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初めての「一人旅」

今では海外すら一人で旅行する私にとって、記念すべき初めての一人旅が、19歳の春休み、横浜と鎌倉だった。
自ら予定を組み、初めてゲストハウスを予約した。みなとみらい、中華街、長谷寺、江ノ電。小さなガイドブックを片手に、見知らぬ土地を方々駆け回っては満喫した。
3泊4日の最後の晩、私は由比ヶ浜で夕日を見ていた。



大学2年の秋、学部の1つ下の後輩と付き合った。初めての彼氏だった。
以前より友達のような関係だったので、正直、恋愛感情と言うよりも、むしろ彼氏というものに興味があった。告白された私は、少し迷いながらも好奇心が勝り、OKの返事をしていた。

しかし、恋人同士になって初めて彼のアパートに行った時、突如身を寄せキスをされ、一転、部屋は妖しい雰囲気に包まれる。
荒い息遣いの彼は男の眼をしていた。
咄嗟に誤魔化してトイレへ駆け込む。急激な変化に心が全く付いてきていなかった。軽い気持ちで告白を受け入れたことを激しく後悔した。この間まで、ベッドに腰掛け楽しくTVゲームをしていたのに?
そこは、いまや情欲渦巻く危険な場所と化していた。

付き合ってみて分かるのだが、そもそも、私と彼の価値観は異なっていた。よくある理想の彼女像を求められ、顔色を伺って返事をし、彼氏を第一優先に予定を立てなければならないことに辟易していた。私も多少は少女漫画のような展開を期待していたが、実際は少しも相手にのめり込むことはなかった。
今思えば、単純に、私は彼を好きではなかったのだろう。
それでも、ずるずると4ヶ月程度は付き合っていたかも知れない。私は頑なに身体の関係を拒み続けていた。お互い裸になろうとも、わたしが乗り気でないため、事が上手く運ぶことはなかった。如何せん、向こうも私が初めての彼女だったから。

春休みを目前にし、私はついに別れを切り出した。

彼は、何故かわんわんと泣いていた。悪い所があったら直すから、と彼は言う。私はそれをどこか冷めた目で見ていた。
私達の関係には、初めから亀裂が入っていた。
そして、いまは修復出来ないくらいに致命的に。




そして、迎えた春休み。念願の一人旅。
夕日の名所、由比ヶ浜の堤防に腰掛けて、私はじっと海を見つめていた。

ゆっくりと今回の旅行を振り返る。ここぞとばかりに予定を詰め込んだせいで、俄かに慌しくも、しかし随所で現地の人の温かさに触れた。
最後にオレンジ色の夕日に暖かく照らされて、私の凝り固まった心は完全にほぐれていった。

眼前に広がる美しい景色の中、真っ黒な影だけが、単色刷りのシルクスクリーンのようにくっきりと浮かび上がっている。
辺り全ては、綺麗なグラデーションに染め上げられ、私は地球と、そして世界と溶け合っていた。

私は思う。


一人旅は、決して独りではなかった。



*****
多少脚色していますが、概ね実話です。
ちょうど今頃の時期かもしれない。懐かしの初めての一人旅。
いまでは立派な旅行フリーク、そしてゲストハウスを愛する私は、そろそろどこかへ行きたい。

今回の記事は、こちらに参加させて頂きました。
貴重な機会を頂きましてありがとうございます。またここまで、読んで頂いた皆さまもありがとうございました。


P.S. わわ、今回noteで初めて参加させて頂いた企画もの、人の記事に載るとそれだけで嬉しいものですね!
同じ恋愛ものとして、毎日投稿の季語を基にしたものを、一つご紹介。

全然、そのつもりじゃなかったけど、ちょうど恋愛ものが続いたの、バレンタインデーだったんだな、とか。笑

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