Kenji Nakahira

量子論 / 量子情報理論 / 量子測定 の研究者です。 Webページ:https://…

Kenji Nakahira

量子論 / 量子情報理論 / 量子測定 の研究者です。 Webページ:https://sites.google.com/view/nakahira/

マガジン

  • 図式と操作的確率論による量子論

    書籍「図式と操作的確率論による量子論」(森北出版,https://www.morikita.co.jp/books/mid/017061)の紹介です。

  • 図式で学ぶ線形代数

    図式を活用することで線形代数の基礎のいくつかをわかりやすく説明することを目的としています。量子論を学ぶ際に役立ちそうな話題を中心に説明します。ただし,線形代数に対して広く使える内容になっていますので,量子論に興味がない人にも役立つはずです。一度は線形代数を学んだことがある方を対象としています。

  • 図式で学ぶ量子論

    図式を活用することで有限次元系の量子論の数学的構造とその操作的・確率的な性質をわかりやすく説明することを目的としています。

最近の記事

「観測問題」は不良設定問題か?

量子論における「観測問題」は存在し,かつ実証科学として部分的な答えを与えられるといってもよいのではないかと,私自身は考えています。この記事では,その理由として,部分的な答えを与えられそうな具体的な問題を明らかにしたいと思います。 「観測問題」とは? 「観測問題」について議論するためには,この用語の意味を十分に明確にする必要があるでしょう。この用語の意味については,以下の記事の「誤解1:量子論に『観測問題』は存在しない」にて述べました。 ここでは,上の記事から関連部分を引

    • 書籍『ストリング図で学ぶ圏論の基礎(仮題) 』の査読者を募集します

      23/10/30追記:募集を締め切りました。また,『ストリング図で学ぶ圏論の基礎(仮)』に応募をしてくださった方に,選定結果をメールでお知らせしました。応募をしたけれどメールが届いていない方は,ご連絡くださると幸いです。 2024年秋頃の出版をめざし,『ストリング図で学ぶ圏論の基礎(仮題)』という書籍を執筆しています。この度,本書の査読をしてくださる方を募集いたします。 圏論に詳しい方も詳しくない方も大歓迎ですので,ぜひ応募をご検討くださると嬉しいです。応募期限は2023

      • 物理量の「足し算」や「掛け算」は図式で表すと直観的かも

        拙著『図式と操作的確率論による量子論』で紹介している「操作論」は,いたるところで現れます。その簡単な具体例の一つとして,「物理量の足し算」や「物理量の掛け算」について紹介します。この記事は,操作論を知らない読者でも読めるように(ていねいに読めば中学生でもわかるように),わかりやすく書いています。 物理量の足し算 まず,「物理量の足し算」の世界について述べます。「2メートル」という物理量を,次のように表すことにします。 「物理量の足し算を行う」という演算を,次式のように表

        • なぜ量子論では線形代数が必要なのか?

          量子論について理解するためには,線形代数に関する知識が少なからず必要になるはずです。その理由は,量子論では線形写像を考えることが実質的に不可欠であるためといえるでしょう。そもそも,なぜ量子論では線形写像が現れるのでしょうか?その理由を,量子論の専門家ではない人にできるだけわかりやすく説明します。 量子論では,大別すると2種類の線形写像が現れます。これらを区別できれば,量子論に関する理解が大幅に深まることと思います。 準備:線形写像とは まず,線形写像についてざっくりと説

        「観測問題」は不良設定問題か?

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        • 図式と操作的確率論による量子論
          5本
        • 図式で学ぶ線形代数
          6本
        • 図式で学ぶ量子論
          8本

        記事

          ディラックのデルタ関数と超関数

          この記事では,ディラックのデルタ関数を中心に,超関数の考え方についてできるだけわかりやすく説明します。物理学や工学においてデルタ関数を使う機会がある方を対象にしています。 デルタ関数の定義 $${\R}$$を実数全体とします。また,単に関数とよんだ場合には$${\R}$$から$${\R}$$への関数のことを指すものとします。一般的には,ディラックのデルタ関数$${\delta}$$は,$${\delta(x) = 0 ~(\forall x \neq 0)}$$を満たし,

          ディラックのデルタ関数と超関数

          量子論において初学者が誤解しやすいいくつかのこと

          量子基礎論の初学者や専門家ではないと思われる方が事実であると誤解しやすい(かもしれない)五つのことがらを挙げてみたいと思います。 はじめに:誤解とは何か? この記事では,「事実とはいえないことを事実であると解釈すること」を『誤解』とよぶことにします。明らかに事実ではないことや現時点では事実であるか否かがわかっていないことを事実だと捉えることは,誤解といえるでしょう。また,物理学としての量子論に限定し,事実であるか否かを物理的な立場から考えることにします。各用語の定義として

          量子論において初学者が誤解しやすいいくつかのこと

          図式と操作的確率論による量子論 番外編 ~初学者向け資料~

          連載の記事一覧: #1 目的や特徴 #2 図式とは #3 操作的確率論とは #4 標準的な量子論の書籍との違い 番外編 ~初学者向け資料~ 書籍「図式と操作的確率論による量子論」の初学者向け資料を作成しました。 下記Webサイト の「図式と操作的確率論で学ぶ量子論 ~ 操作的確率論および量子論の入門 ~」からダウンロードできます。 本書は,量子論にある程度なじみのある方たちに図式や操作的確率論を知ってもらうことを意識して書いており,初学者にとって難しいと思われる箇所が

          図式と操作的確率論による量子論 番外編 ~初学者向け資料~

          図式で学ぶ線形代数 番外編その2 ~ベクトル解析~

          連載の記事一覧: #1 図式の基礎と線形代数の基礎 #2 スペクトル分解と特異値分解 #3 テンソル積およびトレース・転置・内積 #4 行列が作るヒルベルト空間 番外編 列ベクトルや行列での微分 番外編その2 ベクトル解析 3次元実ベクトル空間 $${ \R^3 }$$ でのベクトル解析を図式で表現する方法を述べます。多少の慣れが必要ですが,図式を活用すると,数式を用いる場合と比べて素直に表現できて,またいろいろな公式をすぐに導けるようになります。この記事により,図式のおも

          図式で学ぶ線形代数 番外編その2 ~ベクトル解析~

          図式と操作的確率論による量子論 #4 ~標準的な量子論の書籍との違い~

          書籍「図式と操作的確率論による量子論」の紹介記事です。最終回である今回は,本書と標準的な量子論の書籍との違いについて述べます。 連載の記事一覧: #1 目的や特徴 #2 図式とは #3 操作的確率論とは #4 標準的な量子論の書籍との違い 番外編 ~初学者向け資料~ はじめに本書には,標準的な量子論の書籍(以降,他書とよびます)にはない特徴的な点が少なからずあります。最も特徴的な点は図式や操作的確率論の視点から説明することだと思いますが,量子論の捉え方についても他書とは異

          図式と操作的確率論による量子論 #4 ~標準的な量子論の書籍との違い~

          図式と操作的確率論による量子論 #3 ~操作的確率論とは~

          書籍「図式と操作的確率論による量子論」の紹介記事です。今回は,本書のタイトルにも含まれている「操作的確率論」について説明します。 連載の記事一覧: #1 目的や特徴 #2 図式とは #3 操作的確率論とは #4 標準的な量子論の書籍との違い 番外編 ~初学者向け資料~ 操作的確率論と古典論・量子論との関係操作的確率論(Operational Probabilistic Theory)をひと言で述べると,「物体の操作的・確率的なふるまいを具体的な物理法則とは切り離して考える

          図式と操作的確率論による量子論 #3 ~操作的確率論とは~

          図式で学ぶ量子論 #5 ~プロセスの表現~

          連載の記事一覧: #1 量子論の数学的構造 #2 CP写像の基礎 #3 確率論としての古典論・量子論(前編) #4 確率論としての古典論・量子論(後編) #5 プロセスの表現 番外編 2準位系から多準位系への演繹による拡張は難しい 番外編その2 堀田先生の書籍(中略)演繹的に導けていない 番外編その3 量子もつれ状態と非局所相関について 今回は,プロセスの表現を中心に説明します。 cup列ベクトルを用いてcup状態を定められます(cup列ベクトルの定義は「図式で学ぶ線形代

          図式で学ぶ量子論 #5 ~プロセスの表現~

          図式と操作的確率論による量子論 #2 ~図式とは~

          書籍「図式と操作的確率論による量子論」の紹介記事です。今回は,「図式」について説明します。 連載の記事一覧: #1 目的や特徴 #2 図式とは #3 操作的確率論とは #4 標準的な量子論の書籍との違い 番外編 ~初学者向け資料~ 図式とは何か図式とは,線形代数などに関する数式と同じ内容のものを図形により表現したものです。厳密性を保ったまま表現でき,(数式と同じく)図式のみを用いて計算できます。量子回路やテンソルネットワークの図をご存知の方はイメージしやすいかもしれません

          図式と操作的確率論による量子論 #2 ~図式とは~

          図式で学ぶ量子論 番外編その3 ~量子もつれ状態と非局所相関について~

          連載の記事一覧: #1 量子論の数学的構造 #2 CP写像の基礎 #3 確率論としての古典論・量子論(前編) #4 確率論としての古典論・量子論(後編) #5 プロセスの表現 番外編 2準位系から多準位系への演繹による拡張は難しい 番外編その2 堀田先生の書籍(中略)演繹的に導けていない 番外編その3 量子もつれ状態と非局所相関について 2022年のノーベル物理学賞は,もつれ状態を用いた光子に関する基礎的な実験で,アスペさん,クラウザーさん,ツァイリンガーさんに授与されるこ

          図式で学ぶ量子論 番外編その3 ~量子もつれ状態と非局所相関について~

          図式と操作的確率論による量子論 #1 ~目的や特徴~

          書籍「図式と操作的確率論による量子論」の紹介です。 連載の記事一覧: #1 目的や特徴 #2 図式とは #3 操作的確率論とは #4 標準的な量子論の書籍との違い 番外編 ~初学者向け資料~ 量子論は我々の直観に反する不思議な性質をもっており,そのイメージをつかむことは容易ではありません。また,量子論で現れる数式が複雑でわかりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。しかし,量子論が操作的で確率的な理論とみなせることを知り,また数式よりも直観的に表現できる方法があること

          図式と操作的確率論による量子論 #1 ~目的や特徴~

          図式で学ぶ量子論 #4 ~確率論としての古典論・量子論(後編)~

          連載の記事一覧: #1 量子論の数学的構造 #2 CP写像の基礎 #3 確率論としての古典論・量子論(前編) #4 確率論としての古典論・量子論(後編) #5 プロセスの表現 番外編 2準位系から多準位系への演繹による拡張は難しい 番外編その2 堀田先生の書籍(中略)演繹的に導けていない 番外編その3 量子もつれ状態と非局所相関について 前回に続き,古典論と量子論の確率的な性質を説明します。 あるプロセス $${ f }$$ が施される確率(つまり $${ f }$$ の

          図式で学ぶ量子論 #4 ~確率論としての古典論・量子論(後編)~

          図式で学ぶ量子論 #3 ~確率論としての古典論・量子論(前編)~

          連載の記事一覧: #1 量子論の数学的構造 #2 CP写像の基礎 #3 確率論としての古典論・量子論(前編) #4 確率論としての古典論・量子論(後編) #5 プロセスの表現 番外編 2準位系から多準位系への演繹による拡張は難しい 番外編その2 堀田先生の書籍(中略)演繹的に導けていない 番外編その3 量子もつれ状態と非局所相関について 前々回では古典論と量子論の数学的構造について説明し,前回ではCP写像(つまり量子論におけるプロセス)について説明しました。今回と次回では,

          図式で学ぶ量子論 #3 ~確率論としての古典論・量子論(前編)~