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脳に忍び込む「錨」

相手が途方もない値段を吹っかけてきたと感じたら、同じように途方もない安値で応じてはだめだ。
値段の差が大きすぎて、交渉で歩み寄るのは難しい。
それよりも効果的なのは、大げさに文句を言い、憤然と席を立つか、そうする素振りをすることだ。
そうやって、そんな数字をもとにして交渉を続ける気はさらさらないことを、自分にも相手にもはっきりと示す。
(『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』より)


『ファスト&スロー』を読んだ感想、第11回です!

第1回はコチラ


今日は、『数字による暗示』というテーマについて書いていきます。

心理学用語では、『アンカリング効果(anchoring effect)』、または『係留効果』なんて呼ぶこともあります。


アンカリング効果とは、例えば『ガンジーは亡くなったとき、114歳以上でしたか?』と質問されたら、『ガンジーは亡くなったとき、35歳以上でしたか?』と聞かれたときよりも、ガンジーが死んだ年齢について、高く答えるという現象のことを指します。

つまり、『ガンジーは何歳で亡くなったのか?』という推測について、質問時の『114歳』や『35歳』という数字が影響を与えているということです。

ぼくたちの見積もりが、提示された数字の近くに留まったままの様子をアンカー(錨)になぞらえて、アンカリング効果と名付けられました。

そして実は、このアンカリング効果というのは、2パターンの発現方法があります。

ざっくり言うと、アンカリング効果が発現する出発点がどこから始まるかの違いです。


①調整プロセスとしてのアンカリング

1つ目の発現方法は、『調整プロセスとしてのアンカリング』。

名前だけだとなんのこっちゃか分かりにくいのですが、例えば高速道路から一般道路に下りたとき、特に意識することのなく車を運転していたら、スピードを出しすぎてしまうという経験を、したことがある人も少なくないと思います。

これは、『高速道路での運転スピード』がアンカーになっているからです。

つまり、①の『調整プロセスとしてのアンカリング』は、アンカー自体が基準となってぼくたちの推測や判断に影響を与えるアンカリング効果の発現パターンです。


②プライミング効果としてのアンカリング

逆に、②の『プライミング効果としてのアンカリング』では、別のいわゆる『一般常識』だったり『その人が既に持っている知識や情報』が基準になって、そこから外れていくような形で、アンカリング効果が発現するパターン。

例えば、再びガンジーの例を出しますが、『ガンジーが亡くなったのは、200歳より上でしたか?下でしたか?』という質問を受けたあとに『ではガンジーが死んだのは何歳ですか?』と聞かれても、『ガンジーは200歳から何歳くらい離れた年齢で死んだんだろ?』と予想を立てる人はいないはずです。

ちなみに言うと、ここでもし200歳を基準に年齢を考えると、これは①の『調整プロセスとしてのアンカリング』ということになります。


それで、じゃあ②の『プライミング効果としてのアンカリング』がどのように働くのかというと、発想の基準は『一般常識』や『既に持っている情報』なので、まず『80歳くらいかな』というところからスタートします。

そして、ここからブレていくタイミングアンカリング効果が出るのですが、ここで事前の質問で『200歳』という数字を出されていることによって、無意識的に80歳からどんどん年齢を上げていって、『うーん100歳くらいかな』という予測を立てる人が多くるということです。

これを、『プライミング効果としてのアンカリング』と呼びます。

だから逆に、最初の質問で『ガンジーは30歳より上の年齢で亡くなりましたか?下の年齢で亡くなりましたか?』と聞いていれば、次に『何歳で亡くなったのか?』という問いに対して『うーん、50歳くらいかな?』みたいに、80歳よりも若い年齢を答えやすくなるのです。


これは、生活や商談のいろんな場面で使われいています。

例えば、生活のなかでは、『卵、今日はお一人様10パックまで!』という張り紙があれば、本当は2〜3個くらいしか買うつもりがなくてお店に来ていたとしても、アンカリング効果が働いて5〜6個くらい買ってしまうみたいな人がいるかもしれません。

お店側が勝手に購入数にアンカーを設けることによって、たくさん買ってもらおうという魂胆です。


あと、商談の場で言えば、心の中では『100万円で買ってほしいな』と思っていたとして、でも最初から『100万円です!』と売るのではなく、はじめに『200万円です!』と提示して、そこから少しずつ『特別ですよ!』みたいなことを言って値段を落としていけば、最終的に100万円になったときに、ものすごくお得に感じます。

それで結果的に購入に至る(しかも売り手の希望の値段で)という寸法です。


こんな感じで、実はアンカリング効果というのは世の中にたくさん溢れているので、自分が仮に活用することはあっても他の人に利用されることがないよう、頭の片隅に置いておくと、いざというときになにかの役に立つかもしれません。



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