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カナダの林業学校に行こう。

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軍隊並に厳しかったカナダの林業学校で過ごした日々について。
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寮からの引っ越し

7月から働き始めた測量会社での研修が始まった。オペレーターの仕事は、飛行機内で空間情報を集めるためのレーザー機器の操作。初日の研修では、空港の片隅に停めらた飛行機の中で機器の操作方法を教わった。新しい情報ばかりであっぷあっぷだったが、忘れないように必死でメモをとった。異なる言語や文化の中で働く際、メモを取る習慣は非常に有効で自分の強みになっている。操作を教わりながらも、頭の片隅では「早くアパートを見つけないと」と考えていた。 この研修には、同じくオペレーターで採用されたロー

出会えたことを忘れないように

明日の卒業式に出席するためにジムの両親が町に来ているとのことだった。「夕食をご一緒に」とのお誘いを受けたので、ジムと一緒に彼らが滞在しているホテルにこれから行くことになっている。支度を整えたジャッキーさんと一緒に部屋を出る。ジムの部屋をノックするが、応答がない。寮で他にジムが行くとしたら、中庭だ。煙草を吸っているのかもしれない。「タバコ吸っているだろうから、中庭に行ってみよう」と言って階段を降りる。一階の廊下には何人かがたむろしていた。明日の卒業式を残すだけだから、みんなどこ

森での一夜【完全版】

周囲を見渡すと既に闇に覆われていた。焚火の炎だけが目の前で揺らめく。人の声も動物の鳴き声もここまで届かない。空気が冷たく澄んでいる。静寂の中、風に吹かれた樹々が、時折ざあざあと音を立てる。普段は、喧しいぐらいのクラスメイトが誰一人いなくて、ひどく心細い。森の中では、何だか自分が弱くなったような気がする。目の前に視線を戻す。ジジジッと炎が音を立てた。 林業学校のカリキュラムの一つであるブッシュクラフト。自然の中にあるものを利用し、森や自然の中で過ごすための技術。このクラスでは

夜明け(「森での一夜」より)

「森での一夜」より バスの集合場所にのろのろと歩いて行くと、人影が見える。クラスメイトのトーマスが僕に向かって手を振っている。手を振り返し、周りを見渡す。僕ら二人以外にはまだ誰もいないようだ。「森での一晩はどうだった?」と聞く。トーマスが「一晩中起きてた。早く帰りたくて、集合場所に一番乗りした」と眠そうな目をこちらに向けて答える。ああ、僕だけではなかったのか。何かしゃべろうとするが、言葉が上手く出てこない。固いネジか何かで頭がきつく締められているみたいだ。沈黙が流れる。そっ

夜明け前(「森での一夜」より)

「森での一夜」より 空が白み始めた。倒木に座りながら辺りを見渡す。真っ黒だった暗闇が少し薄らいでいる。目の前の焚火は小さいが、じんわりと身体に熱が伝わってくる。夜中に目が覚め、その後はずっと眠れずに焚火の前で時間をつぶしていた。頭がぼんやりとして鉛のように重い。唇はかさついて、少し痛い。昨晩、歯を磨けていないから、口の中が妙に粘つく。気持ちが悪い。バックパックからペットボトルを取り出し、口に水を含む。ペッと勢いよく吐き出す。バスの集合時間は6時だったが、帰り支度をもう始めよ

夕暮れ時に(「森での一夜」より)

「森での一夜」より 足の指先にチリチリとした痛みを感じる。目を開けようとするが、瞼が重い。ゆっくりと目を開けると暗闇が広がっていた。頭の上に手を伸ばし、ヘッドライトをONにする。手元がパッと白い光で照らされる。腕時計を見ると、既に1時を過ぎていた。気づかないうちに少し眠っていたようだ。上体を起こそうとするが、思うように動かない。バキバキと音を立て、折れてしまうのではないか。重い身体をスローモーションのように動かす。横になった時、眼鏡をどこかに置いたはずだ。しかし、頭がぼおっ

森の夜に吠える(「森での一夜」より)

カナダの森で一夜を過ごす。周囲を見渡すと既に闇に覆われ、焚火の炎だけが目の前で揺らめく。人の声も動物の鳴き声もここまで届かない。空気が冷たく澄んでいる。静寂の中、風に吹かれた樹々が、時折ザァザァと音を立てる。普段は、喧しいぐらいのクラスメイトも誰一人いなくて、心細い。目の前に視線を戻す。ジジジッと炎が音を立てた。 11月のカナダの森では雪は積もらないが、兎に角寒い。森で一夜過ごすのであれば、一晩中火を絶やさないこと。これがマストだ。 夕方に、もみの木の葉と小枝をかき集め、さ

森での一夜

毎日頑張っているのにやらなければいけないことはどんどん増えて、「どうしよう?どうしよう?」という思いで頭がパンクしてしまうことはないだろうか?最後には、何も考えたくなくなって思考が停止する経験をされた方は多いかもしれない。 仕事や勉強をしている時、僕も慌てふためいて、何もかもが嫌になることがある。ただ、カナダの森で一晩過ごす経験してから、慌てている時ほど深呼吸が大事だと気づいた。ぜひ、ゆっくり深く呼吸してみてほしい。慌ただしく感じているのは、自分だけで時間はゆっくり、穏やかに

夏の終わりに虫と戯れる

新卒で入社した会社を年末に辞めて東京から実家に戻ったが、手持ち無沙汰の日々が続いた。手持ち無沙汰と言うよりも、何となく何も手につかず、落ち着かないと言うほうが正しいのかもしれない。何年かぶりの自分の部屋は、高校卒業後に家を出た時とほとんど変わらない。 何日かすると部屋でじっとしていることに耐えられず、ジャケットを羽織り、用もないのに家を出る。とは言っても、都会と田舎でもないこの地元に遊べる場所なんてほとんどない。それでも、少し外の空気を吸いたくて、玄関横に停めてある父の自転車

青空の下、仕事について思う

5月から8月末までの夏休みの間は、カナダの林業学校の学長を退任したジェリーが経営するクリスマスツリー農園でサマージョブをしている。農園での仕事は、クリスマスツリー(和名:もみの木、英名:Balsam Fir )の手入れ。主に、伸びてきたもみの木の葉を切って整えること。後は、芝刈り、植樹、農園維持管理など。今日は、もみの木の手入れを一日中やる予定だ。 オフィス代わりの物置小屋で、剪定用のブレードに汚れ除去のスプレーを吹きかけ、仕事の準備を始める。仕事始めは、いつも心も身体もず

青空の下、汗水垂らして働く

カナダのブリティッシュ・コロンビア州での猛暑の話を友人から聞くまで全く知らなかった。慌ただしい日々に流されていると、意識しなければ3年も過ごした国の危機的なニュースであっても、気づかぬ内に自分の脇を通り過ぎていく。 多くの人がカナダに対して冬のイメージを抱くのではないだろうか?もちろん、冬に雪が壁のように積もることもある(住んだことのあるカナダ東側に関して)が、夏は比較的暑い。それでも、摂氏49.5度という数字が、この猛暑がいつもの暑さではなく、異常なものであるということを物

身近にあった探しもの

僕らは、どこかにほしいものを探しに出かける。色んな場所に出かけたり、新しい方法を試したりして。必死になればなるほど、見つからないことはざらだけれども。皮肉なのか、そういうものなのか、ほしいものほどすごく身近にあることに気づくのだ。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 4月末に後期のクラスが終わると、夏休みがやってきた。林業学校の夏休みは、4月末から8月末まで。夏季クラスは

生態系の中で生きる

自然は偉大であり多くのことを教えてくれる、と言われる。最近のアウトドアブームを考えると、皆何かを自然の中に求めて、山や森に入ろうとしているのかもしれない。 確かに、自然は先生のような存在なのかもしれないが、都会に住んでいるとあまりその実感が湧かないのではないだろうか。 例に漏れず、僕も自然の偉大さや自然そのものを実感する機会に恵まれずに人生を送ってきたが、カナダでの夏休みに森で虫を捕り、植物を採って自然の中で過ごしたら、自分も生態系の一部なんだよなと感じることができた。 _

「サブウェイ行こうぜ」

必要な買い物が終わったので、昼ご飯に何か食べようと家族連れで賑わうフードコートをうろうろする。ラーメンにカレーにチャンポンにマクドナルド。日本のフードコートは、選択肢が多い。そういえば一階の隅にサブウェイがあった。サブウェイのサンドイッチはカナダでもう飽きるぐらい食べたな。食べ物の思い出は、強く記憶に残る。どこでも食べれるのにこのサンドイッチを食べると、色んなことが今も鮮明に思い出される。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/