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【小説レビュー】有川浩『塩の街』を読みました。

小説家・有川浩さんの作品はいくつか読んだことがありました。
『阪急電車』『三匹のおっさん』『レインツリーの国』などなど。
主要キャラには個性が溢れていて、親しみを感じました。また、読み終わった後は、その物語が終わってしまうほんの少しのさみしさと、お話がしっかりまとまる満足感がありました。

デビュー作には、作家が書きたいものが全部詰まっているようです。
今作、『塩の街』も「書きたい!」という熱いものが詰まっていたように思います。そして、救われたと思えたので、少し言語化してみます。

あらすじ
「世界とか、救ってみたいと思わない?」。塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。崩壊寸前の東京で暮らす男と少女に、そそのかすように囁く男が運命をもたらす。全ての本読みを熱狂させるロマンチックエンタテインメント!

出典:Amazon

最初から引き込まれる

塩の結晶が地球に飛来して、人が塩化する世界…
設定から引き込まれました。終末的な雰囲気でも、悲壮感を感じさせず、どうにかこうにか生きている描写が読みやすかったです
おそらく、最初から引き込まれたのは、「人が塩化する」という設定が活きたエピソードから始まったからだと思います。

重い荷物を背負って、「海を目指す」青年・遼一が最初に登場します。
力尽きて倒れ込んだとき、主人公・高校生くらいの真奈と、
真奈と一緒に生活している秋庭さんに出会います。

「人が塩化する」ので、都市機能はほぼ壊滅し、無法地帯が広がっている真っ只中で、物語は進みます。遼一が海を目指す理由に「塩化する世界の残酷さと、わずかばかりの美しさ」がありました。

*

残ったものは、塩害に運よくかからなかった人と、失ったものの輪郭だったように思えます。かつては活気があったであろう街、家族の存在を残す部屋、思い出の品であった本など、失ってからまだ時間がたっていない様子がわかります。

なくなってしまったからこそ、痕跡や輪郭がくっきり見え、
かつて存在していたものを大きく感じることができます。

「いつでもある、いつでもいる」というとは異なる感覚があって、「今はない」という儚い感覚がありました。

この作品で救われたと思った瞬間

秋庭さんの同級生(入江さん)が突然やってきて、塩害の原因と目される隕石に戦闘機で攻撃するように、秋庭さんに命令?します。脅すように…

秋庭さんは元航空自衛隊の戦闘機乗りで、かなりの腕前でした。
そして、秋庭さんがその作戦に行こうとするのを真奈が止めようとします。

秋庭「───このままだと明日がいつ来るかわからないんだぞ」
~略~
真奈「来なくていいです、明日なんか。秋庭さんが行っちゃうならそんなもの要らない!あたし、世界なんかこのままでいいもの!」

『塩の街』P205~206

真奈が秋庭さんを止めようとして、感情があふれたシーンでした。

変な言い方ですが、「止めよう」としたことに読者の僕は「救われた」気がしました。危険な作戦で帰ってこれなくなる状況で、行儀よくふるまえないのが真奈と秋庭さんの関係を表しています。

秋庭さんはちょっと口が悪いです。でも、優しい人です。
真奈は普段はまじめでしっかりものです。
そんな2人の関係です。

ここ一番で「いや」って言えて、目の前人を大事にできていたから、救われたのかなって思いました。
全貌のわからない大きなものより、自分が大事にしたい1人が見つかってよかったですね。

*

腕のいい作家さんのデビュー作を読むのは好きです。
アイデアとスピード感があって、書きたい情熱が伝わってくるからです。
時々読み返してもいいかもですね。

世界観が独特な作品が好きなので、ドンピシャでした。
読んだ時の記憶と感情はいつか忘れてしまうので、このブログで思い出そうかな。

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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