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カナダの家族

カナダで過ごす中で、彼らの家族の絆に触れた。一人でいる方が気が楽ではある。彼らとの温かい繋がりに触れて、少しずつ家族や友人の大切さを感じることができた。

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学期のラストの講義が終わると、クラスメイトは解放感が混じった歓声を上げている。荷造りもせずに、服だけ車に放り込んで我先にと車に乗りこみ、一目散に家族が待つ故郷を目指すのだ。何人かのクラスメイトは、親が迎えに来ていて一緒に帰っていく。
僕の通っているカレッジでは、クラスメイトの大半は寮に住んでいて、冬休み(Christmas Holidays)になると皆帰郷するので寮は空っぽになる。僕もこの冬休みには日本に帰るけれど、航空券の予約や荷造りがあるので、皆がいなくなった後、1~2日を寮で過ごすつもりだ。
学校のカフェテリアは閉まるから、食事もかなりおざなりになる。学期中は気が抜けないから、ここぞとばかりに怠惰を極めよう。寮から出ずに自販機でチップスやチョコレートを買って、コーラで流し込んで食欲を満たす。さすがに菓子類だけではお腹が空いたので、夜中に学校の近くにある大型スーパーのWal-martに何か食べる物を買いに行くことにした。カナダの冬は想像以上だ。寮を出ると見渡す限りの雪景色。校舎の横にそびえ立つWhite Spruce(マツ科トウヒ属)を横目に歩いていく。Dendrology(樹木学)の実習で学んだので、雪で隠れているが、木の皮や葉の形状を見なくとも、その木の佇まいでWhite Spruceと認識できるようになった。歩みはゆっくりだけれども、少しずつ前に進んでいる。
Wal-martに着くと店内の暖かさにホッとした。寮にはキッチンがないから、調理済みの食べ物を買おう。日本の袋麺が売っているので、ショッピングカートにいくつか放り込む。部屋には電子レンジもないから、ケトルで沸かしたお湯を注いでラーメンを作ろう。カフェテリアの温かい食事が懐かしい。そんな思いを振り払い、ビーフジャーキーやパイナップルをショッピングカートに入れていく。何て偏った食事だろうか。
買い物を続けていると、クラスメイトのサラと偶然出会い、声をかけられる。サラの娘さんが、僕のことが珍しいのかピョンピョン跳ねながらカートの周りを動き回る。
「キミは休みは日本に帰るの?」
他愛のない話をしながら「よいクリスマスを!」と手を振って別れる。今学期の成績表は僕たち生徒にはまだ届いていないが、彼女は問題なく次の学期に進むだろう。自分の成績も心配しなければならないが、クラスメイトの何人かは成績が奮わずに来学期に会うことはないかもしれない。
そんなことをぼーっと考えながら、買い物袋をぶら下げて雪道を戻る。少し固まった雪の上を、ガスッ、ガスッと音を立てて歩く。自分の足跡だけが残る。すぐにその足跡も消えてしまうだろう。冷気を吸い込む。ヒンヤリとした空気が気持ちいい。寮にたどり着いて、空っぽの部屋と自分の部屋の灯りを見ると、取り残されたみたいで少し寂しくなる。

そんな風に1~2日過ごして日本に帰国すると、家族が待っていて寂しく感じていたことを忘れて楽しんだ。あっという間に休みが終わり、すぐにカナダに戻る日が来てしまった。羽田空港で家族に「頑張ってくる」と伝えて飛行機に乗り込む。学校を卒業できるかで、カナダに移住できるかが決まってくるのだから失敗なんてできっこない。
これからカナダの東の端まで移動しなければない。モントリオール空港での待ち時間を合わせたら一日以上かかる。飛行機に乗っていただけなのに体はヘトヘトになる。地元の空港に着いたらいつもの通り24時近くになっていて、電話でタクシーを呼ぶ。タクシーの運転手に「Forestry schoolまで」とだけ伝えると、すぐに場所を理解して移動してくれた。
寮に到着すると部屋は真っ暗で、まだ誰も戻ってきていないようだ。クラスメイトのほとんどは新学期が始まる前日まで戻ってこないので、明後日ぐらいまではまた一人ぼっちで寮で過ごすことになるのかな。

親友のジムが次の日少し早めに寮に戻ってきた。「新しい学期の準備をしないとね」と本人は言っていたけれど、寮に早めに戻ってくる予定だった僕を心配してくれたのではないだろうか。彼はお気に入りのサンドイッチをお土産に買ってきてくれた。サブウェイのような綺麗に包装されていなく、手作り感あふれたアルミホイルで武骨に包んであるけど、味は最高だ。
「このサンドイッチはまじで美味いから、一度食べさせたかった」
優しさが身に沁みる。温かい気持ち、温かなつながりに触れた気がする。

◆サンクスギビング、イースター、家族の絆は強し
日本に比べるとカナダの休日は少ないが、サンクスギビングやイースターにクラスメイトは地元に戻っていく。休み明けには課題の提出や試験があるけど、お構いなしにほとんどのクラスメイトが地元に帰る。このサンクスギビングでは、父親一緒にとハンティングに出かけると言っていた友達も何人かいる。
インターナショナルの生徒は僕だけなので寮に残るのは、また僕一人になるようだと思っていたら、ジムが「課題一緒にやろうぜ」と寮に残ってくれることになった。43歳の彼にとって「何事にも準備が大切だよ」が信条だ。カフェテリアは閉まるので、2人で行きつけのサブウェイやティムホートンズでサンドイッチや珈琲を買って、勉強に励むことにする。
休み明けにはGIS(Geographic Information System)のクラスのテストがあり、ジムはこの科目がすごく苦手なのだ。GISは現代の森林管理には欠かせない技術で、このクラスではMesaというスマホみたいなディバイスに木の種類等の情報を位置情報とともに入力して、その入力したデータをもとにPCでArcGISを使って地図を作っていく。ディバイスを使うにも慣れないと難しいのだが、地図を作っていく際にプログラミング的な要素も必要なため、PCを使うのが苦手なジムにとっては難敵なのだ。

普段はクラスメイトや先生たちがいる校舎は、明かりもなく、静まり返っている。ランチを食べた後、コンピューターラボで地図を作ることにした。僕は大学でプログラミングを多少勉強したことがあったので、地図作りは苦手ではなかった。自分の課題を進めつつ、ジムの課題もヘルプしながら課題に没頭する。ジムは、一時間ごとにイライラしながら珈琲を片手に煙草を吸って頑張っている。今も煙草を吸いに外に出て行ったところだ。少し経つと煙草のにおいを体にまとわりつかせながら、ジムが戻ってきた。
「外でベンに会って話していたんだけど、今晩暇なら家に来ないか?だって。サンクスギビングだから夕食一緒にどうだってさ」
ベンはクラスメイトの一人で、お父さんは学校でFish and Wildlife(野生動物のマネジメント)を教える僕らの先生だ。ベンの一家は厳格なクリスチャンで、お酒も飲まないし、教室で聖書に線を引いて勉強しているのを見たことがあった。ちなみにジムもクリスチャンだけど、教会に小さい頃は毎週行っていたが、今は行かなくなったらしい。最近のカナダでは、厳格なクリスチャンは減っているとのことだ。
夕方にベンのお母さんが寮まで迎えにくれたので、学校から一時間ぐらい離れた場所にある家に移動した。家に着くと家族を紹介されたが、5人兄弟の大家族。ベンの弟は林業学校には通っていなかったが、学校の図書館で勉強していた際に少しはなしたことがあったので顔見知りだ。
食事まで時間があるので、お父さんの仕事場を見せてもらう。学校の仕事以外に、斧を手作りしているらしい。地下に工房があるので、階段を下りていくと数えきれない試作品の柄(斧の取っ手部分)が置いてあった。この斧は実用にも使用するが、Timebrsports(大手のチェーンソーメーカーが主催し、斧やチェーンソーで丸太を速く切るのを競うスポーツ)でも使用される。他愛のない話をしていたら、食事の時間になったので、地下室を出る。
感謝祭の食事では、ターキー(七面鳥)に始まり、マッシュドポテト、ニンジンのソテー等々。ターキーにグレービーソースをたっぷりとかけ、席に着く。食べる前のお祈りをして(僕は薄目で隣の人の祈り方を真似して)、食事が始まる。黙々と皆食べている。お酒はないが、代わりにアップルソーダがあった。静かな食事だけれど、サンクスギビングの家庭の食事に呼ばれたのは初めてだったので、うれしい。
食事が終わると、ベンたちとトランプをする。この年になってトランプなんてと思いながら、横目でジムを見ると熱心にカードを見てる。少しするとベンの彼女が遊びにきて、二人は散歩に出かけて行った。お父さんが何度も「ベンは外で何やっているんだ。戻ってくるのが遅いんじゃないか」と何度も言っていたので思わず笑ってしまった。先生も家では一人の親なんだな。
帰りはベンのお母さんが車で寮まで送ってくれた。車を降りるときに、ターキーの残りを温めて明日食べなさいと渡してくれた。明日はGISの試験があって、慌ただしい日常がまた戻ってくる。勉強することだけに集中しないとやっていけない。それでも、今日の優しさは嬉しかった。ベンと彼の家族も、ジムも僕のことを気にかけてくれた。寮で一人でいるだろうということで気にかけてくれただろう。「ありがとう」を何回言っても言い足りない。

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人と群れるのが苦手で、何となく一人でいることのほうが多い。一人でいるのは気が楽だが、時に寂しくもある。
家族って何だろう。友人って何だろう。彼らとの温かい繋がりに触れて、安心できて居心地の良い場所であれば、家族もその一つであり、友人の優しさもまた同じような場所なのかもしれないと考えている。

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