GOMEN...
ほんの最近までどこか遠い国の、自分には関係のない話のような気がしていた。その新種のウィルスはあれよあれよという間にこの国にも広まってしまった。今や日々アップデートされるニュースに誰もが釘付け。まるで感染者の数を確認し合うことがその日の挨拶代わりのよう。
娘の大学は先週末で休校になった。一つの大きなプロジェクを終えた直後でそれは良かったのだが。。今日の情報では来月18日まではこの措置が続くらしい。
息子の高校は水曜日まで授業がある予定だった。(その後休校は火曜日に前倒しになった。)とはいえ、この期間に登校しなかったとしても、欠席扱いにはならないということだった。地下鉄やバスを乗り継いで遠くから登校する生徒は感染のリスクが高いから、という学校側の配慮だったと思う。
自宅から息子の高校へは徒歩で12、3分。いつも誘い合わせて登校する友達も休まない、とのことから、息子もギリギリまで学校に行くつもりにしていた。
月曜日の朝、7時前。息子はいつも通りに家を出た。ベランダから下を見下ろすと、我が家から2軒先のアパートから来た友達との凸凹コンビが道を歩いているのが見えた。2人が角を曲がるのを確認すると、私はいつもウォーキングをする公園に行ってみようかな、と思い立った。その日は青空の広がる良い天気。嫌な話題から目を逸らすべく、TVのニュースを切った。
公園にはいつもと変わらぬ日常があった。
「あら、コロナさんがあなたを探してたわよ。」
との冗談が飛び交ったり、知人と密着できないご時世でエアハグをする姿が見られた程度で。
(コロナを防げ!日本の習慣に従って!)
公園に着いてどれくらいの時間が経っただろうか、息子から一件のテキストメッセージが送られて来た。
「もう帰りたい」
全く予想できないことではなかった。それにしても男の子のメッセージは何とも素っ気ない。素っ気ないメッセージには素っ気ない返信で応戦。
「はい、何でしょう?」
私は歩きながら送れる、スマホの定型文を送り返した。
もちろん、そんな返信に息子が納得するわけがなかった。
そのあとは「新しく習うことが何もない」、「教室には生徒が10人ほどしかいない」、「授業ではなくただビデオを観ているだけ」だの矢継ぎ早にメッセージを送って来た。
「学校に電話をして、ここから解放して」
息子があまりにも熱心に頼んできたので少し面倒になり「今、家にいないし、学校への掛け合いはお父さんに言いなさい」、と夫に責任転嫁した。
ウォーキングを終えて帰宅、事の顛末を娘に話した。すると娘は、
「学校から出たらどうせ真っ直ぐ家には帰って来ないよ。友達と一緒なんでしょう?」
と言った。今のご時世でフラフラ遊びに行ける場所もあるまいし、大きな鞄も背負っているから、まさか!とも思った。でも、この高校生男子は何をしでかすかわからない。一抹の不安がよぎった。
しばらくして息子から電話があった。
「今から学校を出るけど友達と...」
それ来た!
「一体何を考えているの?こんなご時世なんだから寄り道しないでさっさと帰って来なさい!そうでないなら教室に戻りなさい!」とつい頭に血が上った。
「でも友達と...」
娘のようには口が達者ではない息子が何か口籠るも、
「いいね、帰って来るのよ!」
と、とどめを刺して、一方的に電話を切った。
娘がニヤニヤしながらこう言った。
「ね、やっぱりそうだったでしょう?」
10分ちょっとで帰って来られるはずなのに、果たして息子は時間通りには帰って来なかった。やっぱり。小学生なら母の言いつけは絶対なはずなのに、高校生男子はそうではないのだ。(個人差はあるかも知れないが。)こんな非常事態下でもそうなのだな。心底がっかりした。
息子が帰って来たら何と言おう。午後は日本語の授業があるから昼食までには戻るはず。それを忘れるようなら。。もはや悪いことしか頭に浮かばなかった。
学校を出て30分ほどした頃、息子がアパート下のインターフォンから電話をして来た。
「友達を一人連れて来た。彼のお母さんが迎えに来るまでうちで待ってもらうからね。」
「!?」
事前の連絡通り、二人の高校生男子が上がって来た。後で訊いたところ、その友達は今年同じ高校に入って来た、中学時代の友達だそうだ。
「どこかに遊びに行ってたんじゃないの?」
「違うよ、友達が銀行に行く必要があったから、ネットで探して学校から一番近いところに行ったんだよ。何であんなに怒ってたの?」
「だってただ出かけるって言うから。。」
「銀行にって言ったのに怒って電話を切っちゃって。」
ありゃー、やってしまった!娘に言われた言葉が頭から離れず、息子の説明を最後まで聞いていなかった。さすがにこれは平謝りに謝るしかなかった。
「ごめん、ごめん。。」
幸い息子はそのことに対しては全く腹を立てているようには見えず、あっさりとしていた。それどころか、連れてきた友達とは社交的に感じ良く会話をしていて、好青年にさえ見えた。母にはぶっきらぼうこの上なく、問いかけにだってまともに応えないことも多いのに。。
そういえば日本語学校の林間学校でも先生に褒められていたっけ。友達想いだし、良く働くと。家でのダラダラしている姿だけが息子の全てではなかったのだ。
へぇ、こんな一面もあるんだな、と改めて思った。
その日1日、息子に言った「ごめん」と言う言葉が頭の中でこだましていた。夕飯のハンバーグの種をこねている間も、味噌汁の白菜を刻んでいる時も。でもそれはちっとも嫌な感じではなかった。
子育ては子供が大きくなったらなったで心配事が尽きない。早く解放されたいと思うことも多いけれど、こんな良いこともあるのだな、と改めて思った。
今日現在、息子の高校の授業再開がいつになるかは知らされていない。とりあえず来週からオンラインによるHome Schoolが始まるそうだ。
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