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私だけのこっそりハート

ニュージーランド生活25日目。
天気、晴れ。気温18度。夏!って感じ。カーディガンは手放せないけど。

朝は雨がしとしと降っていて、でも洗濯をしたかったから悩んだ。ニュージーランドはすぐ天気が変わる。第六感が「洗濯せよ」と告げる。思い切って洗濯機を回してみた。

朝イチで取り掛かる仕事を終わらせて、芝生の上にラックを広げて洗濯物を干す。空はまだどんよりしているけれど、私の第六感が「もうすぐ晴れる」と告げているので、仕方がない。洗濯物をフワッと広げて干す。

午前中は畑仕事。今日はニンジンの収穫。ビニールハウスの中に入って作業していると、曇り空でもムシムシとしてくる。じんわりと汗をかいてきたので、一度外に出て空気を吸うと、雲の隙間から太陽が顔を覗かせた。


あっ、と思うが早いか太陽はピカピカと輝きだし、瞬く間に夏空になった。
私の第六感が誇らしげに笑っている。

太陽をたっぷり浴びながら一仕事を終わらせて、お昼休みにする。用意してもらったお弁当を食べて、パソコンでの作業を進める。

せっかく天気もいいし、フラットホワイト飲みたいな。キープカップ(タンブラーみたいなもの、テイクアウト用に持っていく)を片手に、フラットホワイトの神様に会いにいくことにした。

お店に着くと、神様は常連っぽいお客さんとサーフィンの話をしていた。さすがビーチで有名な町。ちょっとだけサーフィンをかじったことがある程度の私には、なんとなくは分かるけれど、よくわからない専門的な話が続く。

常連さんのコーヒーを準備し終わった後、神様は私に笑顔で「Hi, how are you doing?」と聞いてくれた。


「フラットホワイトください、Largeサイズで。あ、キープカップ持ってきたよ!」「おっけー、今日はコーヒーだけ?何か他に食べない?」「お弁当食べてきちゃったから・・・」「おっけ。ポイントカードある?はーい、じゃあちょっと待っててな」

ミルクをスチームさせる音に耳をすませ、海の町みたいな音楽にぼんやりと意識を向ける。チルって言葉が似合うカフェだなあ、なんてことを考えていると、神様は私のキープカップを持ってきてくれた。

「はーい、どうぞ」

なんだかニコニコ、というか、ニヤニヤしている。唇の端を片方だけ上げて「へへっ」と笑っている。よく見ると、右手にはラテの入ったキープカップ、左手にはキープカップの蓋。あれ?どうして蓋、開けたまま?

ありがとう、と言って受け取ろうとすると、神様は唇を上げたまま、私に「見て」と言って右手のカップを差し出した。


え!わあ!ハートだ!

前回フラットホワイトをテイクアウトで頼んだ時(その時は神様じゃなくて、他のお姉さんだった)、こっそり蓋を開けて中を確認したのだけれど、そこには何も描かれていなかった。

そうだよね、テイクアウトだもん。カップの蓋はすぐ閉めるから、ラテアートなんて関係ないよね。と納得していた。ちょっとだけ期待していたのは、ないしょ。


なのに、神様!あなたって人は!

彼はやっぱりどうしたって神様だ。思わず「Lovely!!」と声を上げてしまった私に、「Enjoy your coffee」と声をかけてくれた。るんるんでコーヒーを受け取り、Have a nice dayと告げて、お店を後にした。


今日は太陽の下でよく働いたと思う。一生懸命、夢中になって働いた。ちょっと疲れた。でもコツコツ働いた。

一生懸命に働いているんだけれど、不意に将来のことが頭をよぎって、少しだけ不安になる。これからどうなるんだろう、なんて思っちゃったりもした。少しだけ、気持ちがよわよわになっていた。

でも、いたずらな笑顔を浮かべて、ハートを描いてくれる人がいる。一杯のコーヒーで、人をしあわせにさせてしまう神様がいる。

私、まだまだ大丈夫だ!
日常の中でしあわせにたくさん出会えるのだから、大丈夫に決まっている。

帰り道、カップの中のハートが崩れないよう、ゆっくりと歩いた。
私だけのハート。ほかの人は誰も知らない、こっそりのハート。

今日も生きたね。



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