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海の底に寝そべるマンモスのいのち

ニュージーランド生活22日目。
天気、くもり時々晴れ。最高気温18度。過ごしやすい。サンダルにデニム、トレーナーという季節感バグった服装。

今日はお休み。初めてのお休み。昨日の夜からずっとわくわくしていた。
昨日の私のためにも、最高のお休みにしなければならない。


まずはお洗濯。空はまだちょっと雲が多いけれど、午後にはきっと晴れてくれると信じて、外に干す。芝生の上にラックを置き、そこに並べる。

さーて、なにしよう!お休みは始まったばかり。最近ちょっとずつ取り組んでいることに、時間をかけて取り組もう、と思ったら急にコーヒーが飲みたくなった。

何か集中して作業する時、コーヒーがないとだめ。買いに行くかあ、と思って時計を見る。近くのちっちゃなスーパーならもう開いてる。インスタントでもいいから、コーヒーが欲しい。


てくてく歩いて向かうと、朝とは思えないほど店内は賑わっていた。旅の途中のバイカーや近所のワーカーでごった返している。みんな、ホットスナックに群がっている。わあ、確かに、美味しそう。誘惑に負けてチキンを1つ頼んでしまった。朝なのに。でも許されるのです。なぜなら、お休みだから。


お目当てのコーヒーは見つからなかったけれど、ボトルに入った得体の知れないカフェオレを見つけた。

MAMMOTH SUPPLY CO.の(ミルクたっぷり)アイスコーヒー

なんだか身体に悪そうなパッケージをしているけれど、成分を見る限り、プロテインに特化しているカフェラテらしい。なんだそれ。とりあえず普通のカフェラテを選ぶ。

帰ってから調べてわかったことは、マンモスのように生きる男用に開発されたコーヒーらしい。なんだそれ。でもサイトの文章がとてもキュートだったので、気になる方はどうぞ。

OUR DAYS, ONCE FILLED WITH CABIN BUILDING OR HUNTING SABER-TOOTHED TIGERS, ARE NOW SPENT IRONING SHIRTS AND CLEARING GUTTERS. WE COULD ACCEPT THIS NEW REALITY. OR, WE COULD EMBRACE IT.
ざっくり訳:かつては小屋を建てたりサーバルタイガーを狩っていた俺たちの日々は、今ではシャツにアイロンをかけたり排水溝を掃除するのに時間を費やしてんで。まあ、この新しい現実を受け入れられるし、認められるやんな(なんだそれ)

https://www.mammothsupply.co.nz/

なんだかよくわからないけれど、ファンになりそうです。マンモスサプライコーヒー。マンモスになりたい気持ちがしてきた。


さてお買い物。コーヒーのついでにクッキーをカゴに放り込む。ニュージーランドはチョコチャンクのクッキーがうっとりするほど美味しい。(クッキーに関してはまた別の日に書きたい)


レジに向かうとお姉さんが「How are you?」と聞いてくれて、お休みのせいで少しだけ浮かれた私は、すっかり気分が上がってしまった。

「今日はお休みなの!しかも初めてのお休み!最近引っ越してきたんだけど、ちょっと慣れてきた気がする!」と興奮する私に「すてき!最高の休みにしなきゃね!」と笑顔で応えてくれた。

お姉さんのためにも、最高のお休みにしなければならない。私のお休みはもう、私だけのものではなくなった。

買ってきたカフェラテとクッキーをかじりながら、しばし作業。没頭するのは気持ちがいいな。最高のお休みだ。




午後になると太陽が顔を出し始めたので、ビーチへ向かうことに。私のお休みはいつだって、海とコーヒーと読書でできている。コーヒー持って行こう。カフェに寄らなきゃ。

タンブラーを持って行った。ついでにマフィンも買った。だってお休みなので。お休みを最高に楽しむ権利が、私にはある。フラットホワイトの神様はいなかった。


森みたいな小道を抜けて、ビーチに向かう。途中でうさぎがいた。野に住んでいるのかな、茂みの奥に駆けて行った。森でうさぎさんに出会うなんて、最高のお休みらしくて良い。


15分ほど小道を歩くと、ビーチにたどり着いた。うーむ!曇ってる!でも許せちゃう、だって今日はお休みだから。

こちらのビーチはブラックサンド。黒い砂で雰囲気がある。クールな感じ。

季節感がわからないビーチ。おそらく夏。

「寒々としてんな」って思いました?そうなのです。寒々しいのです。だって雲の向こうに太陽がいるし、今日はまだ気温が18度。水温はわからないけれど、目が覚めるような冷たさ。


マフィンとフラットホワイトを楽しみながら波打ち際をぼんやり眺めていると、いろんなことが頭に浮かんでは消え、消えては浮かんだ。

「うみは ひろいな おおきいな」って歌詞があるけれど、私は海を見ているといつも「狭いなあ」と思ってしまう。

大きな波、小さな波が向こうからこちらに「寄せては返し」を何度も繰り返している。この波を乗り越えないと、海には出られないのだと思うと、私たちは地上に閉じ込められた生き物でしかない。

こんなにも水は広がっているのに、私たちは波の内側でしか生きていけない。あっちに行ったら最後、海の一部となってしまう。


海を見るのは怖い。不安になる。
揺れ動く水面の下には、たくさんの、おびただしい数の、いのちがある。

生きているいのち、死んでいったいのち。

信じられないほどのいのちが泳いでいたり、漂っていたり、埋まっていたり、寝そべっていたりするのだと思うと、やっぱり私たちは地上に閉じ込められた生き物で、この地球はとっても狭いと思う。歩いて行ける場所は、本当に限られている。

マンモスもきっと、海のいちばん下で静かに眠っている。


曇り空をそのまま反射している水面を見ていると、ぽつりぽつりと、小さな頭が浮き沈みしている。水はつめたいけれど、サーファーには関係ないみたい。

サーファーが何度も、大きな波に立ち向かう。サーフィンだって結局は、波に乗って「帰ってくる」ものだから、やっぱり私たちはあの波を超えられない。もしかすると、超えてはいけないのかもしれない。

大きな波を乗り越えた先に待っているのは、希望かもしれないし、絶望かもしれない。いつかあの波を超えて、地球の一部になったとき、その答えが見つかりますように。

いなくなったマンモスのことと、これからマンモスになろうとする男たちのことを考えていたら、最高のお休みがゆっくり終わって行った。

私は明日からまた、アイロンにシャツをかけたり、排水溝を掃除したりすることに日々を費やすのだろう。小屋を建てたり、サーバルタイガーを狩ったりする代わりに。最高のお休みのために。

今日も生きたね。


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