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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
6.天邪鬼

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 しかし理想の上司、誉王ホメオウ、リスペクトキング、それだけをもってコユキの本質を理解したと思ったら大間違いである。
 さらに秘められた他の一面も持っていたのだ。

 それは、ジャック・ザ・アマー。
 いわゆる天邪鬼アマノジャク
 
 そんな特性持ちの彼女に掛かれば、周りが同意した瞬間、己の意見をマッハで変える事など、赤子の手を引き千切るくらい容易いたやすい
 高火力のマッチと大容量ポンプを合わせもつ、魔性の女でもあったのだ。
 
 と、いうことで、盛大につけた火を、早速自ら消し始めるコユキであった。

「まあ、真面目なんて長所とも言えないけどね! むしろ、臨機応変に柔軟な対応を求められる現代社会じゃ欠点かもね? 社会の一員として、聞き訳のいいお利口さんに対する需要は、未だ一定程度必要とされている事は否定しないけどさ、一方、恋愛対象として見たり、友人関係を構築しあう間柄としては、いろんな場面で刺激不足なんじゃないかな? ましてや家庭を築くとか、子育てマニュアル通りに日々を送って、家族旅行も旅行雑誌の行程表のまま…… 平均的で、人並みで、普通で、良くも悪くも突出する事を避け続ける人生、冒険も無く、情熱もなく、誰にも譲れないこだわりもなければ、周り全部を敵にしてでも護りたい夢すら持たない…… そんな人と過ごす人生が、本当の意味で幸せな物になるのか、あたしははなはだ疑問を抱くよ? まあ、いずれにしてもあたしは安売りするつもりないからね!」

 キリッとドヤ顔をきめるコユキだった。
 本当は興味津々なくせに、他人が高評価をした瞬間に貶めてしまう……
 これも全て、上手く行かない事だらけの人生の中で、コユキが身に着けた処世術のせいなのであった。
 期待して裏切られるのは辛い…… 故にお見合いや就職に今一歩踏み出す事が出来ないでいたのである。
 現実から逃げ続けるストレスは自然、食欲と趣味のBL、編み物だけに興味を偏重させて、コユキの体を中性脂肪で包み込み、現在進行形で肥え太り続けさせているのである。

「そっかぁ~そぅだよね~、真面目なだけじゃぁしょうがないっか~」

 リョウコがいつものように、適当に、自分が薄っぺらで中身がないことを露呈ろていさせる相槌を返した。
 そんな残念な姉二人をじと目で見つめるリエだった。

――――安売りしないってグラムいくらだよ? ……てかキロ売りか

 無論、言葉にすることはできない。

 長年の経験で知っていた。
 目の前の姉が存外に短気ですぐ手を出すことを、そしてヤツの攻撃が想像を超えて重い事も。
 決死の覚悟で立ち向かう日が訪れるのかもしれないが、違う、未だその時じゃない。
 だからいつも通り、姉たちの言葉を無言で聞いていたのだ。
 茶糖家ではよくある風景であった。

 叔母のツミコ(父ヒロフミの妹である)は未婚の居候なので、この手の話にはあまり口を出したがらない。
 口を出そうものなら即コユキからの口撃コウゲキが発動されることは良く理解している。
 以前もそうだった。

 口を出したツミコにコユキは言った。

「……おばさん、長幼の順ちょうようのじゅんって知ってる? おばさんが結婚してないのにあたしが先に結婚なんてできないわー」

「っ! ……」

 メンタルが持った事は僥倖ぎょうこうだった。
 病後とかだったら耐えられなかっただろう。
 そうなれば、互いに無事では済まなかっただろうし、アタシかヤツのどちらかが世界から消えていた事は想像に易い。

 それ以来、彼女は関わらないことに決めていたのだ、主に自分の精神衛生の為に。
 が、先程から、テレビに集中しているように見せかけてはいる物の、実際ツミコの耳は完全にこちらの様子を伺っている。

 コユキは再びチョコチップクッキー三枚重ねを口に運びながら、

「あたしは別に結婚を否定している訳じゃないの! でもね、あたしは今のままで結構満足しているってだけ! ただねぇ、ほんと、お見合いってどうなんだろ? って思うのよ…… そこまでしてするほど、結婚てさ、良い物なのかな? とね、思う訳よ、だってこのご時世必ずと言って良い程夫婦共働きでしょ? 確実にそこの問題があるわけよ! あんた達は結婚したから、生活のため家族のために労働力を提供してるんでしょ? ま、それなりに幸せなんでしょうけどね…… でもね、よしんば結婚したとして、あたしは表で働くとか無理だし、毎日旦那様のために料理するとか、子供ができたら子供の面倒見るとか、掃除洗濯とか、無いわ、無理だわー! まっぴらゴメンだわんっ! まあぜ~んぶ旦那様がやってくれるって言うなら話は別よ? ちょっとは考えてもいいかなって感じ? でも現実問題そんな人滅多にいないでしょう?」

 一気に捲くし立てた言葉を、そこで一旦停めてから、続けて言った。

「良い? 兎に角あたしは『お勤め』とか『家事』とか、働くつもりは一切ないからねっ!」

 二度言ったって事は大事な所だったのだろう…… 強い口調で言い切りやがった!
 しかし、働きたくないのではなく、頑張っても結果が伴わなかった時に、自分の精神が持ち応えられないことを、コユキが恐れている、そう事の本質をとっくに知っていた家族達は、『結婚自体はしたいのね……』、そう思い不憫だと心の底から感じていたのである。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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