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カルチャーデザイン01 会社の人格

「アベンジャーズ」のように、優秀な個人が集まった少数精鋭の組織。一人ひとりに裁量が任される分、個人の成果はダイレクトに顧客の信頼につながります。社名や肩書きではなく、「〇〇さんだから」と仕事を依頼されることも多いでしょう。

これからの時代、強い「個」が集まる組織は、大きな成果を発揮するはずです。でも、それだけではなかなか長続きしません。会社としての認知は? 信頼は? 社員の離職率は? チームワークは? そんなことに頭を悩ませるタイミングがやって来るかもしれません。

社会からも、取引先からも、社員からも、信頼される会社、愛される会社をつくるためにはどうしたらいいか。

カギとなるのが、「会社の人格」です。

ウソをつく人。約束をすっぽかす人。大風呂敷を広げるものの、いつも口ばかりで実行しない人。こんな人は大抵、嫌われるでしょう。どんな分野でも、完璧にこなす隙のない人。こんな人は、ちょっと近寄り堅い印象を与えてしまうかもしれません。

会社も同じです。会社をひとりの「人」として考えたとき、信頼される会社、愛される会社の条件はどこにあるのか。

今回は、KESIKIがリブランディングに携わり、7月1日に社名変更したBonds Investment Groupのケースをもとに、会社の人格について考えます。



実績とイメージは、なぜ乖離する?

確かな実績を挙げているのに、知名度はいまひとつ。

インターネット広告を中心とした事業で急成長したオプトホールディング(現・デジタルホールディングス)の子会社のひとつ「オプトベンチャーズ(現・Bonds Investment Group)」は、そんな悩みを抱えていました。

同社は社員数7名のベンチャーキャピタル。少数精鋭の社員たちが、投資先やベンチャー企業の経営層としっかり信頼関係を築き、結果を出してきました。これまで、ラクスルやスペースマーケット、ジモティなどのスタートアップにリードインベスターとして投資し、IPOへと導いています。

投資先の社長や経営層にインタビューをすると、多くの方が「オプトベンチャーズのキャピタリストは、他のVCよりもサポートが手厚く、心理的な面でもずっと伴走してくれている」と高く評価します。

しかし、会社のイメージとなるとどうでしょう。「自分を担当してくれているキャピタリストのことしかほとんど知らない」。「会社全体のことは正直良くわからない」。「どういった分野への投資を強化しているのかも知らないので、他の経営者仲間にも紹介しづらい」。そんなコメントも返ってきました。

親会社の存在も、オプトベンチャーズの認知に大きく影響していました。
「オプト」という名前がついているため、CVCだと勘違いされていることも。スタートアップの間では名前こそ知られているものの、具体的な案件や実績への認知もなかなか広がっておらず、パートナー陣たちはそのことを課題に感じていたのです。

実績とイメージはなぜ、乖離をするのか?
理由のひとつは、「会社の人格」が薄いことにあります。

成績は上位だけど、控えめで大人しいタイプ。学校のクラスにいるこんなタイプの人は、往々にして存在感があまりない。本当は大きな志を持っていったとしても、それが誰にも知られていなかったりします。

会社も同じです。自分たちは何を目指し、何をやっていくのか。そのために、周りの人に対してどのように振舞い、巻き込むのか。

オプトベンチャーズのリブランディングは、そうして始まりました。



会社を動物に例えてみる

メンバーが全員集合した最初のワークショップ。
まずは、「あなたの会社を動物に例えると?」という質問からスタートしました。IDEO時代から数多くのワークショップをファシリテートしてきた石川俊祐がよく行うアイスブレイクで、KESIKIでも定番化しています。


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メンバー全員に動物の絵を描いてもらい、その理由を答えてもらいます。
例えばこんな回答。

狼 : 一匹狼。アグレッシブなイメージ。
サル : 賢い。群れない。ひとりでどこでも生きていける。
チワワ : 当たり障りない。歓迎されるけど、特段好かれるわけでも、嫌われるわけでもない。

「単独行動」「賢い」「好かれも、嫌われもしない」というイメージは、メンバーの多くに共通していることがわかりました。

続いて、「本当はどんな動物になりたいか?」という質問をしてみると……。

ワシ : 高いところから冷静に獲物を見つけ、捕える。
ゾウ : ゆっくり。でも、大きく。群れで助け合いながら行動する。

バラバラに描いてもらったのに、ほぼこの2つに。リブランディングで目指す姿として、「冷静かつ大胆」「大きな志」「助け合う」というキーワードが透けて見えてきました。

続いては、こちらもKESIKI定番のセッション。会社の外の人に、「言われたいこと」「言われたくないこと」を付箋に書き出し、貼ってもらいます。

印象的だったのは、「言われたくない 」に貼り出された「……」。
つまり、「何の印象もない」という回答が一番イラッとするのだ、と。

緊張感のあった雰囲気が少しずつほぐれてきたところで、より具体的なセッションに入っていきます。



ワンライナーで語る

KESIKIでは、企業のミッションやビジョンを考える際、「あなたの会社を一言で表すと?」というセッションを行います。KESIKIの場合は、こんな感じ。

KESIKIは、愛される会社をデザインすることを通して、やさしい経済の実現を目指すカルチャー・デザインファームです。

「やさしい経済の実現」がミッションに、「愛される会社をデザインする」がビジョンに当たります。


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オプトベンチャーズのメンバーにも一人ひとり、書き出してもらいました。主なものをまとめたのが以下です。

「圧倒的支援」「ベンチャーに寄り添い続けること」を通じて、
「社会革新」「社会貢献」「産業革新」「多様性のある社会」を実現する
「ベンチャーの親友」「プロフェッショナル集団」「意志のある黒子」。

ここからさらに掘り下げようと、KESIKIがファシリテートしようとしたのですが……。なかなか話が広がりません。

いくつかのキーワードは出たものの、それぞれの意見に対し、メンバーがどういった思いを抱いているのか、議論が盛り上がることはほとんどなく、この日は終了。
KESIKIとしても、反省材料が残るワークショップでした。

オプトベンチャーズのメンバーからのフィードバックを聞いたところ、彼らにも要因があることがわかりました。

同社ではこれまで、ほとんどの仕事の裁量が個人に任されてきました。そのため、ひとつのことをメンバー同士で話し合う機会が少なく、誰かが意見を言っても、それに反対することを遠慮してしまう。議論を発展させたり、アイデアを重ねていくことにも慣れていませんでした。

実際、メンバー全員で集まることは週に1回の会議だけ。そこでも現状の報告がされる程度で、各メンバーがどんな未来を描き、どんなことを大切にして仕事をしているかはほとんど共有されていませんでした。

そこでKESIKIは、メンバー一人ひとりに時間をもらい、それぞれが大切にしていることを聞き出すことにしました。



「誇り」と「嫌い」を掘り下げる

会社の人格を考えるうえで大切になる要素のひとつが、「誇り」です。

個別インタビューは、経済メディアで活躍し、Forbes JAPAN WEB編集長を務めたこともある九法崇雄を中心に進めました。特に掘り下げたのは、「これまでで最も誇れる仕事は何か?」「どんなときにやりがいを感じるか?」という点です。

すると、ある共通点が浮かび上がってきました。投資メンバーのほとんどは、自身で事業をつくった経験を語り始めたのです。

実際、代表パートナーの野内敦さんを筆頭に、パートナーの細野尚孝さん、日野太樹さんを始め、投資メンバーはみな、自身で会社を立ち上げたり、事業会社で新規事業に携わったりした経験を持っています。

彼らは常に謙虚です。そこで挙げた成果を自慢げに語ることは決してありません。でも、控えめながらそのことに強い自負を感じていることは伝わってきました。

一人ひとりのキャラクターが見えてきたところで、ふたたびワークショップを実施。オンラインワークツールの「miro」を駆使しながら、議論を重ねました。

中でも一番盛り上がったのは、「これまで、どんな経営者に投資しなかったか」という質問です。

これだけは絶対にやらないと決めていること。許せないこと。
会社も、人間も、「嫌い」「やらない」にパーソナリティは色濃く反映されます。


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検討したけれど、最終的に投資しないと判断した経営者に共通する点は、大きく3つありました。

オレが、オレが、という個人的な野心が強い人。
儲かりそうだからという動機だけで起業した人。
お金さえ出してもらえればいいというような不義理な人。

実際に、投資の話がありながらも最終的に見送り、その会社が上場したというケースは何度かあったそうです。

こうした思いにこそ、「らしさ」が表れている。KESIKIはそう考え、彼らの思いを言葉にし、社内にも社外にも共有しようと提案しました。
そうしてできたのが、3つの投資哲学です。


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それぞれの投資哲学に対し、説明文を綴っていったのですが、ここで議論が紛糾しました。「ここまで言ったら言い過ぎなんじゃないか」「今までやってきたことと整合性が取れないんじゃないか」。
特に議論が割れたのが、「大義があるか」の説明文です。


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中でも、「仮にビジネスをつくる天才に出会ったとしても、個人的な成功や金儲けだけを目的に、私たちが投資をすることはありません。」という一文。何度も議論し、最終的には残すことにしました。

過去には、そうでないケースもあったかもしれないし、いま、100%できていないことがあるかもしれない。でも、これから新しい会社をつくっていくにあたって、決意をストレートに書こう。あえて強いメッセージを掲げ、いつも自分たちが立ち戻れる拠り所にしよう。そんな議論を重ねました。

言葉にしていく上で意識したのは、彼らが胸のうちに抱いていた等身大の思いを、カッコつけて語るのでも、派手に飾り立てるのでもなく、できるだけ素直に伝えること。言語化というと小難しい感じがするので、「言葉化」というほうが近いかもしれません。



「きっかけの場」をデザインする

今回のリブランディングでは、議論の中で何度も出てきた言葉をキーワードとして抽出し、新社名やコーポレートロゴ、ミッション、バリューなどを考えていきました。
特に根幹に据えたのが、以下の2つです。

・社会課題を解決する
・投資家ではなく事業家であるというマインド

一番の顔になる社名は、オプトベンチャーズのメンバーも含め、プロジェクトメンバー全員で100個以上の案を出しました。
最終的に決まった社名は「Bonds Investment Group」。Bondsは「絆」を意味します。

これまでオプトベンチャーズでは、社員が「一匹狼」として成果を挙げてきました。でも、これからより大きな課題に挑戦していくためには、仲間を巻き込む必要があります。起業家はもちろん、出資者やアドバイザーを含めたステークホルダーとの「絆」をもとに、事業をつくっていくんだ。そんな意思を込めました。

新社名のロゴは、アートディレクター浅葉克己さんのもとで学び、日本デザインセンターでも活躍したデザイナーの清水龍之介を中心に、30を超えるパターンをスタディしました。


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「誠実さ」「ブレない」「冷静かつ大胆」。これまでの話から浮かび上がってきた人格をもとに絞り込み、最終決定しました。使った書体は、パリのシャルル・ド・ゴール空港のサインとして誕生した「フルティガー」。遠くからでも視認性が高いのが特徴で、大胆で力強いイメージを強調しています。


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新ミッションは、「ともに、挑戦する。ともに、創造する。」
事業家であるというマインドを持って、起業家やステークホルダーとともに、社会課題の解決に挑戦する。そして、より良い未来を創造する。そんなメッセージを込めました。

もちろん、言葉にするだけでは意味がありません。
言っていることとやっていること。この2つが一致してはじめて、愛されるブランドが生まれます。

今回のプロジェクトでは、ミッションを体現する活動としての「ブランドアクション」や、社内にミッションを浸透させるための「リチュアル(=習慣・儀式)」についても議論を重ねました。

「社会課題を解決する」ためには、どのようなプロセスをもって投資先を見つけ、実行すれば良いのか。ユニゾン・キャピタルで活躍した内倉潤、マッキンゼーやクオンタムなどでロジカルとクリエイティブの世界を横断してきた井上裕太を中心に議論を進め、投資方針から投資委員会での議論の進め方までを考えました。


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プロジェクト期間は2カ月弱。コロナウィルスの影響でリモートワークを余儀なくされるなか、zoomでのミーティングやmiro上でのワークショップを重ね、スプリントでプロジェクトを実行し、駆け抜けました。

今回のプロジェクトの一番の成果物は、クールなロゴや美しい言葉のデザインではありません。
メンバー一人ひとりが、互いの想いの深い部分を知ることができたことです。その共通点をじっくり言葉化していったことで、改めて会社としてのひとつの人格が生まれました。

このプロジェクトを経たことでメンバー間のコミュニケーションが活発になり、コロナ禍のリモートワーク期間中も社内メンバーのオンライン誕生日会まで行われたそうです。嬉しい変化が日常の中でも表れてきています。

テクノロジーのおかげでオフィスに集まる必要もなくなり、個人がより力を発揮しやすくなったいま、それでも私たちがチームをつくる理由は何か。それは、同じ意思をもった仲間と励まし合い、未来を語り、その言葉を日々の活力にしていくためなのかもしれません。

トップの決めた方針が、会社のカルチャーをつくるのではありません。社員一人ひとりの気持ちがつながり、まとまることで、一つの人格が形成され、そこに自然とカルチャーが生まれていく。

KESIKIがデザインしているのは、その「きっかけの場」なのです。








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