、これにて・・・。」

こうして、あまっちは、筑紫(ちくし:今の九州)に帰っていったのであった。





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