メールチェックをやめよう【魔法の4秒】20
最近、1週間のハイテク抜きのバカンスをとって家族旅行に行った。パソコンともスマホともメールとも無縁の日々だった。
旅行が終わってオフィスへ戻り、パソコンを開くと、何百通ものメールが待ち受けていた。ぼくはひとつ深呼吸してメールチェックに取りかかった。3時間後には、1週間分のメッセージが詰まっていたメールボックスは空っぽになった。
ところが次の日も、またその次の日もずっと、パソコンやスマホから一日分のPCメールをチェックするだけでも、かかる時間は3時間どころではすまなかった。その中には送信・返信・また送信、というやりとりに費やした時間も含まれているが、それでも休暇後第1日と比べれば劇的な差がある。
結局ぼくは、メールチェックが自分にとって気晴らしの手段になっているという結論に達した。ちょっとでも落ち着かなくなるとすぐメールをチェックする。原稿を書いていて壁にぶつかったとき、電話で話していて退屈してきたとき、エレベーターに乗っているとき、会議中にイライラしてきたとき、誰かとの話し合いを控えて不安なとき、ちょっとメールでもチェックしようか、ということになる。
メールチェックはいつでもどこでもすぐできる、満たされない状態からの逃避手段なのだ。
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メールの抗しがたい魅力は、まさにその抗しがたさにある。メールボックスで何がぼくを待ち受けているだろうか? ワクワクする。それでいて人目をはばかることもなく、責任感のあるイメージすらある。なんたって仕事なんだから。重要なメッセージを見逃してはいけない。返信が遅れてはまずい。
しかし、メールチェックはいまや深刻な問題だ。メールチェックをコントロールしないと、メールチェックがこっちをコントロールするようになる。
ぼくの知り合いはみんな、メールが多すぎると愚痴を言う。メールは休みなしになだれこんでくる。ぼくたちはまるで中毒患者のように絶え間なくメールをチェックし、会議、会話、プライベートな時間その他、目の前にあるありとあらゆることから逃避する。
問題はメールが多いことだけではない。メールの処理効率が悪いことも問題だ。PCメールをスマホでチェックするたびに時間が無駄になる。スマホをひっぱり出す時間、メールを表示させる時間、新着メールに返信せずにただ読むだけの時間、以前届いてまだ返信していなかったメールを再読する時間。あとでパソコンを開いたときにもまた再読する。
メールの処理効率が悪いせいで、いろいろと混乱が起きている。『USAトゥデイ』紙によれば、被雇用者が違法な超過勤務をさせられたとの理由で雇用主を訴える訴訟が2008年以来、32%増加しているそうだ。
最大の理由は、スマホ等のデバイスに転送されるPCメールが、プライベートな時間にまで侵入していることにあるという。
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問題の解決策は、ぼくのバカンス後のメール体験に隠されている。パソコンに届いたメールを複数のデバイスからたえずチェックするかわりに、1日のうち、パソコンに向かっている時間のどこかにメールチェック専用時間を設けよう。それ以外の時間はすべてPCメールお休み時間とする。
パソコンに届いたメールはパソコンに向かってまとめて返信するのがいちばん効率がよい。パソコンの方がスピーディーに操作できるし、必要とあらば各種ファイルにアクセスできるし、カレンダー等のほかのプログラムへもすぐに移動できる。
しかも最初からメールチェックに専念するつもりでそこにいるのだから、脇目もふらずメールに取り組める。集中できるし、バリバリ処理できるし、ひとつの作業から別の作業へと間をおかずに移行できる。ぼくは1日3回各30分、パソコンに向かってまとめてメール処理することにしている。午前中に一度、お昼頃に一度、そして1日の終わりにパソコンをシャットダウンする前に一度。タイマーをセットしておき、鳴ったらメールソフトを閉じる。
あらかじめ決めたメール時間以外はメールを開かない。どんなデバイスからも、次のメール時間が来るまでは開かない。PCメールをスマホからチェックするのはもうやめた。一日中パソコンに向かう機会がないときは別として。
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メールにいちばんぴったりくるルールは「オンとオフ」だ。メールチェックするときはメールだけに集中しよう。ほかのことは一切しないこと。そしてメール時間以外のときは一切メールは開かないこと。メールチェックしたいという衝動に駆られたら─しょっちゅう駆られるが─―深呼吸して、浮かんできた感情を味わおう。
それから、何であれ、いましていることに集中しよう。たとえそれが「ただ待つ」ことでもだ。そして思考をリラックスさせよう。
その結果、ぼくはどうなったか? 何ひとつ見逃さなくなった。1日中、落ち着いてすっきりと頭の冴えた状態で過ごせるようになった。そのときそのとき、周囲で起きていることに気を散らさず集中できるようになった。
以前よりも人の話をよく聞くようになり、これまでは気づかなかったような、他人のかすかなリアクションにも気づくようになり、自由に思考をさまよわせて、前より多くのアイデアを思いつくようになった。以前よりも生産性がアップし、感受性が鋭くなり、クリエイティブになり、そしてハッピーになった。
おまけにメールチェックもこれまでよりスピーディーになり、注意深くなった。CCすべきでない相手にCCしたり、まだ書いている途中で送信してしまったり、言うべきでないことを言ってしまったりといった、急いては事をし損じる的ミスもしなくなった。つまり以前より効率が上がった。
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でも、すぐに返信が必要なメールが来たらどうする?
その心配こそ、メール中毒症状の悪化を正当化する間違った主張である。新たなメールチェック方式にしてからというもの、ぼくはまだ誰も怒らせていない。それどころか、誰もぼくのささやかなメール休暇に気づいてもいないと思う。なぜなら、数時間以内に返信すればそれで十分だからだ。
万一、めったにないとは思うが数分以内に返信が必要な場合は、相手は携帯メールや電話などほかの方法で連絡してくるだろう。
いまやPCメールはぼくにとって大きな負担ではなくなった。いまでは一日一時間半をパソコンでのメールチェックにあてる。ぼくにはこれが適正量だ。あなたの場合、1日あたりの適正量はこれより多いかもしれないし、少ないかもしれない。実験してみて、適正時間をスケジュールに組みこもう。
最大の難関は、メールお休み時間中にメールチェックしたいという誘惑に逆らえるかどうかだ。
そこでぼくからのアドバイス。
メールチェックしたくてむずむずしてきたら、かわりに自分をチェックしよう。自分はいま何をしているところなのか。どういう心境なのか。その上で深呼吸し、リラックスして、集中を取り戻そう。
そうすれば慌しい平日の真っ只中でも、束の間、バカンス気分にひたれるかもしれない。
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