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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
130.戦士の帰還

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「ただいまぁ~! 」

 庫裏くりの玄関で声を張り上げたコユキであったが、いつもならすぐに顔を見せる善悪が返事すらしない事に、首を傾げた。
 仕方が無いので靴を脱ぎ、廊下を歩いていると、本堂との渡り廊下から、モラクスが声を掛けてきた。

「こ、これは戻っておられたのですねコユキ様、お迎えにも上がりませんで、大変失礼いたしました」

 いつも通り、丁寧な口調で頭を下げるモラクスに笑顔を向けてコユキは言った。

「出迎えなんて良いのよ、弟妹つれてきたわよモラクス君! ところで善悪とオルクスは? 」

 コユキの問い掛けに、モラクスは片手を側頭部に当てながら、弱ったように答えた。

「あ──、本堂でぶっ倒れています、二人揃って……」

「へ? なんで? 」

話しながら本堂に入ったコユキが見た物は、揃って仰向けに倒れ、それぞれ腹を上下させながら、ゼェ~ゼェ~言っている善悪とオルクスの姿であった。

「なにこれ? 」

指差しながら問うコユキにモラクスが事の顛末を話して聞かせた。
 経机きょうづくえの上で語り出したモラクスの話を、コユキは机の上にパズスとラマシュトゥの赤い石を置いて、一緒に聞くことにした。


 モラクスによると、コユキが出掛けてからすぐに二人の様子がおかしくなったとの事だった。
 やけにソワソワしだして、境内から大きめの石を幾つも拾ってきたり、コンビニからライターオイルと脱脂綿を買い込んできて、空の酒瓶に詰めたり、色々訳の分からない事を仲良くやったりしていたようである。

 顕現けんげん時間が近付くと、いよいよ怪しさがまして、護摩壇ごまだんの周りにハサミや包丁、エダキリバサミの様な刃物を丁寧に並べ、それ以外には消火器や混ぜるな危険と書かれた化学薬品、殺鼠剤さっそざいなんかが所狭しと集められていたそうだ。

 その中心で、座禅を組んだ善悪は手にしたスコップをひたすら研ぎ続け、法衣からチョコンと上半身を出したオルクスは、一心不乱に、カンシャク玉の周りに接着剤で割れたガラスの破片を貼り付けていたらしい。
 
 そうこうしていると戦いが始まり、二人ともようやく作業の手を止めて、オルクスがモニターした情景を、善悪が護摩の炎に映した新合体スキル『生配信リモートライブ』の映像を夢中になって食い入るように見ていたという。

 二人が、再び奇行を始めたのは、コユキがパズスの『強靭治癒エニシァシ』された背中を叩き、拳や指に大きなダメージを負った辺りだったそうだ。
 まず善悪がパニック気味に叫び、一日一回しか発動する事が出来ない『即時配達ウーバー○ーツ』で赤チンを送ると駄々をねだし、オルモラの二人で必死になって、思い留まらせたらしい。

 何とかその場は収まったのだが、その後、コユキが『蠍毒棘針デス・ニードル』の連撃によって、両手のほとんどを失った姿をみて、今度はオルクスがサイズ的に適合するのは、君だ! 的な事を口走って、善悪の両腕を切断して送る! と馬鹿な事を言い出して、物質化した自分の何十倍もあるデスサイズを抱えて、本堂をあっちに行ったり、こちらに戻ったりして善悪を追い掛け回したそうだ。
 
 その後、ムキになったオルクスが風の刃を飛ばす必殺スキル『飛刃リエピダ』を打ち捲くりだし、モラクスがロングホーンランスで相殺することで何とか善悪の命を守った事。
 モラクスの一瞬の隙を付いたオルクスの凶刃きょうじんを、間一髪、善悪が『エクス・ダブル』を発動させ、事なきを得た事。
 気を失った善悪の両腕にロックオンしている兄を、モラクスが身を挺しつつ、送付する手段が気絶しているのだからと、懸命に説得した事。

 その後、手持ち無沙汰に陥った、オルクスが、ザックリとした座標だけを頼りに、適当に『守護イペラスピツォ』を打ち捲くった事。
 ついでに、それらの全てが、戦いと関係の無い、近くにいただけのハシビロコウ、オカピー、アカカワイノシシ、コビトカバ、ゾウさん、キリン君、サイ達を守るために降り注ぎ、全く役に立たなかった事。

 最終的に、バーバリーシープの御家族に意味無しバフを掛けた瞬間、オルクスも善悪同様、魔力切れを起こし、ム~ン、とか言いながら仰向けに倒れ込み、未だ苦しんでいる事。

 もうどうでも良いと考えたモラクスが、コユキが帰りつくまで、縁側で空を見上げつつ、この世の儚さに思いを馳せていた事、等を聞かされたのであった。

「あ──、何か、ごめんね~、モラクス君……」

「いいえ、私こそ、力及ばず慙愧ざんきに耐えません」

 その時、久しぶりにコユキの頭の中に直接響く声が届いた。

『ふふふ、困った兄上と、もう一方のご主人様を癒しましょうか? 我がマラナ・タ♪ 』

コユキはさも、当たり前の様に返事をする。

「うん、ごめんね、ラマシュトゥちゃん、頼むよ」

『ええ、では、『再生雨エピストロフ』! 』

 降り注ぐピンクの慈愛の雨垂れをその身に浴びて、善悪とオルクスの困ったちゃんコンビがようやく目を覚ました。

「ア、サンセンチ! ウデ! アルカ、フゥ」

「おお、コユキちゃん、大丈夫だったの? 赤チン塗らなきゃね、ねっ! 」

「あはははは、大丈夫だよぉ──、みんな、ただいまっ! 」

「「「おかえりっ」でござる」なさいませ」

 やっと、コユキは『ただいま』を言う事が出来た、そして皆も『おかえり』が言えた、そんなメンバーのやり取りを内心ニヤニヤ眺めるパズスとラマシュトゥの二人であった、やれやれ……
 
 いつも通りの空気が、本堂に戻って来たようだ、良かった良かった♪

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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