堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
4.おうち時間 (挿絵あり)
ふいにコユキはかぎ棒を持つ手を止める。
「あ~、なんか甘い物が食べたいな…… コンビニでも行ってこよっかな?」
さっきまで手近に置いてあったオヤツの食パン(一斤)を手でむしってピーナッツバターのビンに直接つっこんでベタベタになったものを、
「うまうま」
と食べていたのだが、あっという間にたいらげてしまい、もう口寂しくなってしまった様である。
「むむむ、バナナを合わせたら更に美味しかったのでは? 良しっ! 次はバナナもプラスしましょ、そうしましょ♪」
どれだけ高カロリーになろうと、美味しく食べる事を最優先する様だ、清々しい。
コユキが食べる事に貪欲なのは幼少の頃からで、物心ついた時には立派な肥満児になっていたらしい。
小学校低学年で成人病予備軍に認定されたのか、ほう~。
小学校高学年の時、足に激痛が走り病院へ行くと成長痛という事だったそうだ。
太りすぎで足の骨が重さに耐えられなかった、ってマジか?
そして、中学生になったら不整脈が発覚、血圧は高すぎて献血も出来ない有様だったらしい、凄いな……
高校生の頃、下腹に激痛を感じた時は、
「こ、これは…… すわっ盲腸、なのかっ?」
と病院へ行った様であるが、何の事は無い、酷い宿便が原因だった様だ。
太りすぎと運動不足が原因だと言われたみたいだ。
放っておくと腸に穴が開くとまで、医者から告げられて恐れおののいたという、まあ、そりゃそうだろう。
そんな恐怖の日々の中でも食欲を抑える事は出来なかったらしい。
ノーイート・ノーライフ(普通)
さらに運動は大嫌いだったので美術部だのサブカル研究会だの映画鑑賞部だの兎に角ずっと座っていられる事が部活を選ぶ上での絶対条件だったそうだ。
とは言え、十代後半には人並みに色気づいたかどうかは定かではないが、一応ダイエット? らしい行動、毎日十分間でナイスバディ、とか何とか言う安っぽいキャッチにつられて縄跳びダイエットに励んだ事もあったらしいが…… ああ、その時の一枚が壁に貼られたポートレートなのか、納得だ。
その後は動かない、食べる、動かない、食べる、動けない、食べ続ける…… それがコユキの半生だったようだ。
そんな暮らしは四十目前の今日でも変わっていない事が如実に見て取れた、主に体型から……
「抹茶アイスが良いか、新作スイーツにしようか、いや、順番的にはしょっぱいヤツかな? ん~、でも甘いのが食べたいんだよなぁ~」
などと悩んでいる傍から歩いて行くのが面倒臭くなってしまったのか、
「疲れるし、家にある物で辛抱するかなぁ? あー、お小遣いもあんまり残って無かったしぃ……」
四十目前でお小遣い…… か…… 素朴じゃないか……
因みに、コユキの部屋は母屋の向かいの車庫兼物置の二階である。
中学生の頃、自分の部屋が欲しいのっ! と年相応の駄々をこねた結果、祖父が改装してくれたらしい。
同様に妹二人の部屋もあり、三部屋横並びになっているが数年前に妹達は結婚し家を出たため、二部屋は物置になっている様だ。
「キリの良い所まで編み進めたら、後で母屋を物色しに行ってみよ♪」
と漸く動く決心をした時……
階下から妹リエの軽やかに呼び掛ける声が聞こえて来たぞ。
「コユキー! ユキ姉! お母さんが呼んでるよー!」
「! ……あいよっ!」
その声に、気楽な感じで返事を返したコユキは、その巨大な肉を揺らせつつ立ち上がった。
「おっと、メモメモ、編目判ら無くなるじゃん! 危ない危ない!」
そこら辺に有った紙の切れ端に『二十二』と走り書きし、ぐちゃぐちゃに散らかった机の上の本や漫画や何だか分からない紙類の山の頂上に置く。
立ち上がり、一歩足を出した時であった……
ブ~ッ プスッッ
「きゃ! てへへ」
屁が出た事に自分で驚き、少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら、
「屁が出たら更にお腹が空いて来たわ…… 丁度良いタイミングね、ついでに食べ物貰って来よう♪」
と嬉しそうな笑いを浮かべ、腹を揺らしながら軽快に階段を降りて行くのであった。
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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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