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言いたいのは「会いたい」のたった四文字。

ニュージーランド28日目。
天気、曇り。気温15度。過ごしやすい気温。

本日のお仕事も午後がメインなので、朝から鶏のお世話、掃き掃除(と言っても、ブロワーでウィイインと風を送りまくる)を終わらせて、ひとまず終了。午後まで束の間の休憩。

今日の鶏さんたちは謎に殺気立っていて、クゥー、クゥーと鳴き声を上げながら、やたら足をツンツンと突いてくるので、痛い!誰ですか!と逃げる。

よく「動物は言葉を持たない」とか「いやいや意思疎通を図るんだから言語はある」だとか聞くけれど、たぶんこんな感じで、その動物にしか分かり得ない言語で、他の動物とのコミュニケーションを図っているんじゃないかな。

鶏さんが何て言ってるのかはわからないけれど「何かを言いたい」ってことはよくわかったよ。




朝の日課というか、すっかり1日の楽しみとして定着したカフェに向かう。もはやコーヒーが飲みたいのか、フラットホワイトの神様に会いたいのか、よくわからないけれど。


誰かが誰かを好きになる時、言い訳が増えるよね。もっと言うなら、わたしたちはいつも言い訳を考えるのに、とても多くの時間を割いている。まるでストレートに伝えることが、悪いことのように。

映画いっしょに観に行かない?
ライブのチケットが2枚当たったんだけど。
いい感じの喫茶店、見つけちゃった。

ぜんぶ、ぜんぶ、ただの言い訳。言いたいのは「会いたい」のたった四文字。

コーヒー淹れたけど、飲む?
今日のご飯、なんにする?
コンビニ行くけど、何か要る?

ぜんぶ、ぜんぶ、ただの言い訳。言いたいのは「ごめんね」のたった四文字。

なのにどう言うわけか、わたしたち人間は素直に、その、たった「四文字」が言えない生き物だ。

きっと、鳥や猫やウサギやカエルが見たら笑うかもしれない。
会いたいって伝えるのに、ごめんねって伝えるのに、どうしてそんなに言い訳ばかりするんだろう、と。

たくさんの言葉を持っているのに、いちばん伝えるべき言葉を使わない。でも、だからこそ、人間は人間でいられるんだろうなあとも思う。

きっと誰もが正直に「会いたい」や「ごめんね」を伝えられたら、私たちの世界からは物語が消えてしまう。あるのは事実だけで、事実だけで生きていくとするのなら、私たちは「単なる動物」としてしか生きる道はなくなる。

フラットホワイトが飲みたいから、なんて言い訳をつぶやきながらカフェに向かう。いったい、誰への言い訳なんだろう。




昨日より1時間だけ早く家を出た。たった1時間なのに、世間はガラリと異なる様相を呈していた。

車も通らないし、裸足で登校する子どもたちもいない。キックボードを蹴りながら「グッモーニン」と挨拶してくれた子とだけすれ違った。

カフェもやっぱり空いていた。昨日の忙しさはどこへやら、神様は店内に流れる音楽に合わせて体を左右に揺らしながら、エスプレッソマシンをチャキチャキと捌いていた。

目が合うとすぐにニコっと笑いかけてくれ、挨拶を交わす。

ふと「今日はラテにしてみよう」と思った。フラットホワイトの神様が作るラテって、どんな味なんだろう。ミルクたっぷりのラテ。ほのかに甘いラテ。

いつも泡立て器で、何かを一生懸命にシャカシャカ泡立てているお兄さん(ドレッドヘアがとってもクール!)が「ラテね〜、はいよ〜」と親指を立てて注文を受けてくれた。

神様がコーヒーを作っている間、何か神聖なものを邪魔してはいけないような気がして、あまりそちらを見ないようにしている。

壁にかかっているポスターを見たり、置かれている新聞を読んだり、近くで談笑しているおばあちゃんたちの会話に耳を立てたりと、意識をなるべく神様から遠くへ飛ばす。

神様がコーヒーを作っている間は、とても神聖だから。邪魔なんてしちゃいけないから。それがただの言い訳でしかないことも、私は知っている。隠れた四文字に気づかないふりをしている。


運ばれてきたカップの中には、今日もハートが描かれていた。
ミルクたっぷりのラテ。フラットホワイトよりも甘くて、やさしい味のするラテ。

泡立て器で何かを一生懸命に泡立てているドレッドのお兄さん、それからエスプレッソマシンの奥にいる神様に向かって「またね」と告げると「ハバナイスデイ」と返ってきた。またね、の三文字はこんなにも簡単に言えるのに。


人間も含めた全ての動物は、その動物にしか分かり得ない言語で、他の動物とのコミュニケーションを図っているのだと思う。

今はまだ私にしか分かり得ない「ラージサイズ、フラットホワイト」という言語で伝えているけれど、いつかその言葉が、他の誰かにも伝わる言語になればいいな。


今日を乗り越えたら、明日はお休みだ。
程よくテキトーにがんばりましょう。

今日も生きようね。

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