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炭素クレジット利用はグリーンウォッシュ

【英国】英政府、排出権取引枠を縮小 来年は12.4%減=過去最低水準

英政府は5日、英国排出権取引制度(UK―ETS)に基づきオークション方式で販売する温室効果ガスの排出枠を、来年は前年比12.4%減らすと発表した。2050年までにネットゼロ目標を達成するため、過去最低の水準に引き下げる。

政府は今年、7,900万枠弱をオークションの対象としたが、来年はこれを6,900万枠に削減。27年には4,400万枠、30年には2,400万枠まで減らす方針だ。

先だってガソリン車の販売禁止を先送りにした英国政府が、今度は来年度の排出権取引枠を減らすことにしたようです。排出権取引を減らすことで脱炭素を進めたい、という狙いだそうですが、これは排出権取引が拡大するとCO2削減が進まない、つまり排出権取引はグリーンウォッシングだと英政府が認めたことになります。 

2026年以降、EUではカーボンオフセットが含まれる場合「カーボンニュートラル」という主張が禁止されることになったばかり。

2026年以降は「カーボンニュートラル」と言えなくなる

消費者は環境に配慮した正しい選択をするために必要な情報を得ることができ、また、グリーンウォッシュやソーシャルウォッシュ、その他の不公正な商慣行からよりよく保護されることになる。

温室効果ガス排出オフセットに基づく不公正な主張を禁止商慣行リストに含める。つまり、取引業者は、検証されていないオフセットプログラムに基づいて、製品の環境影響が中立、低減、改善されていると主張することができなくなる。

カーボンオフセットはグリーンウォッシングという認識が世界で広まりつつあります。

2023年はグリーンウォッシュ元年か

信頼性が高いとされるREDD+やJ-クレジットも詐欺まがいの森林クレジットも、あらゆる炭素クレジットはみかけ上のCO2排出量が相殺されるだけで本質的には変わりありません。そしてクレジットが安価になって利用者が増えるほど実際のCO2排出量は増え、手間もお金も時間もかかる再エネへの投資や需要が減ることになります。

当然ながら企業がクレジットを購入する際には費用が伴います。心の底から環境負荷の低減を願う真の(?)ESG投資家が存在するとしたら、CO2を1グラムも減らさないのに経営上のコストアップ、利益圧迫につながるクレジット購入は株主利益に反します。

そしてその炭素クレジット購入に伴うコストアップは製品・サービスに転嫁され顧客や消費者が負担することになります。最終消費者の中には、電気代が払えず真夏や真冬にエアコンを停めて耐え忍んでいる人たちがいるのに、です。これのどこが誰一人取り残さない社会なのでしょうか。

 

一方で、日本は2023年から炭素クレジット活用を拡大する方向であり、カーボンオフセットを排除しつつある世界の動きに反します。
2023年の改正省エネ法で国がクレジット利用を推奨し、2023年10月11日にカーボンクレジット市場が開設され、2025年からは東京都が中小事業者にも脱炭素条例を拡大しようとしています。クレジット利用を急拡大させた後、2026年以降に「カーボンニュートラル」という表現が使えなくなったら産業界は大混乱に陥ります。企業側も、国や都が認めているから大丈夫、どんどん利用すればよい、などと考えるのは思考停止です。

よく脱炭素の順番として、

①省エネによるエネルギー使用量削減
②再エネ導入によるCO2削減
③どうしても残ってしまうCO2排出分を炭素クレジット利用によってオフセット

と言われます(私はこの手法に賛同しませんが、あくまで一般論として)。当然ですが、カーボンオフセットなしに企業のカーボンニュートラルなど実現するはずがないのです。そして昨今では、当初最後の手段とされてきたカーボンオフセットが最優先されつつあります。排出権取引や炭素クレジット利用によるカーボンオフセットはグリーンウォッシングであることを日本企業は認識すべきです。

なお、英国のスナク首相はガソリン車の禁止時期延期だけでなく脱炭素政策の見直しについて様々なことを述べています。

スナク首相は人々に選択の自由を与え、「強制ではなく同意が必要だ」と述べた。内燃機関自動車禁止の期限の延期に加えて、ガスボイラー禁止の期限も延期する。住宅の断熱改修義務付けの計画も変更する。ゴミの分別細分化はしない。飛行機への税も食肉への税も実施しない、とした。

この演説でもう1つ重要だった点は、保守党にせよ労働党にせよ、「歴代の英国政府はネットゼロのコストについて国民に正直でなかった」、とスナク首相が指摘したことだ。コストについての議論や精査が欠如していた、とも言った。これらをすべて変え、今後は、難渋な言葉で誤魔化すのではなく、正直に説明する、とした。

冒頭の排出権取引枠の削減がこの一環なのかは分かりませんが、今後も様々な見直しが出てくるかもしれません。

日本企業の皆さま、バスから降り遅れませぬように。

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