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【小説】賢者タイムの贈り物

こちらは八幡謙介が2019年に発表した小説です。


賢者タイムの贈り物


 ジムはデラに腕枕をしながら唐突に吹き出した。
「なによ、急に笑って!」
 怒ったようにとがめるデラの腰のあたりを軽く二度叩くとジムは、
「ごめんごめん。いや、思い出しちゃってさ。」
「何をよ!」
 まだデラが軽い怒気を含んでいることにジムはほんの少し罪悪感を覚えた。そして、彼女をなだめるように説明しはじめた。
「いや、あだ名。君が尾出来夢おでらいむだからデラ、俺が山路武蔵やまじむさしだからジムだろ? そんな共通点で男女って付き合うもんなんだなって思い出したら可笑しくって……」
 そう言うとジムはたまらずまた笑いだした。
「それだけじゃないもん……」
 デラはふくれたようにそう言った。もう怒気は含まれてはいなかったが、その口調に女性特有の恒常的な不安――本当に自分は愛されているのか――を感じ取ると、ジムは「わかってるよ。」と言い、優しく彼女にキスをした。
 そこからまた、心地よい沈黙が訪れた。賢者タイムとはよく言ったもので、ジムはこのまどろみの中では頭が冴えた。恋人のデラが何を思っているのか、どうして欲しいのかが手に取るようにわかった。デラもそうした時間を愛おしく感じていたので、ジムからの誘いを断ったことは一度もなかった。それに、そもそも貧しい二人にはSEXが最大の娯楽だった。ネットの定額動画に厭きたら体を重ね、疲れたら一緒にくだらない動画や海外ドラマを観て、それに厭きたらまた……。そうして一日を過ごす、それが二人のデートだった。そのせいか、二人はまだ若いにもかかわらず、上手くいっている中年夫婦のようにこの道に熟練していた。そこからさらにアブノーマルな世界へ踏み出すかどうかはまだ決めあぐねていたが、お互いどちがら言い出すかを待っている空気があった。
 しかし、今二人が考えているのはそれについてではない。二人はクリスマスについて考えていた。
 何かと入り用の年末年始に備えるため、時給の上がる25日までは二人ともバイトを入れていたが、そのおかげで26日の休みが重なったので、25日の深夜から朝まで二人でパーティをすることに決めていた。問題はプレゼントである。なけなしの貯金は実家への帰省費用で飛んでしまう。クリスマスまで二週間を切った今、どうにかプレゼントのための費用を捻出することで二人の頭はいっぱいだった。そのせいで、せっかく楽しみにしているクリスマスが二人の間で禁句のようになってしまっていた。
 ――今年はプレゼントなしにしようか……
 ジムは何度もそう提案しかけては、ギリギリのところで口をつぐんだ。なぜならデラは絶対にプレゼントを買ってくるだろうと確信していたからだ。ジムはその気持ちを踏みにじりたくなかった。だから自分もどうにかして――たとえ安物でも――プレゼントを用意したかった。しかしそのためには金が要る……
「ジム、何を考えているの?」
 いつもと違う様子にデラが不安そうに尋ねた。
「ねえジム……、もしクリスマスのことで何か思い詰めているなら、私――」
「大丈夫だよ、デラ。」
 ジムは優しくそう言ってまたキスをすると、そのままデラに覆い被さった。そのいつもと違う雰囲気が、デラの中に宿った不安の種をより強固にした。

(試し読み終了)

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