阪急電車の情緒

 思えば今年、電車に乗って移動した記憶というのがほとんどない。4月から在宅勤務となり会社から普段の電車移動を禁じられていた為、ハンドルを握る機会が、明らかに多くなった。年の前半には毎日眺めていた筈の中央線沿線の風景......関西生まれの私にとっては新鮮な物の一つだったにも関わらず、それも僅か半年間で風化してしまったらしい。

 しかし、関西を走る短い私鉄からの眺めであれば、目を閉じればすぐにでも蘇ってくる。
特に意識して、外を見た事もないだろう。考え事をしている最中、ボーッと窓際に立つ程度。私と阪急電車の関係とは、良くも悪くもそんな冷め切った間柄だったに違いない。
それでも、宝塚駅より西宮北口までの十分間、乗り換えで神戸へ行くか、大阪へ出てみるか、そんな思考以外にも膨大な悩み、揉め事、考えねばならぬ事というのはあったはずだが、車窓からの辺鄙な眺望より他に、思い出せるものは何一つない。不思議なものである。

 特に何がある訳でもないので、文章では非常に説明しがたい。

・宝塚駅は西宮、大阪方面へのターミナル駅であり、阪急宝塚駅の側にはJR宝塚駅がある。

・西宮北口駅は神戸、大阪方面のハブ駅の役割があり、宝塚市民の何割かは、この駅を経由して都会へと足を運ぶ。

・宝塚駅〜西宮北口駅間を、約十数分で移動する今津線。窓から見える物は、家と木々だけである。春は桜並樹から、桜の花びらが車内に入り込んでくる事がある。

事実を基に書くとすれば、これくらいである。これが全てである。
でも、いま脳裏に浮かぶ風景というのは、上記のようなつまらない物ではなく、私が生きた数十年を鮮明に感じさせる、あの阪急電車からの情緒溢れる街並みなのだ。

因みに、有川浩さんの著書『阪急電車』の映画撮影の際に、中谷美紀さんを遠目で見ました。めっちゃ綺麗やったなぁ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?