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僕がアビスパ福岡のデスクワークボランティアに落胆した理由

アビスパ福岡のTwitterアカウントが投稿をすると、通知が来るように設定している。

なんだこれはと思った。

「デスクワークボランティア」。「ワーク」なのに「ボランティア」って、どういう言葉なんだろう。

あと「簡易的な事務作業」って何。だいたい「事務作業」とか「デスクワーク」とかって、言葉が広すぎて、何をやるのか全然わからない。


アビスパ福岡のデスクワークボランティアの作業内容

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よく募集文を読んでみる。

本ボランティアは、主にWord、Excelなどを使った文書作成補助や集計作業などを中心とした簡易的な事務作業をお願いするものです。(募集文より)

Word、Excelを使った文書作成補助。

普通に考えたら、これはもうアルバイトに依頼する話。そして「集計作業」というのは、ボランティアにやらせてもいいのか甚だ疑問。ただ、何なのかは全然わからないのだけど。何をやるのかわからなさすぎて怖い。

なお、可能な方には、イラストレーター、フォトショップ、PowerPointなどを使ったデザイン作業、またはご相談の上で、のぼり・ポスター設置などをお願いする場合もございます。(募集文より)

専門知識を求める作業内容が加わり始めた。のぼりやポスター設置に廻ることも加わっている。これは社会通念上、報酬が発生するものだと、ぼくは認識している。

「これはひどい」と思った。

案の定、すぐにこのツイートは大きな批判を浴びた。「やりがい搾取」と揶揄され、「タダ働きをさせるな」という真っ当な声だった。

しかし、ぼくの中ではよくわからない点がひとつ。アビスパ福岡にはすでに「試合運営ボランティア」という方々がいる。

ぼくは2019年にアビスパの観戦を始めた頃、「これって、内容的にはアルバイトの内容なのに、ボランティアがやるんだ。これがサッカー業界の常識なのか。」と感じていた。

なんで試合運営ボランティアはよくて、デスクワークボランティアはダメなの?

その決定的な差がどこにあるのかは、ぼくはよくわからない……というより、知らない。そこで、いろいろと調べてみた。


アビスパ福岡の試合運営ボランティアの作業内容

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そもそも、アビスパ福岡の試合運営ボランティアは、営利団体ではない「アビスパ福岡後援会」が主体となって行っている。

アビスパ福岡後援会は、アビスパ福岡が日本を代表するクラブへ成長するよう応援し、アビスパ福岡の理念実現への活動を支援していくことを目的とする支援団体です。(後援会のページより)

アビスパ福岡の後援会の会員は「ソシオ会員」と呼ばれ、個人なら1口1万円、法人なら1口5万円の年会費を支払っている。

会費の一部がチームの育成強化等の支援に充てられており、財政支援は後援会の重要な役割なのだろうと思う。多額の年会費を支払った会員は、以下のような特典を受けられる。

・SOCIOピンバッチのプレゼント
・観戦チケット(1口あたり2枚)進呈
・ソシオボードへの名前記載
・会員向けイベント等の参加権
・年2回発行する会報誌「Avispark」

「試合運営ボランティア」は、そんなアビスパ福岡後援会の支援活動のひとつ。そんなことも、今回はじめて知ることができた。

「試合運営ボランティア」の活動は、主に以下のようなものだった。

【主な業務】
☆入場ゲートでの試合情報誌の配布
☆ファンクラブテントでのマッチデーカードのお渡しや特典チケットのお引き換え
☆広場やコンコースでのお客様のご案内(ボランティア募集のページより)

試合観戦をしないA班と、試合観戦はするB班、C班に分かれている。A班は試合開始4時間前から、試合終了後30分程度まで作業があり、なかなかハード。

募集ページの「ボランティア活動内容」を見ると、以下のような作業があるとのことだった。

・キックオフ4時間前に全体ミーティング
・マッチデーニュースへのチラシ挟み込み作業
・お客様へのマッチデーニュース等の配布や案内業務
・モニュメント広場やバス降車場でのお客様の案内やお問い合わせの対応
・アビーふわふわ運営補助
・ファンクラブ入会受付、ファンクラブ会員の方へのマッチデーカードのお渡しや特典チケットのお引き換え
・車いす席のお客様の受付及び案内
・ハーフタイムにピッチに開いた穴に砂を入れて補修したり、ごみなどを取り除く
・スタンドやコンコースでのゴミ回収 など

ファンクラブ入会受付や案内業務など、ミスをするとクレームになったり、トラブルになるような、必要不可欠な業務も混ざる。これはアルバイトが行うような業務内容だと感じた。

ただ、これは「アビスパ福岡後援会」の支援活動。アビスパ福岡を支援するための団体が支援を行うことは「やりがい搾取」とは言わないと思う。そもそも財政支援を行うような団体なのだから。

しかし、正直に言うと、ぼくはまだモヤッとする。……以上のような背景だとしても「アビスパ福岡後援会がソシオ年会費からアルバイト代を支払ってこそ、真っ当な支援なのではないか?」と思ってしまうからだ。

アビスパとボランティアの間に「後援会」が挟まっただけで、結局しわ寄せは「ボランティアを行う個人のやりがい」に来てしまっているんじゃないのか。とぼくは感じてしまう。ただ、これはぼく個人の感覚でしかない。

たとえば、アビスパ福岡の試合運営のアルバイト求人。

業務は会場内案内(入場確認・座席案内)、客列整理、会場設営(テント設営・看板設置など)に分かれ、時給は1000円とのことだった。ボランティアとどのような差があるのだろうか。


デスクワークボランティアと試合運営ボランティアの違い

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ぼく個人としては「営利団体がボランティアを募集する」ことに強い違和感を覚える。たとえば、うどん屋さんが「お店を守りたいので、ホールスタッフボランティア募集」なんて絶対言わない、と思うからだ。

ただ「試合運営ボランティア」の主体は「アビスパ福岡後援会」だったので、その違和感は完全には当てはまらなかった。

しかし、「デスクワークボランティア」の主体は後援会ではない。

「アビスパ福岡株式会社」では、アビスパ福岡でデスクワーク(簡易的な事務作業)に協力していただけるボランティアスタッフを募集しております。(募集ページより)

もうそれはそれは、うどん屋さんがお店を守りたいから、ホールスタッフボランティアを募集していた。主体は「うどん屋さんを守る常連の会」ではなく、大将が自ら「ホールスタッフボランティア募集」しちゃっている。

アビスパ福岡が発表した文言は「ボランティア」という言葉はあれど「無賃労働じゃないの?」という違和感は拭えない。

そこで、そのあたりを知りたくて検索。社労士が執筆した「創業手帳」の記事があったので読んでみた。

「雑誌の著名人へのインタビューに記録係として同席しませんか?」というボランティアがあり、それは「無報酬での短期労働者募集」に該当するのではないか?という相談だ。たとえば「スポーツ雑誌で冨安健洋選手のインタビューをするから、メモをとりませんか」という感じだろうか。

記事中でこの案件は「無報酬での短期労働者募集」にはあたらないとされていた。

そもそも「冨安選手のインタビューに同席できる」という、ファンにはかけがえのない、むしろお金を払いたくなるような体験ができる点で、単なる業務ではないと判断できるというのがまず一点。その前提の上で、業務もフラットな関係性の上での役割分担でしかなく、日時指定もインタビュー体験を行う以上、社会通念上当然であるという判断だった。

では、今回のアビスパ福岡のデスクワークボランティアはどうだろうか。とてもじゃないがデスクワークボランティアに「お金を払いたくなるような体験」が混ざっているとは考えにくい。むしろ「無報酬での短期労働者募集」にあたる可能性があるように思える。

似たような事柄として、学生時代によく聞いた「無給インターンシップ」を思い出す。検索すると、弁護士が執筆した記事があったので読んでみた。

職場体験という前提をしっかり守れば、無給のインターンシップも可能であるとしたうえで、以下のような記述があった。

給料の発生する労働契約ではない以上、会社の指揮命令下において業務を遂行させることはできません。時間的拘束をかけた上で、会社の指揮命令下に業務遂行を補助させることは、実体として労働契約と評価され、無給の労働の強制(最低賃金違反)として、違法となる恐れがあります。SmartHR Mag. より)

今回の「デスクワークボランティア」はこれに近いのではないか。そして、通例となっている「試合運営ボランティア」もグレーゾーンではないだろうか。


「労働」ではない? Jリーグのボランティアの実態とは

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笹川スポーツ財団のサイトの中に「Jリーグクラブのボランティアに関する調査」というものがあったので、中身を見てみた。

調査結果を見ると、各クラブで当然のように業務委託先の有給スタッフに依頼している活動と、ボランティアに依頼している活動が混ざり合っていた。

給料を与えてでもやってほしい必要不可欠な作業をボランティアにしてもらう、というのは実態としては「労働契約」にあたってしまうのでは?と心配してしまうが、そのような議論は存在しないようだった。

むしろこのように書かれている。

多岐にわたる活動を行っているが、特に、観客サービスにおいて、ボランティアが必要不可欠な役割を果たしていることが確認できる。(笹川スポーツ財団より)

いかにボランティアの存在が重要か、という語り口。営利目的の興行において、サービス面で必要不可欠な役割を果たしちゃったら、それって「労働」じゃないの?と思ってしまうが、ぼくの感覚がズレているのだろうか。Jリーグ全体のボランティアに問題はないのか。

Jリーグの公式サイトには「Jリーグニュースプラス」のPDFが残っている。そこには「ボランティアの幸せ」という特集があったので読んでみた。

会社の雇用主と従業員のように、労働とその対価としての報酬で結ばれている関係ではないだけに、ボランティアとクラブとの関係は難しい面があることも事実である。何人かのボランティアからは仕事の内容に関して「ア
ルバイトと同じポストにつけないでほしい」「来場者とコミュニケーションができるポストに配置してほしい」という本音が聞かれた。「好きな仕事がしたい」「仕事はクラブが指定したい」――もし、このように双方が一方的な要求をすれば、両者の関係はこじれてしまう。ただ、こうした立場の違いは、ボランティアの意見にクラブが誠実に耳を傾けコミュニケーションを図ることと、明確なビジョンを示すことで解決することができるだろう。(JリーグニュースプラスVol.7より)

本来、ボランティアとクラブの関係性は難しいもので、バランス感覚が必要とされるものであるはずだ。

よい関係性は、丁寧で配慮のあるコミュニケーションを継続することによって生まれる。

さらに「Jリーグニュースプラス」には、ボランティアの意義とも思える文面があった。

定年退職した人には、新たな社会との接点となり、若者には世代を超えた人々との交流の場となり、もっと深くクラブとかかわりたいという人にはそれを実現する機会となる――。Jクラブのボランティア活動はさまざまな
自己実現の場であり、クラブを介して一つのコミュニティーを形成している。ホームタウンにこうした素晴らしいコミュニティーをつくり、世代を超えてスポーツを「支える」ことの楽しみを感じてもらうことにも、Jクラブの大きな存在意義があるのではないだろうか。JリーグニュースプラスVol.7より)

サッカークラブを「支える楽しみ」を通じ、地域に世代間を超えたコミュニティをつくる。言うのは簡単だが、実際にやり切るには「愛情」が試されることだと思う。

地域に貢献するコミュニティ形成に向けた明確なビジョンが見えず、クラブが指定した仕事をさせたいだけだというように思われると「タダ働き」「やりがい搾取」と揶揄されても仕方がない。

ボランティアを募集する以上、関係性を雑に扱うことは絶対にしてはいけないことだと思う。


「通常の労働」ではないと切り捨てた世の仕事たち

「デスクワークボランティア」が炎上と言ってもよいほどの騒動となった翌日。アビスパ福岡から再度リリースが発信された。

リリースを読むと、既にデスクワークボランティアに取り組んでいる人がいるとのことだった。

その業務内容は不明である。実際にその3名が主体的な作業ができており、3名とコミュニティ形成に役立つような素晴らしい機会が与えられているのなら、とくに問題はないと思う。そこを勝手な決めつけで批判することはしたくない。

ただ、個人的に気になった文言がある。

あくまでもボランティアであり、通常の労働のように評価やノルマを伴う作業ではなく、皆様の得意分野を活かし、アビスパ福岡に少しでも力をお貸しいただける方のご参加を期待し募集させていただきましたが、言葉足らずにより不快な思いをされたことお詫び申し上げます。(リリースより)

「通常の労働のように評価やノルマを伴う作業ではなく」

がっかりしてしまった。アビスパ福岡が「労働」とは何だと思っているのだろうか。

評価があろうがなかろうが、ノルマがあろうがなかろうが。体や頭を動かして働けば労働だ。指揮命令下において業務を遂行すれば労働だ。評価とか、ノルマとか関係ない。

そして、当初の募集文を思い出す。

本ボランティアは、主にWord、Excelなどを使った文書作成補助や集計作業などを中心とした簡易的な事務作業をお願いするものです。なお、可能な方には、イラストレーター、フォトショップ、PowerPointなどを使ったデザイン作業、またはご相談の上で、のぼり・ポスター設置などをお願いする場合もございます。(募集文より)

WordやExcelを使って文書作成をする人たち。大切なデータを集計する人たち。イラストレーターで画像をつくれる人たち。フォトショップでデザインできる人たち。PowerPointでデザインできる人たち。のぼりやポスター設置のために汗を流す人たち。

このような仕事を「通常の労働ではない。なぜなら評価しないし、ノルマもないから。」と言うつもりか。怒りを通り越して、ただただ悲しい。

ぼくが仕事をしているライターの世界でも、ボランティアの執筆というものは存在する。それは書き手の「書きたい」という熱い気持ちと、「書いてくれてありがとう」という敬意が交換されることによって、気持ちよく成立している。

それに比べて「評価しないから」とか「ノルマがないから」とか、それはどうだろう。何の話をしているのか。

「最低賃金違反」とか、そんな小賢しい話の前に、そもそものさまざまな人間への敬意が著しく欠落していることに落胆した。絶対にこんな会社と一緒に仕事をしたくない。

ぼくはフリーランスだ。めったにないが、仕事をする中で、ぼくと考え方が合わなかったり、仕事がしにくい会社と出会ったら、無理をする前に謝罪して去るようにしている。互いにミスマッチだし、互いに敬意を持って仕事ができる会社に時間を割きたいからだ。

出会ったばかりのクライアントなら、去れば済む話。しかし、アビスパ福岡は去れない。

ぼくはサポーターだからだ。

そりゃあ、黙って去ればいい。でも、そんなことはできない。だから、胸を張って「良いクラブでしょう」と言えるクラブであってほしい。

これはぼくの自分勝手なのかもしれない。


言うは易し、行うは難し。

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・アビスパ福岡は、地域に根ざしたスポーツクラブとして、地域に生活する人々とともに発展します。
・アビスパ福岡は、スポーツを通じて、子どもたちに夢と感動を地域に誇りと活力を与えます。
・アビスパ福岡は、スポーツを愛する新しいコミュニティづくりと世界に開かれた豊かなスポーツ文化の創造に貢献します。

言うは易し、行うは難し。

ぼくはこの理念に沿って、アビスパ福岡と一緒に走って、福岡を盛り上げたい。こんなクラブじゃないでしょう。こんなクラブにこんなに熱いサポーターの方々はつかないでしょう。

いくら強くても、誇れるクラブであってほしい。心から。

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