JW85.1 鬼八は二度死ぬ
【阿蘇開拓編】エピソード10 鬼八は二度死ぬ
紀元前577年、皇紀84年(綏靖天皇5)。
一人の男の子が産声を上げた。
磯城津彦玉手看尊(しきつひこたまてみ・のみこと)(以下、タマテ)である。
父親は第二代天皇、綏靖天皇(すいぜいてんのう)こと神渟名川耳尊(かんぬなかわみみ・のみこと)(以下、ヌンちゃん)である。
皇子(みこ)の名前についての解説の最中、奥阿蘇(おくあそ)から天彦命(あまつひこ・のみこと)(以下、あまっち)が来訪したのであった。
あまっち「今回はスピンオフということで、阿蘇(あそ)の物語を紹介するっちゃが。」
ヌンちゃん「な・・・なにがあったんや?!」
あまっち「それは・・・。」
ここで、舞台は阿蘇に移る。
それは、阿蘇の開拓が順調に進んでいる頃であった。
健磐龍命(たけいわたつ・のみこと)(以下、たつお)は、開拓の合間をぬって、弓矢の鍛錬にいそしんでいた。
たつお「よぉし! 往生岳(おうじょうだけ)から約10㎞離れた、あの石に向かって矢を放つっちゃ! 周囲20m、高さ10mを越える巨石やじ。良い鍛錬になるはずっちゃ。」
そこに家来の鬼八(きはち)がやって来た。
鬼八(きはち)「往生岳は『どんべん岳』とも呼ばれてるっちゃ。」
たつお「じゃが(そうだ)。ここから、あの遠く離れた石に矢を放つんや。それでは行くじ!」
勢いよく放たれた矢は、見事、石に突き刺さった。
鬼八(きはち)「お見事!」
たつお「よし。では、鬼八よ。取って参れっ。」
鬼八(きはち)「へ? 一本しか無かと?」
たつお「どうもそうらしいっちゃ。なして、一本しかないのか・・・我(われ)にも謎やじ。」
鬼八(きはち)「じゃ・・・じゃっどん、ここから10㎞も離れちょるじ。冗談やろ?」
たつお「何を言っちょるんや! 汝(いまし)は徒健(はしりたける)とも呼ばれるほどの健脚の持ち主やろ? 何も問題ないっちゃが。」
鬼八(きはち)「ええっ?!」
こうして、鬼八は、何度も山を下り、矢を拾っては、山を登るを繰り返した。
その回数はなんと・・・99回にも及んだ。
そして、記念すべき100回目。
鬼八(きはち)「も・・・もう体力の限界やじ。こ・・・こんげなこつ、するために復活したわけやない。完全に詐欺やろ・・・(´;ω;`)ウッ…。」
たつお「お~い! 早く取って来い!」
たつおの呑気な声を聞いて、ついに、鬼八の堪忍袋の尾が切れた。
鬼八(きはち)「こんなこつなら、ミケの旦那に討ち取られ、封印されちょった方がマシやったじ! もうやめたっ! こんげなモン、こうしてくれるっちゃが!」
鬼八は、100回目の矢を拾わず、足のつま先で蹴り上げた。
たつお「なっ! 何をするっちゃ!」
それを見て『たつお』も激怒。
二人の追いかけっこが始まった。
走りながらの解説である。
鬼八(きはち)「あの石が語源となって、周辺地域は的石(まといし)と呼ばれるようになったじ。二千年後の阿蘇市(あそし)にある地名っちゃが!」
たつお「的石そのものも残っちょるじ!」
鬼八(きはち)「わしは、それから、根子岳(ねこだけ)の方に逃げたんや!」
たつお「そして、熊本県高森町(たかもりちょう)の穿戸(うげど)に逃げたんやな!」
鬼八(きはち)「じゃが(そうだ)。岩を蹴破ったち、伝承が残っちょるんや! ちなみに、岩の名前は鬼八岩(きはちいわ)と呼ばれちょるじ!」
たつお「汝(いまし)が穴を開けた岩の中に、1707年(宝永4)、武田吉右衛門尉永勝(たけだ・きちえもんのじょう・ながかつ)という御仁が、羅漢像(らかんぞう)を安置したんやじ。」
そこに、時空を超えて、武田永勝がやって来た。
永勝「オル(わたし)が佐賀産の石を使って作ったとです。16体の羅漢像と阿弥陀如来(あみだにょらい)の座像と、観音菩薩(かんのんぼさつ)の座像を安置したとです。」
鬼八(きはち)「穿戸羅漢山(うげどらかんさん)の解説御苦労! じゃっどん、羅漢って何や?」
永勝「16人のブッダの弟子の事たい。 そいじゃ、お二人とも、きばりなっせ(がんばってね)!」
こうして、永勝は去っていった。
たつお「永勝に気を取られ過ぎたようやなっ! 覚悟っ!」
鬼八(きはち)「ここで角を切り落とされたようで、穿戸羅漢山の入り口には角宮(つのみや)が有るじ。『津の宮』とも呼ばれちょるんや! 覚えておいてくれよな!」
たつお「解説に気を取られ過ぎたようなやなっ! これで終いや! 鬼八、捕らえたりぃぃ!!」
鬼八(きはち)「わしは捕らえられた時に屁を八回こいたんや。そこで、八屁(やへ)となり、矢部(やべ)という地名になったんや。二千年後は山都町(やまとちょう)の矢部になっちょるじ!」
たつお「そして、我は、屁をこいたことに驚いて、鬼八を逃してしまったんやじ。」
鬼八(きはち)「じゃが(そうだ)。まだまだ捕まりません。」
たつお「こうして鬼八は、高千穂(たかちほ)の窓の瀬(まどのせ)まで逃げたんや。そして、この地で、最終決戦がおこなわれたんやじ!」
鬼八(きはち)「じゃが(そうだ)。最後は因縁の地、高千穂で決めるっちゃ。二千年後の高千穂町三田井(みたい)にある川岸の地名っちゃ。窓の瀬ダムが有るじ!」
たつお「解説御苦労っちゃ! 復活せぬよう、バラバラにするっちゃが! 覚悟っ!」
鬼八(きはち)「なんとぉぉ! こ・・・これで、終わらないっちゃ・・・。ま・・・末代まで、祟ってやるじ・・・。ガクッ。」
たつお「何とか討ち取ったな・・・。」
そこに『たつお』の妻、阿蘇津媛(あそつひめ)(以下、あっちゃん)と息子の速瓶玉命(はやみかたま・のみこと)(以下、パヤオ)がやって来た。
あっちゃん「旦那様・・・。なんてことを・・・。」
パヤオ「そうたいっ。そぎゃんこつして、鬼八が、むぞかぁ(可哀そうだよ)。」
たつお「仕方なか。こんげな伝承が残っちょるんや。じゃっどん、祟りって何やろ?」
それから、阿蘇の地で不可解な現象が起こるようになった。
次回につづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?