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JW98 甲斐から来た男

【安寧天皇編】エピソード9 甲斐から来た男


前回は、先代の綏靖天皇(すいぜいてんのう)を祀(まつ)った神社を紹介させてもらった。

しかし、それだけでは終わらないのであった。

ここで、三代目天皇、安寧天皇(あんねいてんのう)こと磯城津彦玉手看尊(しきつひこたまてみ・のみこと)(以下、タマテ)が過敏に反応した。

タマテ「そ・・・それだけでは終わらない・・・とは、どういうことでしょう?」

それは、ある男の来訪と共に始まる。

男の名は、向山土木毘古王(むこうやま・とほひこ・おう)(以下、土木)。

唐突な彼の出現に、タマテは狼狽(ろうばい)するのであった。

タマテ「だ・・・誰ですか?」

土木(とほ)「我(われ)は、向山土木毘古王(むこうやま・とほひこ・おう)にござんす。甲斐国(かい・のくに)から、やって参りました。」

タマテ「甲斐? 二千年後の山梨県のことですね?」

土木(とほ)「その通りにござんす。甲斐国の開拓について、報告に参った次第。」

タマテ「甲斐国の開拓? 初耳ですが?」

土木(とほ)「その通り。我は、『記紀』にも『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』にも書かれなんだ、甲斐国の伝承だけに登場する男なんでござんす。」

タマテ「甲斐国の伝承・・・ですか?」

土木(とほ)「では、語るっちゃあ(語りましょう)。紀元前561年、皇紀100年(綏靖天皇21)に、先代の綏靖天皇に命じられ、家来の佐々真武(ささまたけ?)、長田足(おさだたらし?)、丹後弁尼(たんごのべんね?)と千名の人夫と共に、甲斐国の開拓に向かったんさよぉ(ですよ)。」

甲斐へ

タマテ「そ・・・そんなことがあったんですか?」

そこに、葛城久多美(かずらき・の・くたみ)(以下、クタ)と物部大禰(もののべ・の・おおね)がやって来て、解説に加わった。

クタ「土木様は、神武天皇(じんむてんのう)の後裔(こうえい)と伝わっておりまする。神八井耳命(かんやいみみ・のみこと)の息子ではないでしょうか・・・。」

土木毘古王の系図?

タマテ「カンヤ伯父上の息子・・・ですか?」

土木(とほ)「詳しいことは書かれてないんで、よく分からんが、神武天皇の後裔という表現ゆえ、ほうずら(そうだろう)。」

大禰(おおね)「それで、甲斐国の開拓は順調に進んだんか?」

土木(とほ)「ほう(そう)。苗敷山(なえしきさん)に住む、六度仙人(りくどせんにん?)という別名を持つ、去来王子(きょらいおうじ?)という豪族や、姥口山(うばぐちやま)に住む、山祇右左弁羅(やまじみうさべら)の協力を得たんさよぉ。」

苗敷山0
苗敷山1
苗敷山2
苗敷山3
苗敷山4
姥口山0
姥口山1
姥口山2
姥口山3
二人の豪族

タマテ「地元の協力を得ることに成功したんですね。」

土木(とほ)「ほうです(そうです)。そして、紀元前554年、皇紀107年(綏靖天皇28)に、鰍沢(かじかざわ)の南方にある、禹之瀬(うのせ)というところを開削(かいさく)して、湖の水を富士川(ふじがわ)に流し、農地を作ったんでごいす。甲府盆地(こうふぼんち)は、もともと湖だったんさよぉ。」

禹之瀬0
甲斐湖から甲府盆地へ
禹之瀬1
禹之瀬2
禹之瀬3
禹之瀬4
禹之瀬近景

大禰(おおね)「開削して水を流した? 阿蘇山(あそざん)の話に似てるなぁ。」

土木(とほ)「ほうなん(そうなの)?」

タマテ「エピソード84.8で語られているんですが、湖の水を排出して、農地となる土地を開拓してるんですよ。」

土木(とほ)「なるほど。同じようなことじゃん(ことだね)。ちなみに、開削完了は、作業開始から、三年後の紀元前551年、皇紀110年(綏靖天皇31)のことでごいす(ございます)。」

タマテ「父上がおかくれになる、二年前に完成してるんですね。」

土木(とほ)「ほうです(そうです)。そして、今日から数十年後の紀元前507年、皇紀154年(懿徳天皇4)8月14日には・・・。」

タマテ「8月14日?」

土木(とほ)「我(われ)が死ぬんさよぉ・・・(´;ω;`)ウッ…。」

タマテ「ま・・・まさかのフライングですか?」

土木(とほ)「仕方ないずら。定めずら。」

クタ「ちなみに、大宮山(おおみややま?)に葬られる予定ですぞ。」

大禰(おおね)「せや。その後、二十一代目の雄略天皇(ゆうりゃくてんのう)の時代になって、改葬されるんや。458年、皇紀1118年(雄略天皇2)のことや。」

クタ「二千年後、天神山古墳(てんじんやまこふん)と呼ばれる陵(みささぎ)にござる。」

天神山古墳0
天神山古墳1
天神山古墳2
天神山古墳3
天神山古墳近景

土木(とほ)「ほうけぇ(そうなんだ)。」

タマテ「か・・・かなり先のことまで分かってしまいましたね。」

土木(とほ)「仕方ないずら。ちなみに、甲府市(こうふし)の下向山町(しもむこうやまちょう)に、開拓の伝承を伝える、佐久神社(さくじんじゃ)が鎮座してるさよぉ。大宮山に建てられた神社でごいす。」

佐久神社0
佐久神社1
佐久神社2
佐久神社鳥居
佐久神社拝殿
大宮山と天神山

タマテ「なるほど。その神社で、二千年間、語り継がれていくんですね・・・。」

土木(とほ)「ほうです(そうです)。あと、我は、村も作ったんさよぉ。二千年後の甲府市の朝気(あさけ)の事と言われていて、そこに、我を守護神とした神社が建ってるんさよぉ。それが、熊野神社(くまのじんじゃ)でござんす。」

熊野神社0
熊野神社1
熊野神社2
熊野神社3
熊野神社4
熊野神社5
熊野神社鳥居
熊野神社拝殿

クタ「村の鎮守みたいなものですな。」

土木(とほ)「それと、白山姫命(しらやまひめ・のみこと)を甲斐奈山(かいなやま)の頂上に祀ったんさよぉ。これが、甲斐奈神社(かいなじんじゃ)の起源でごいす。」

大禰(おおね)「甲斐奈山は、二千年後の愛宕山(あたごやま)のことやね?」

土木(とほ)「ほう(そう)。二千年後は、平野部の甲府市中央という地区に遷座してるんさよぉ。」

甲斐奈神社0
甲斐奈神社1
甲斐奈神社2
甲斐奈神社3
甲斐奈神社4
甲斐奈神社鳥居
甲斐奈神社拝殿

タマテ「しかし、ヤマト政権は、父上の代で、甲斐国まで広がっていたんですね・・・。」

土木(とほ)「では、報告も終わったし、帰るっちゃあ。」

タマテ「そんなこと仰らず、ゆっくりなさっていってください。」

土木(とほ)「お気持ちは嬉しいですが、甲斐が気になるんでごいす。」

タマテ「そ・・・そうですか。では、お気をつけて・・・。」

こうして、甲斐国開拓報告を終えた、向山土木毘古王は任地に帰っていったのであった。

つづく



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