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[すこし詩的なものとして]0167 忘れないための生と

薪をくべるその後に
点火のための余白が見つからない
ラジオの音は
たゆたう言葉の形を失い
音と火と
燃えるよすがを
探している

ルビは小さく
この漢字の読みが
誰かの放った声のように
なんだか違った
意味で踊り出す

湿った新聞紙に
世紀の大発見がなかなか燃えず
薪は白々とした煙だけを
産んでいく

ここにいる
生きた人間と
やがて死ぬ人間と
すでに死んだ人間と
まだ生まれぬ人間と
燃え盛る火を想像しながら
煙の中で交差する

音だけが
この世界のよすがになろうか
目は霞み
口は呼吸を遠ざける
耳だけが
ここでの流浪を
生としての
流れを受け入れている

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急に視力を失った世界に恐怖することがある。
子どもの頃から、何度もそんな恐怖を想像してしまう癖がある。
目の見えない世界を生きていける強さが自分にあるのか、いつも恐れている。
目は衰え、老眼の一歩手前まで来ている。

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