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日本企業の旧くて新しい課題

 青山学院大学名誉教授で国際経営学をご専門とする林吉郎先生の著書『異文化インターフェイス経営』、1994年に出版されたものです。

  グローバル経営において課題となる異文化間のコミュニケーションギャップが、現地駐在員の異文化コミュニケーションの問題に変わってしまっていることを問題視し、そのギャップを、本社の問題と捉えて異文化インターフェイスをデザインすることで解決を図るべきであることを主張しています。

 まず筆者は、コミュニケーションギャップがもたらす重大な結果(問題)を以下のように挙げてます。
①一流の現地人が日本の企業を辞めてしまう。離職率が増えるだけでなく、有能な新しい人が来てくれない風土をつくってしまう
②その結果、現地発の有力な戦略情報が生まれない。情報の流れは日本からの一方通行となり国際競争力が低くなる
③日本人が主要ポストを占めて遂行するグローバル化。日本人出向者のコストがかさみ利益が出ない。
④問題に耐え切れず極端な現地化と現地人化戦略となり、肝心なところで制御が難しくなる
⑤「日本人の、日本人による、日本人のための」海外事業という悪いイメージ。世界での大きな展開が期待できない
⑥訴訟や摩擦が増え、裁判、コンサルティング、日本人の担当人件費など多額の費用とエネルギーが必要となる
⑦出向日本人の苦労が本社に理解されず、できて当たり前と思われてしまう。現地で本当にできた人は代わりがいないで本社に戻れなくなり、帰れてもキャリア上大きなプラスにならない。欧米企業で海外経験がトップになる必要条件となっているのと大違い

 その上で、「日本企業が海外子会社の中で直面する問題の性質に対する認識と洞察は、現地に派遣された出向管理者だけの任務ではなく本社機能に属する。海外現地法人の異文化インターフェイスの問題を、派遣役員や管理者の問題として考えている本社はグローバル化企業の本社とは言えない。」としています。

 この問題を解決するために、筆者は、本社と現地の知覚とコミュニケーションのモデルの違いを「アナログ型」、「デジタル型」と区別し、「アナ・デジ型人間」と「デジ・アナ型人間」を本社と現地法人の双方に作ることで異文化間のインターフェイスを巧みにデザインせよとしています。

 一連の筆者の主張で注目すべきは、世界的に見て異質な日本企業のアナログ体質をデジタル化せよとの当時の論調に疑念を呈しているところです。

 本社が執筆された1990年代前~中盤はバブル崩壊に伴う自信喪失から日本型経営に対する否定的・自虐的ムードが高まっていた頃です。現に多くの企業が人事評価制度を成果主義へと変更する動きがありました。

 筆者は一概に日本企業のアナログ文化を否定することなく、デジタル文化とのインターフェースとなる「アナ・デジ人間」、彼我の両文化を体現する「第三文化体」を社内に作ることがグローバルビジネス成功に欠かせないと、その意義や育成方法にまで幅広く、詳しく主張を展開しています。

 そして今、デジタル化に出遅れた上にコロナ禍によって痛手を負った日本企業の変革、再興のため、”ジョブ型雇用”へのシフトが声高に叫ばれています。盲目的にそれに従う前に、日本企業に根差した文化を踏まえて冷静な議論が必要であることに気付かせてくれる一冊です。

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