マガジンのカバー画像

これからの暮らしを。

7
カナダから日本に帰ってきてからの出来事や思いについて。
運営しているクリエイター

記事一覧

自由に葉を広げる

ようやく一日が終わった。放心状態で何もする気が起きない。ソファに寝ころんだまま、無暗にスマホをいじる。指で画面をなぞれば、次から次へと情報が現れる。情報は表面を滑り、泡のようにどこかへ消えていってしまう。頭の芯がふやけて、ぐにゃぐにゃに溶けてしまっているかのようだ。自分の中を何もかもがサッと素通りしていく。もう寝たほうがいい。スパッと切り替えて朝早く起きれば本を読んだりする時間ができるのではないか。何度もそう思うが、指は画面をなぞり続け、身体はぐったりとソファに沈んだままだ。

父の顔

身体の中に残っている眠気を追い出すように、冷たい水で顔を洗う。ザァァと蛇口から出る水がいつもよりも冷たく、気持ちが良い。タオルで顔を拭き、鏡の前に立つ。喉ぼとけの周りを何度か触る。髭の剃り残しがどうにも気になって仕方がない。チクチクとする短い髭をつまむ。どうせ、すぐに生えてくるからまあいいか。まだ剃ったばかりの髭が青々としているのを見ると、げんなりしてしまう。この髭の濃さは、父親譲りである。「お父さん、この前来てくれたけど、あの髭の濃い人だろ?」と小学校の頃に通っていた床屋で

冬の朝

起きたいのに布団からなかなか出られない。もう少しだけ布団の中にいたい。土曜日の朝。一週間の中で一番好きな時間。何かに急かされることがなく、何でもできそうな自由な時間。意を決し、がばっと布団を剥ぎ取る。身体を包んでいた暖かい空気が霧散した。上半身をゆっくりと起こす。頭はまだぼおっとして身体の動きがぎこちない。寝る前に触っていたはずのスマホはどこだろうと枕もとを探る。枕の下に黄色いカバーが見えた。スマホを掴み、立ち上がる。 寝室のドアを開けて、リビングに足を踏み入れた。寝室よりも

夏の朝

ドアを開けると、むわっとする空気が身体を包む。朝はまだ暑さがそこまでではないのに。それでも今日は少し曇り空で、歩くにはちょうど良いコンディションだ。距離測定のアプリを起動し、それからお気に入りのプレイリストから無造作に曲を選ぶ。インストゥルメンタルの曲が流れ出す。さあ、歩こう。 今住んでいる町には、いくつかの公園や木々に囲まれたトレイルがあり、ウォーキングには最適だ。黙々と15分ほど歩くと、通っているジムの前にたどり着く。休憩がてら足を止める。今日はまだ誰ともすれ違っていな

落語聞いてる?

ひょんなことから落語を聞き始めた。落語を聞いたら、大人の仲間入りができると思ったのか。落語を聞いたら、頭が良いと思われると思ったのか。それとも、音楽以外に何か新しいものを聞いてみたかったのか。 家の近くに落語が聞ける場所はない。図書館で借りた落語のCDを聞く。名前も初めて知る噺家。扇子で蕎麦をすすり、キセルで煙草を吸う。扇子を大きく開き、酒を飲み干す。顔の向きで人物が切り替わり、何人もの人が現れる。何とも不思議な世界。 図書館のCDでは飽き足らず、CDショップでまだ聞いたこと

伝えたくても、伝わらない。

コミュニケーションの難しさを痛切に実感する。伝えたくても、うまく伝わらない。母国語なのに、うまく伝わらない。 カナダで、英語がうまく伝わらないことは何度もあった。サブウェイの注文ですらうまく伝わらない。林業学校の課題で自分の意見がうまく伝わらない。職場で上司に文句を言うが、うまく伝わらない。 それでも、友人や同僚に気持ちや言いたいことが伝わった時、幸せだと感じた。毎日のコミュニケーションで幸せを感じるの?林業学校や職場では毎日が勝負の場で、伝わることは些細だったかもしれない

これからの話も

「広告をつくったことがないんです」 企画メシの講座を受けながら、言い訳がましく、何度もつぶやく。企画も広告も、今の仕事とは繋がりがないことを反芻する。なぜ、この講座に参加しているのか?なぜ、仕事と関係ないことを時間をかけて学ぶのか? 自分の広告をつくる。課題は、動画でもパワポでも何でもOK。 シンプルにつくろう。名前と目立つ経歴を入れる。何か得意なこと、できることのアピールも書いておこう。自分のできることって何だろう。森林の知識か、カナダに居た経験か。知識や経験は、広告に入