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【連載小説】私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……~

127. 令嬢、別離に咽び泣く ⑤

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆世界観と設定◆


 二月が過ぎた。

 デニーやクリス、他にも多数の根回しが奏功そうこうし、デビットは辺境伯となり、イーサンの離爵も無事認められていた。
 同時に南方の三都市、六町、十二か村を領地に加えたバーミリオン領は二つに分割され、二つの侯爵領に再編される事になった。

 一つはエマの叔父であるスコット・バーミリオン侯爵のバーミリオン領であり、もう一方はトマス・スカウト侯爵が治めるスカウト領である。
 尤ももっとも、バーミリオン領に関しては、エマとデニーの結婚を持って縁戚えんせきとなる為、速やかに公爵領に変わる手はずであったが……
 
 もう一つ、陞爵しょうしゃくされた家があった。

 ルンザとアプリコット村を新たに領に加えたシンシアとストラスのタギルセ家が侯爵になったのである。
 これには、アプリコット村の災害復旧の中、新たに設ける事になった遊水地の灌漑かんがい農業利用に伴って、王国中から開拓民を募集する事も加味された為、と尤ももっともらしい理由が付いていたが、凡そおよそ王国内のパワーバランスを取る事が本当の理由なのは誰の目にも明らかであった。

 タギルセ家では領都を現在のタギルセの街から、領地全体の中央に当たるだけでなく、発展いちじるしいルンザに移す事になったそうである。
 家を上げての一大転居に向けてストラスとシンシアの二人も、数日前に王都を旅立ってルンザに向かっていた。
 勿論エマも手を振って二人を見送ったのである。


 エマは今日、すっかりお馴染みになった王都の南門、貴族用の検閲所の表でイーサン、デビット、マリア、そしてお師匠であるレッドとホワイトと別離の挨拶を交わしていたのであった。
 
 今日まで、様々な理由で彼らを送り出して来たエマであったが、今回は勝手が違っていた。
 何しろ彼らが向かうのは辺境、しかも先だってまで『死の荒野』と呼ばれていた場所なのである。
 彼らに掛けるエマの声も緊張気味だったのも当然の事だろう。

「いいですか皆、辺境では朝夕冷え込むかもしれなくてよ、お腹を冷やしてしまわないように気を付けるのですわ、これを」

 そう言ってそれぞれに渡したのは紫、オレンジ、緑、赤、白の腹巻であった。
 多分、それぞれのイメージカラーを意識した腹巻はたっぷりと毛糸を使って分厚くなっていて、中々にダサかった。

 呆然としながら受け取ったメンバーの中で、しっかり者のイーサンが最初に我を取り戻して礼を述べた。

「こ、これは、お嬢様! 細やかなお心遣い有り難うございます…… えっと、もし冷え込んだら使わせて頂きます……」

「こいつは嬉しい、なあ…… ほら、あれだ、よ、鎧は冷えるからなあ」

「こ、子供を身籠ったら、使わせて頂く予定で検討させて頂きますわ、お嬢様……」

「ありがとうエマ、使わせてもらうよ、なあホワイト? 」

「もちろんだ! これで鬼に金棒だぜ、ありがとなエマ」

 五人の感謝の声を聞いたエマはパァッっと顔をほころばせて言った。

「良かったですわ! 喜んでくれると思っていたのでしてよ! それなのにシンシアったら格好悪いとか何とか言ったりして…… センスの欠片かけらも無いんですのよ? 困った物ですわ! うふふふ」

『ははは』

 乾いた笑いを溢すこぼす五人の中でデビットが真剣な表情でエマに言う。

「ではアメリアお嬢様、お別れの挨拶を致します、今生こんじょうの別れになるかもしれません、今までありがとうございました、どうかご健勝で! 」

 イーサンが続いた。

「失礼いたしますアメリア様、遠く辺境の空からアメリア様の幸せを祈っております」

 マリアは泣きながら言った。

「お手紙を書きますわお嬢様、グスッ、どうぞお元気で、グスッ」

 レッドとホワイトも謝意とアメリアの幸せを願ってくれた。
 エマは満面の笑みで五人に対して別れを告げる。

「がんばって辺境を住み易い土地に変えて領民を幸せにするのですわ、これ、最後の命令でしてよ! さあ、涙を拭いて! 明日の希望に満ち溢れた朗らかな笑顔で旅立つのですわ! 元気でいて下さいませ! 」

 エマの弾けんばかりの美しい笑顔に見送られ五人は旅立って行った。

 これから彼らは、チームアプリコットと移住を希望したアプリコット村の開拓民たちと合流して『死の荒野』もとい、アイアンシールド領に向かうのである。
 因みちなみに一行に混ざって、新領地の冒険者ギルドのギルドマスター(仮)としてアンナも帯同すると言う話であった。

 騎乗の三人と馬車が見えなくなるとエマはブンブンと振っていた手を静かに降ろした。
 ロアとクリスは後ろでうつむいていた。
 その背に並んだバーミリオン家のメンバーの内何人かのメイドがうずくまって嘆きを上げ、近くにいたフットマンが慰めている。

 デニーがエマの震える肩を両手で静かに抱いて言った。

「エマ、よく我慢したね、最後まで笑顔で…… 立派だったよ」

 エマは振り返らず声にならない嗚咽を漏らし続けるのであった。

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公爵令嬢冒険02


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