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短編小説

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#短編

時計はどこだ

時計はどこだ

 何気ない日常が壊れるのは、いつだって突然だ。それは良い場合もあるし、悪い場合もある。ぼくの日常は、あのラビー君が転校してきたことで、大きく変わったんだ。

 よく晴れた初夏の朝だった。クラス担任のクジャク先生が、新しいクラスメイトを連れてきた。
「さ、自己紹介をお願い」
 先生にうながされると、彼はぼく達と同い年とは思えない大人びた声で自己紹介した。
「初めまして、帝都から来たウサギのラビーです

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算法の村

算法の村

 江戸から歩いて一日足らずの小山(おやま)村は、豊かで安穏とした村である。北に小さな山があり、そこから下る数本の細い川が、村を幾つかの集落に分けていた。
 豊かになったきっかけを高村は知らなかったが、ちょうどこの春日神社を建て替えた頃からだと、祖父は語っていた。やはり氏神様のおかげなのかと幼い高村が尋ねると、いや境内を広くして、年貢免除地を増やしたからだと祖父は笑った。
 代々神職を務めている高村

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誰がケーキを食べたのか

誰がケーキを食べたのか

 楽しみにしていたのに。

 冷蔵庫の扉を開けた私は、そのまま硬直していた。入れてあったはずの私のケーキが、何者かに食べられ、なくなっていた。

 いったい誰が食べたのか。そんなもの、妹に決まっている。うちの家族で、一度に二個も食べるような食欲があるのは、私を除けば妹しかいない。

 いやいや、いかんいかん。私は頭を振った。

 私はパズルとミステリを愛する文学少女だ。そんな状況証拠だけで妹を犯人

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何かの手順書

何かの手順書

「S博士、お呼びでしょうか」

「おお、待っていたぞ、C君。実は、例の平成の頃に書かれた古文書が、ついに解読できたのだ」

「えっ、本当ですか!」

「この古文書は、ほとんど同じ内容のものが全国でいくつも見つかっている。これの解読は千年前の人達の生活を知るのにきっと役に立つ……と思ったのだが」

「だが?」

「解読できたのに、結局何が書いてあるのか、さっぱりわからんのだ」

「どういうことですか

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