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オールドタイマー(後編)

 私が思考を止める間、彼が口を噤む間も、時計は刻々とその針を進めていた。あの叔父の姿からは、想像も出来ぬ乱暴な文章。その余所者が奮った暴力の先は、この辺鄙な片田舎だったと言う訳だ。
恐る恐る背後を振り返れば、河原に立つ者の姿は消えていた。何処かへ行ってしまったらしい。恐怖の対象が視界からなくなると同時に、強い憤りを感じた。
「余所者に対してあんな態度だ。叔父の気持ちも分かる」
私は強張った顔で、アキアカネにそう言い放った。声を出さない事には、この身体が動きそうにもなかったのだ。トンボは頷きも否定もせず、アサッテの方向に飛んで行ってしまった。
男は週刊誌を持って、腰を叩きながら歩き出した。去り際の一言も、なかった。
––良いのか。本当に、これで良いのか。
仕方がない。叔父の暴力は、この田舎街と共に、私をも打擲しようとしているのだから。

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