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JW89 そして神になる

【綏靖天皇編】エピソード17 そして神になる


紀元前549年、皇紀112年(綏靖天皇33)5月10日、第二代天皇、綏靖天皇(すいぜいてんのう)こと神渟名川耳尊(かんぬなかわみみ・のみこと)(以下、ヌンちゃん)は、ついに、その日を迎えようとしていた。

そこに三人の大后(おおきさき)がやって来た。

すなわち、五十鈴依媛(いすずよりひめ)(以下、イスズ)と川派媛(かわまたびめ)(以下、カワ)、糸織媛(いとりひめ)(以下、イト)の三名である。

そして、ついでに日嗣皇子(ひつぎのみ)の磯城津彦玉手看尊(しきつひこたまてみ・のみこと)(以下、タマテ)もやって来た。

イスズ「大王(おおきみ)。どうしたの? 浮かない顔して・・・。」

カワ「そうですよ。孫も生まれたというのに、寂しそうですね?」

イト「何かあったのであらしゃいますか?」

タマテ「ち・・・父上?」

ヌンちゃん「有るで。おおいに、有るで。実はな、今日で、お別れなんや。悲しいけど、しゃあないわな・・・。」

イスズ・カワ・イト・タマテ「ええぇぇ!!」×4

するとそこに、申食国政大夫(おすくにのまつりごともうすまちぎみ)の物部彦湯支(もののべ・の・ひこゆき)(以下、ユー)がやって来た。

ユー「大王。御安心くだされ。一つだけ、伝承が残ってまっせ。」

ヌンちゃん「ユー? 安心できる要素が、どこにも無いんやけど・・・。」

ユー「まあ、そう言わず・・・。伝承というか、伝説が残ってんねん。」

ヌンちゃん「どんな伝説なんや?」

ユー「人食い伝説でんがな。」

イスズ「はっ? ユー殿。人食いって、その・・・人を食べたってこと?」

ユー「そうだす。大王は人を食べたんだす。」

ヌンちゃん「な・・・何を言うてんねん。なんで、わてが人を食べなあかんのや!」

ユー「南北朝時代に書かれた『神道集(しんとうしゅう)』に、大王は人を食べるのが趣味で、朝夕に七人も食べて、みんなを怖がらせた・・・という記事が有るんや。」

タマテ「は・・・初耳です。」

ユー「これは誤解から生じたものやと思います。」

イト「誤解とは、どういうことにあらしゃいます?」

ユー「この書物を書いたんは、仏教関係者やねん。」

ヌンちゃん「仏教っちゅうたら、わての時代よりも後に、伝来してくる宗教やな?」

ユー「そうだす。せやから、この本、書いた奴らは、古代大和言葉(こだいやまとことば)を知らんかったんやと思います。」

イスズ「ヤマト言葉を知らなかったって?」

ユー「この書物に『聞食』という言葉が使われてるんですが、これは『きこしめす』と読むんや。」

カワ「そうですね。二千年後の言い方にすれば、人の意見を聞くとか、話を伺うとか、そんな感じの意味ですね。」

ヌンちゃん「ちょっと待てい! 確かに、わては、朝夕、七人の民(おおみたから)から話を聞いてるで! そのことが、いつしか、人食いになったっちゅうんか?!」

ユー「まさしく、その通りやねん。さっき『民』と書いて、『おおみたから』と読んではったやろ? それを知らんかったら、ただの『民(たみ)』やねん。それと同じように、『神道集』の著者は、『聞食』を、そのまま『食べるのを楽しむ』と解釈したみたいなんや。」

イト「ユー殿? 『食』を『食べる』と解釈するのは分かりますけど、『聞』を『聞く』やのうて、『楽しむ』と解釈したのは、どういうことにあらしゃいます?」

ユー「さすがは、イト様! 実は、仏教用語で『聞』という字には『楽しむ』っちゅう意味があるんですわ。香りを楽しむことを『香を聞く』と表現するみたいなんや。」

ヌンちゃん「まさか、唯一の伝承が、誤解に基づくものやなんて・・・。(´;ω;`)ウッ…。」

ユー「まあ、しゃあないですな。」

ヌンちゃん「しゃあないで済まされんで! わての名誉に関わるんやでっ!」

イスズ「まあまあ、この場で誤解が解けたんだから、それでいいじゃないの。」

ユー「ほな、最後に、大王を祀った神社を紹介しましょか。」

ヌンちゃん「わてを祀った神社? 阿蘇神社(あそじんじゃ)のことか?」

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阿蘇神社拝殿

ユー「それも有りますが、他にも、大王だけを祀った神社が有るんだす。」

ヌンちゃん「な・・・なんやて!?」

カワ「一つ目は、日置金凝神社(へきかなこりじんじゃ)ですね。熊本県山鹿市(やまがし)の方保田(かとうだ)にある神社ですよ。」

日置1
日置2
日置3
日置4
日置5
日置6
日置7
日置金凝神社鳥居
日置金凝神社拝殿

ヌンちゃん「く・・・熊本?」

イト「山鹿市には、他にも金凝神社があらしゃいます。それが、芋生金凝神社(いもうかなこりじんじゃ)にあらしゃいます。鹿北町(かほくちょう)の芋生(いもう)に鎮座しております。」

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芋生金凝神社鳥居
芋生金凝神社拝殿

ヌンちゃん「こっちも熊本・・・。」

タマテ「そして、最後に紹介するのが、今村神宮(いまむらじんぐう)です。熊本県南関町(なんかんちょう)の今(いま)という地区にある神社ですね。」

今村神宮1
今村神宮2
今村神宮3
今村神宮4
今村神宮5
今村神宮鳥居
今村神宮拝殿

ヌンちゃん「そして、こっちも熊本か・・・。阿蘇関連っちゅうことか?」

全体図

ユー「まあ、そんなところでしょうな。せやけど、金凝という言葉から、分かる事もあります。」

ヌンちゃん「わての別名になってる言葉やな? エピソード84.9で、金属加工の神様と紹介されてたなぁ。」

タマテ「そこから分かる事とは?」

ユー「金属加工っちゅうことは、農具が木製から青銅製に代わっていったことを表してるんやないかと思います。大王は、青銅製の農具を広めたんやないですかね? それで、金属加工の神様になったんやないかと・・・。」

ヌンちゃん「ほうかぁ。『おとん』は水稲耕作を広め、わては、青銅製農具を広めたっちゅうことか・・・。そないなこと言うてたら、とうとう、お迎えが来たみたいや。『タギシにいやん』に謝りに行かんとな・・・。タマテ・・・あとのこと頼んだでぇ・・・。ガクッ。」

タマテ・イスズ・カワ・イト・ユー「大王ぃぃ!!」×5

こうして、第二代天皇、綏靖天皇は崩御(ほうぎょ)したのであった。 

つづく



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