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カナダへの移住を目指した3年間の日々と帰国してからの暮らしを文章にしています。

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カナダへの移住を目指した3年間の日々と帰国してからの暮らしを文章にしています。

マガジン

  • カナダの森で働こう。

    林業学校を卒業後してから、カナダで働いていた日々について。

  • 【短編集】サラリーマン、カナダの森でしごとを探す。

    短編(5,000字ぐらい)のエッセイを集めました。

  • カナダの林業学校に行こう。

    軍隊並に厳しかったカナダの林業学校で過ごした日々について。

  • これからの暮らしを。

    カナダから日本に帰ってきてからの出来事や思いについて。

  • カナダで美味しいものを食べに行こう。

    移住を目指して、林業学校と測量会社で働いた3年間のカナダでの食生活についてまとめています。

最近の記事

寮からの引っ越し

7月から働き始めた測量会社での研修が始まった。オペレーターの仕事は、飛行機内で空間情報を集めるためのレーザー機器の操作。初日の研修では、空港の片隅に停めらた飛行機の中で機器の操作方法を教わった。新しい情報ばかりであっぷあっぷだったが、忘れないように必死でメモをとった。異なる言語や文化の中で働く際、メモを取る習慣は非常に有効で自分の強みになっている。操作を教わりながらも、頭の片隅では「早くアパートを見つけないと」と考えていた。 この研修には、同じくオペレーターで採用されたロー

    • 出会えたことを忘れないように

      明日の卒業式に出席するためにジムの両親が町に来ているとのことだった。「夕食をご一緒に」とのお誘いを受けたので、ジムと一緒に彼らが滞在しているホテルにこれから行くことになっている。支度を整えたジャッキーさんと一緒に部屋を出る。ジムの部屋をノックするが、応答がない。寮で他にジムが行くとしたら、中庭だ。煙草を吸っているのかもしれない。「タバコ吸っているだろうから、中庭に行ってみよう」と言って階段を降りる。一階の廊下には何人かがたむろしていた。明日の卒業式を残すだけだから、みんなどこ

      • 森をさまよう【完全版】

        重いカフェテリアのドアをグッと押す。ギギッと軋んだ音がした後、ゆっくりとドアが開く。まだ11時前ということもあり、カフェテリアの人はまばらだ。今の時間帯は、林業学校の教官や市の林業課に所属するレンジャー達が休憩している。ティム・ホートンズのコーヒーとドーナツも置いてあるので、僕もクラスの合間に時々カフェテリアに来ることがある。今日は休憩しに来たのではなく、テイクアウト用のランチを取りに来た。キョロキョロと見渡すと、食器返却コーナーの近くにテーブルが設置され、茶色の紙袋がうず高

        ¥500
        • 森をさまよう(下)

          previous page 進むべき道を失ってうろたえる。地図が頭の中をスルーしていく。しばらく、呆然としていると、ATV(四輪バギー)がゆっくりとこちらに向かってくる。運転しているのは教官のロブ。こちらに気がついたようだが、にこりともしない。「試験中に見回りに来た教官とは口を聞いてはいけない」がルール。しかし、テンパっていたので彼に話しかけた。ロブは、No. No.というように首を横に振る。しゃべりかけてはいけない。君が困っていたとしても、ヒントも教えることはできない。そ

        寮からの引っ越し

        マガジン

        • 【短編集】サラリーマン、カナダの森でしごとを探す。
          2本
        • カナダの森で働こう。
          3本
        • カナダの林業学校に行こう。
          22本
        • これからの暮らしを。
          7本
        • カナダで美味しいものを食べに行こう。
          4本

        記事

          森をさまよう(中)

          previous page 学校を出たバスは町の中心部を越えて、森の入り口に到着した。教官のロブがバスを降りてゲートを開ける。森の入り口をバスがゆっくりと通り過ぎる。舗装された道路を通り過ぎ、林業専用道に入っていく。数十分ほど林業専用道を進むとバスが停車した。後ろの席から数人立ち上がり、昇降口の方に向かっていく。グループ1の5名がバスを降りるようだ。出口にいたクラスメイトが降りていく5名に声をかけている。「緊張している?」や「頑張れよ」という声が聞こえる。少し大袈裟かもしれ

          森をさまよう(中)

          森をさまよう(上)

          重いカフェテリアのドアを手でグッと押す。ギギッと音がしてゆっくりと開く。まだ11時前ということもあり、カフェテリアの人はまばらだ。今の時間帯は、林業学校の教官や学校に隣接する市の林業課に所属するレンジャー達がコーヒーを飲んだりして休憩している。Tim Hortonsのコーヒーとドーナツも置いてあるので、僕もクラスの合間に時々休憩に来る。今日はカフェテリアに休憩しに来たのではなく、テイクアウト用のランチを取りに来た。ランチが準備されているはずだが、どこにだろうか?キョロキョロと

          森をさまよう(上)

          自由に葉を広げる

          ようやく一日が終わった。放心状態で何もする気が起きない。ソファに寝ころんだまま、無暗にスマホをいじる。指で画面をなぞれば、次から次へと情報が現れる。情報は表面を滑り、泡のようにどこかへ消えていってしまう。頭の芯がふやけて、ぐにゃぐにゃに溶けてしまっているかのようだ。自分の中を何もかもがサッと素通りしていく。もう寝たほうがいい。スパッと切り替えて朝早く起きれば本を読んだりする時間ができるのではないか。何度もそう思うが、指は画面をなぞり続け、身体はぐったりとソファに沈んだままだ。

          自由に葉を広げる

          冬の朝

          起きたいのに布団からなかなか出られない。もう少しだけ布団の中にいたい。土曜日の朝。一週間の中で一番好きな時間。何かに急かされることがなく、何でもできそうな自由な時間。意を決し、がばっと布団を剥ぎ取る。身体を包んでいた暖かい空気が霧散した。上半身をゆっくりと起こす。頭はまだぼおっとして身体の動きがぎこちない。寝る前に触っていたはずのスマホはどこだろうと枕もとを探る。枕の下に黄色いカバーが見えた。スマホを掴み、立ち上がる。 寝室のドアを開けて、リビングに足を踏み入れた。寝室よりも

          冬の朝

          森での一夜【完全版】

          周囲を見渡すと既に闇に覆われていた。焚火の炎だけが目の前で揺らめく。人の声も動物の鳴き声もここまで届かない。空気が冷たく澄んでいる。静寂の中、風に吹かれた樹々が、時折ざあざあと音を立てる。普段は、喧しいぐらいのクラスメイトが誰一人いなくて、ひどく心細い。森の中では、何だか自分が弱くなったような気がする。目の前に視線を戻す。ジジジッと炎が音を立てた。 林業学校のカリキュラムの一つであるブッシュクラフト。自然の中にあるものを利用し、森や自然の中で過ごすための技術。このクラスでは

          森での一夜【完全版】

          夜明け(「森での一夜」より)

          「森での一夜」より バスの集合場所にのろのろと歩いて行くと、人影が見える。クラスメイトのトーマスが僕に向かって手を振っている。手を振り返し、周りを見渡す。僕ら二人以外にはまだ誰もいないようだ。「森での一晩はどうだった?」と聞く。トーマスが「一晩中起きてた。早く帰りたくて、集合場所に一番乗りした」と眠そうな目をこちらに向けて答える。ああ、僕だけではなかったのか。何かしゃべろうとするが、言葉が上手く出てこない。固いネジか何かで頭がきつく締められているみたいだ。沈黙が流れる。そっ

          夜明け(「森での一夜」より)

          夜明け前(「森での一夜」より)

          「森での一夜」より 空が白み始めた。倒木に座りながら辺りを見渡す。真っ黒だった暗闇が少し薄らいでいる。目の前の焚火は小さいが、じんわりと身体に熱が伝わってくる。夜中に目が覚め、その後はずっと眠れずに焚火の前で時間をつぶしていた。頭がぼんやりとして鉛のように重い。唇はかさついて、少し痛い。昨晩、歯を磨けていないから、口の中が妙に粘つく。気持ちが悪い。バックパックからペットボトルを取り出し、口に水を含む。ペッと勢いよく吐き出す。バスの集合時間は6時だったが、帰り支度をもう始めよ

          夜明け前(「森での一夜」より)

          夕暮れ時に(「森での一夜」より)

          「森での一夜」より 足の指先にチリチリとした痛みを感じる。目を開けようとするが、瞼が重い。ゆっくりと目を開けると暗闇が広がっていた。頭の上に手を伸ばし、ヘッドライトをONにする。手元がパッと白い光で照らされる。腕時計を見ると、既に1時を過ぎていた。気づかないうちに少し眠っていたようだ。上体を起こそうとするが、思うように動かない。バキバキと音を立て、折れてしまうのではないか。重い身体をスローモーションのように動かす。横になった時、眼鏡をどこかに置いたはずだ。しかし、頭がぼおっ

          夕暮れ時に(「森での一夜」より)

          父の顔

          身体の中に残っている眠気を追い出すように、冷たい水で顔を洗う。ザァァと蛇口から出る水がいつもよりも冷たく、気持ちが良い。タオルで顔を拭き、鏡の前に立つ。喉ぼとけの周りを何度か触る。髭の剃り残しがどうにも気になって仕方がない。チクチクとする短い髭をつまむ。どうせ、すぐに生えてくるからまあいいか。まだ剃ったばかりの髭が青々としているのを見ると、げんなりしてしまう。この髭の濃さは、父親譲りである。「お父さん、この前来てくれたけど、あの髭の濃い人だろ?」と小学校の頃に通っていた床屋で

          父の顔

          森の夜に吠える(「森での一夜」より)

          カナダの森で一夜を過ごす。周囲を見渡すと既に闇に覆われ、焚火の炎だけが目の前で揺らめく。人の声も動物の鳴き声もここまで届かない。空気が冷たく澄んでいる。静寂の中、風に吹かれた樹々が、時折ザァザァと音を立てる。普段は、喧しいぐらいのクラスメイトも誰一人いなくて、心細い。目の前に視線を戻す。ジジジッと炎が音を立てた。 11月のカナダの森では雪は積もらないが、兎に角寒い。森で一夜過ごすのであれば、一晩中火を絶やさないこと。これがマストだ。 夕方に、もみの木の葉と小枝をかき集め、さ

          森の夜に吠える(「森での一夜」より)

          食べる。生きている。

          そろそろ油が熱くなったんじゃないか?鶏肉を一つ掴み、油に投入する。ジュワッ。パチ、パチパチ。油がコンロの周りまで跳ねた。フライパンの中で、衣が早くもキツネ色に変わっていく。少し火が強かったのだろうか?フライパンの下をのぞき込むと、小さな火が揺らめいている。上手く揚げるのは難しいなと思いながら、火を弱めた。 パチパチ、パチパチ。油の跳ねる音。九月に入ってから急に気温が下がったせいなのか、喉の調子がすこぶる悪い。ンン、あぁーあぁー、と声を出す。あの夏の暑さは一体どこに行ってしまっ

          食べる。生きている。

          夏の終わりに虫と戯れる

          新卒で入社した会社を年末に辞めて東京から実家に戻ったが、手持ち無沙汰の日々が続いた。手持ち無沙汰と言うよりも、何となく何も手につかず、落ち着かないと言うほうが正しいのかもしれない。何年かぶりの自分の部屋は、高校卒業後に家を出た時とほとんど変わらない。 何日かすると部屋でじっとしていることに耐えられず、ジャケットを羽織り、用もないのに家を出る。とは言っても、都会と田舎でもないこの地元に遊べる場所なんてほとんどない。それでも、少し外の空気を吸いたくて、玄関横に停めてある父の自転車

          夏の終わりに虫と戯れる