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【連載小説】私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……~
91. 令嬢、迎える ②
ミランダは小走りでグラスを持って来てくれた。
デビットが帰って来た時と同じように冷たい水を注ぎながらエマがイーサンの顔を覗き込んで聞いた。
「大変だったのでしょうイーサン? 目的が果たせなかったとしても私、貴方が無事戻って来てくれただけで心の底から安堵しましたわ、ガッカリしないでね、イーサン! 」
「いえ……」
ゴトリ!
イーサンはチュニックの背中、腰の辺りから取り出した一振りの白銀に輝く短剣をテーブルの上に置いた。
その上でエマが満たしたグラスの水を喉を鳴らしながら飲み干して、二杯目を自分で注いでいる。
見るからに希少そうな輝きを放つ短剣を見てエマがイーサンに聞く。
「えっと、イーサン! こ、これは? 」
「『聖女ペジオの短剣』、魔槍ガエ・ボルガの穂先です、正確には『スプンタ・マンユ』と言うそうです、本来は聖女専用の武器だそうですが、何とか認めて頂けたようで私専用の武器になって頂けました、これも全てエマお嬢様のお陰でございます」
「え? それってどういう事ですの? 話して頂けるのかしら? 」
「勿論でございます、実は────」
そこからイーサンが話して聞かせてくれた顛末は大体こういった感じであった。
シュバルツと共に辿り着いた『聖女の神殿』、メチャクチャ荒れ果てていたそうである。
崩れた瓦礫の中から地下に続く階段を見つけたイーサンは躊躇なく下って行ったと言う。
外界とは隔絶された感じの空間に足を踏み入れたイーサンに、話し掛けて来たのは幽霊の如き存在だったらしい。
薄らと見えたその姿は、二足歩行のウサギ、獣人の様な幽鬼、そんな感じだったらしい。
聖遺物が欲しいのならばこの質問に答えて見せよ、そんな事を言いながらウサギちゃん、本人曰く元聖女ペジオ、現精霊ペジオが問うた謎掛けは全部で四十問程だったらしい。
そのほぼ全てが、ここまでの数か月でエマが語って聞かせた百物語の中から出題されていたらしい。
故に、楽勝で答えたイーサンは、別格の至宝、スプンタ・マンユを精霊から与えられたと言うのである。
聞いていたエマが疑問を口にした。
「そうなのですね、んでも、イーサン? そんなにとんとん拍子に事が運んだと言うのに、何故、貴方はそんな形で、えっと、その、ここルンザに帰らなければならなかったのかしら? 私には分かりませんことでしてよ? 」
「それがですね、ここへ戻る途中に立ち寄った村で食料を調達している時に噂話を耳にしたのです」
「噂話ですの? 一体どんなお話でしたの? 」
「なんでもどこかの家に仕える執事が、主家の令嬢を連れ去って逐電したらしいと、甚だ不愉快な男の話だったのです、全く執事の風上にも置けない! 関係ない話とは言え、私、酷い憤りを感じました」
エマは最近同じ様な話を聞いたばかりの気がしたが、頷いて先を促すのであった。
イーサンは話を続けた。
「噂を教えてくれた男は私の姿を見て言ったのです、執事みたいな格好だと、そしてこの先の町々には逐電した執事を探している者たちが怪しい者を次々と捕らえているらしい、そんな事も教えてくれたのです」
そこまで言うと、イーサンは一旦言葉を止め、三杯目の水をグラスに注ぐのであった。
余程喉が渇いていたと見える。
水を一口飲んだイーサンが話を続けた。
「私は悩みましたよ、もしも件の執事と間違われて捕まりでもしたらお嬢様との約束、決戦迄に戻るという誓いを破る事になるんですからね、一体どうしたものかと…… すると男は親切にも提案してくれたのです、私の服と男の服を交換しようか、と…… 私は喜んで男の提案を受け入れたのです」
「なるほど、それでそのような恰好を……」
デビットの呟きを受けてイーサンは話を続けた。
「ええ、更に親切な男はウッカリ者の私に指摘してくれたのです、農夫の馬に鞍があるのは可笑しい、疑われるかもしれない、と…… そして鞍を預かってくれるとも言ってくれたのです」
エマが頷きながら言った。
「確かにその方の仰る通りですわ、機転が利いて親切な方にお会いできて幸運でしたわね、イーサン」
イーサンはエマに頷いてから、更に話を続けるのである。
「本当に…… 更に更に男は言ったのです、普通の農夫は現金なんか持っていることは無いし、大量の食糧を持って歩いているのも不自然だと…… そう言って私の持っていた現金と、買い求めたばかりの食糧も預かってくれたのですよ」
「……」
「それでイーサンの旦那は食い物も金も無くなって、どうやって帰って来たんですか? 」
「それはそこらの草むらで薬草を見つけて食べたり、タブノキの実を齧ったりしながら飢えを忍ぶしか無いに決まっているでしょう? 私よりもシュバルツの方が可哀そうでしたよ、何しろ西方の荒野には草が少なかったですからね…… 今頃、厩舎で飼い葉を頬張っている事でしょう、不憫な思いをさせてしまいました」
エマがイーサンに対して言い難そうに話し出す。
「ね、ねえ、イーサン…… 若しかしてだけれど、貴方、その男に、その、騙され────」
「ただいま帰りました! エマ様、マリアが戻って参りましたぁ! 」
「っ! 」
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お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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※この作品は『小説家になろう』様にて、完結している作品でございます。宜しければこちらからご覧くだされば幸いでございます^^↓
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