JW99 今日でお別れ
【安寧天皇編】エピソード10 今日でお別れ
甲斐国(かい・のくに)の開拓報告から、更に幾数年の時が流れた。
紀元前531年、皇紀130年(安寧天皇18)2月のある日のこと。
三代目天皇、安寧天皇(あんねいてんのう)こと磯城津彦玉手看尊(しきつひこたまてみ・のみこと)(以下、タマテ)のもとに、津守天忍男(つもり・の・あまおしお)(以下、アマオ)と葛城久多美(かずらき・の・くたみ)(以下、クタ)がやって来たのであった。
アマオ「大王(おおきみ)! つ・・・ついに、小野神社(おのじんじゃ)が創建されたで!」
クタ「左様。ついに、完成致しもうしたぞ。」
タマテ「アマオ、クタ・・・。読者のことを考えてください。」
アマオ・クタ「ど・・・読者ですか?」×2
タマテ「そうです。小野神社について、ちゃんと解説をしないと、分からないでしょう?」
アマオ「せ・・・せやったな。ほな、クタ。汝(なれ)が解説せえ。」
クタ「お・・・叔父上! 何の準備もせずにですか?!」
アマオ「大丈夫や。无謝志国(むさし・のくに)に創建された神社やでぇ・・・とか、いろいろ言うことあるやろ。无謝志国は、二千年後の埼玉県や東京都のあたりですぅ・・・とか。」
クタ「ほとんど言っておられまするが・・・。で・・・では、解説致しまする。小野神社は、二千年後の東京都多摩市(たまし)は一ノ宮に鎮座する神社で、祭神は天下春命(あめのしたはる・のみこと)にござりまする。創建は、今年(安寧天皇18)の2月にござりまする。」
タマテ「天下春命とは、どんな神様なんですか?」
アマオ「わてのひいじいちゃんの饒速日命(にぎはやひ・のみこと)が降臨した際に、御供した神様やで。せやから、わてらの一族や、同族の物部(もののべ)、尾張(おわり)の誰かが、創建したんやろうなぁ。」
クタ「无謝志の人々が、古(いにしえ)の時代から崇拝していた神様なのかもしれませぬぞ。」
アマオ「クタ・・・。それよりも大事なことが抜けてるでぇ。東京都府中市(ふちゅうし)の住吉町(すみよしちょう)にも小野神社が有るんや!」
タマテ「ど・・・どういうことですか?」
アマオ「多摩川の氾濫による水害で、遷座した結果、二つの社(やしろ)ができたとも言われてるし、どちらかが本社で、もう一方は分社・・・っちゅう説も有るんやで!」
タマテ「要するに・・・よく分からないんですね。」
クタ「ほとんど、叔父上が解説しておるではないですか・・・。」
こうして、小野神社も無事に創建され、更に二十年の歳月が流れた。
すなわち、紀元前511年、皇紀150年(安寧天皇38)12月6日、三代目天皇、安寧天皇(あんねいてんのう)ことタマテに最期の時が訪れようとしていたのである。
そこへ、日嗣皇子(ひつぎのみこ)の大日本彦耜友尊(おおやまとひこすきとも・のみこと)(以下、スッキー)がやって来た。
スッキー「大王(おおきみ)! 今日でお別れとは、まことにござりまするか!?」
タマテ「嘘を言っても仕方がないですからね・・・。」
続けて、長男の息石耳命(おきそみみ・のみこと)(以下、トコッチ)と三男の磯城津彦命(しきつひこ・のみこと)(以下、シキ)もやって来た。
トコッチ「大王! わしは、猛烈に悲しいですぞ!」
シキ「それを言うなら、我(われ)も同じにござる。」
タマテ「みなさん、兄弟仲良く、この国のために尽くすのですよ。」
スッキー・トコッチ・シキ「御意!」×3
シキ「お別れなので、孫の和知都美(わちつみ)(以下、ワチ)も連れて参りましたぞ。」
ワチ「わっちも悲しいでやんす!」
タマテ「孫の顔が拝めて、私は幸せ者ですね・・・。」
トコッチ「では、わしも娘を連れて来ましょうぞ!」
タマテ・スッキー・シキ・ワチ「えっ?!」×4
トコッチ「我が娘、天豊津媛(あまとよつひめ)にござる。トヨと呼んでくだされ。」
トヨ「おじい様! 天豊津にござりまする!」
タマテ「は・・・初の女の子じゃないですか?」
スッキー「父上? たしか、初代、神武天皇(じんむてんのう)の子供に、岐須美美(きすみみ)様という皇女(ひめみこ)がいたと思いますが・・・。」
タマテ「あれは作者の陰謀で、女ということにされたんですよ。詳しい性別が書かれていないから・・・とか言ってましたね。しかし、トヨは、正真正銘の皇女です。」
トヨ「えっ? それでは、わたくしは、初の皇女ということですか?」
タマテ「そういうことです。」
シキ「しかし、なにゆえ、これまで女の子が生まれて来なかったんでしょうか?」
タマテ「生まれているとは思いますが、古い時代のことなので、記録が残らなかったのでしょう。」
トコッチ「し・・・しばしお待ちくだされ。我が娘の名前が残っているということは?」
スッキー「何か重要な役どころなのやも・・・。」
トヨ「えっ? わたくしが?」
シキ「その可能性は高いですな。トヨとスッキー兄上が、ほぼ同年代というのも気になりまする。」
スッキー「同年代?」
トコッチ「そうじゃ。我(われ)と汝(なれ)は、年の差の離れた兄弟なのじゃ。」
スッキー「どうして、そのようなことが分かるのですか?」
トコッチ「それは言えん。」
スッキー「ええぇぇ!!??」
タマテ「まあまあ、それは追々、分かることだと思いますよ。」
スッキー「お・・・追々・・・ですか?」
タマテ「そうです。追々・・・です。では、そろそろ逝きましょうか・・・。ガクッ。」
スッキー・トコッチ・シキ「父上ぇぇ!!」×3
ワチ・トヨ「おじい様ぁぁ!!」×2
こうして、三代目天皇、安寧天皇は崩御(ほうぎょ)したのであった。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?