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【声にならない声を聴く】 #33

”子どもと遊ぶ”が仕事の
小児の作業療法士ミキティです。

私には
”知ってもらいたい家族がいる”

私が関わる障がいを持つ
お子さんとその家族。
その家族のストーリーから
いつも沢山の学びがあります。

その一部を皆さんに
知ってもらいたくて綴っています。
(過去の投稿はコチラで読めます)

今回のテーマ:
「ママ、聞こえた?」

1.その日は何かが違っていた

あれは忘れもしない
7回目の訪問リハ。

手話歌が始まる。
いつも見ただけで嫌がる
ふわふわの白い羽が
体に触れた時、なぜか その日は
受け入れる事が出来た。

不思議な事は続く。
ハンモックに座っていると
普段、近づいてこない
ヒマレちゃんから
近づいてきた。

私の頭をぐちゃぐちゃにする。
小さい掌で私の両頬を包む。

私の目をじっと見る。
急に口を大きく開けて、
右手の人差し指を伸ばし、
口先へ出し入れするように
動かしている。

まるで
何かを訴えるように…

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2.声にならない声を伝える

何がなんだかわからなかった。
「ヒマちゃん、何かママに言って欲しいの?」
ヒマレちゃんの口元で揺れる指はまだ続く。
ヒマレちゃんはお話ができない女の子だ。

「わかった、じゃあ、ヒマちゃんの
代わりに言うよ。いい? 
” ママっ、ありがとう!!” 」

その時だ。
ヒマちゃんの指の動きが一瞬止まり、
続いて私の胸元をドンドンドンと叩く。
それは、まるでこんな風に…
『もっと、もっと、もっと言って!』

続けて伝える。
ヒマちゃんが言いたかった事。
「いっつもお世話してくれてありがとう」
「ママ、大好き…」

言いながら、私の目からは
涙がポロポロと流れ落ちる。
そばにいるママの嗚咽が聞こえる。

『ヒマレの声が…
初めて聞こえたような気がします…』

この時、
ワタシは子ども達の声にならない声を
代わりに伝えたいと心から思った。

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3.ママとヒマレちゃん

『午後2時17分、おめでとうございます』

ヒマレちゃんが生まれた時間。
それは偶然にも
ママとパパの結婚記念日の
数字と同じだった。

ヒマレちゃんからママへの
一番最初のサプライズだ。

緊急帝王切開で
生まれた直後、先生が
ヒマレちゃんの頬と
ママの頬を合わせてくれた。

ヒマレちゃんの頬が
とっても温かい。
「生きている、大丈夫。」

何度も何度も、お腹の中で必死で
流れてしまわないように、ぎゅっと
ママにしがみついて過ごしてきたのだろう。

「ただただ生きて
生まれてきてくれた事に
感謝の気持ちで一杯だった。」

念願だった女の子。
やっとやっと会えた。

この日が来るまで
本当に長かった。

「11番目染色体異常」
少し前、二分脊椎の手術をした。
この先もどんな合併症がくるか
わからない。

日本では症例がなく、
ヒマレちゃんは
現在、研究対象になっている。

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4.お兄ちゃん

「早く妹が、歩いたり、食べたり
しゃべったりできますように」

可愛いイラストを添えた
短冊が飾ってある。
お兄ちゃんが2年前の七夕に
そう願って書いた。

思いは少しずつ届き、
今は歩ける様になった。

お兄ちゃんに聴く。

「ひまちゃんが、何かお兄ちゃんに
話そうとしているのわかる?」

『あっ、うん……、あそぼって…』

ママはヒマレちゃんを妊娠してから
出産まで入退院や絶対安静を繰り返した。

そのせいか、当時のお兄ちゃんに
妹ができるという実感は
あまり湧かなかった。

当時4歳だった、お兄ちゃんは
突然、自宅にやってきた
小さなヒマレちゃんに
少し戸惑ったそうだ。

「困った事はないの?」
『いろんなものを
投げられてぶつけられること…かな?』
と、ちょっと苦笑いしながら
教えてくれた。

先日も硬いものが顔面に
直撃し怪我をした。
それでもヒマレちゃんを
受け入れるお兄ちゃん。

「ヒマレちゃんのどこが好き?」
『かおかな…』

照れくさそうに話す。

お兄ちゃんは
いつ、どんな時も優しく守ってくれる
ヒマレちゃんの騎士のような存在なのだ。

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5.振り返る

日本で誰1人として同じ疾患の人がいない。
言い換えれば、
まるで太陽のように一つで稀な存在だ。

だから”陽稀”(ひまれ)と名付けた。

母子手帳をパラパラとめくる。

「小さいだけでとっても元気!
それだけで100点満点。」

「なんとか目標の30週までこれた。
よくここまで頑張ってくれました。」

「点滴が始まった。
なかなか大きくなりません。
お母さん、心配で涙が出そうです。」

「もっと、強くなりたいです…」

そこには10週目から2度の
絨毛膜下血腫で大出血し、
胎児発育不全(FGR)で
管理入院、24時間絶対安静、
自宅療養を繰り返す
ママの言葉がびっしり綴られている。

不安と必死で闘う
心の叫びだった。

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6.ママからヒマレちゃんへ


お兄ちゃんに陽稀という妹がいて
陽稀には優しいお兄ちゃんがいる。
2人で笑っている姿を見ていると
涙が出そうな位、幸せです。

当たり前のことなんて
何一つないのだと
ひまに教えてもらいました。

ひま、生まれてきてくれて
ありがとう。

生きる事は温かいことだと
教えてくれてありがとう。

沢山の奇跡を教えてくれて
ありがとう。

大切な事に気づかせてくれて
ありがとう。

いろんな人と出会わせてくれて
ありがとう。

ありのままを受け入れる事を
教えてくれてありがとう。

笑ってくれてありがとう。

これからもゆっくり一緒に
歩んで行こうね。

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撮影 福添 麻美



作業療法士(OT)は 実は子ども達のサポートも しているリハビリ職。 これらの記事が読んで頂いた方の 子育て・療育のヒントになればと思っています。 子ども達は今この瞬間が 生きてきた人生で一番成長している時。 記事を通してみなさんと 関わる事が出来たら嬉しいです✨