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人材紹介は成功報酬、という常識を疑ってみる

 私が属している人材紹介業(登録型)は、成功報酬型の料金体系で、求人を行なう企業(クライアント)に対して推薦した候補者が入社した時点で手数料(売上)が発生します。

 募集広告を掲載した時点で料金が発生する求人広告や、候補者の探索を開始する時点で着手金が発生するサーチ型(リテーナー型)の人材紹介と比較すると、"入社"と"支払い"の前後関係だけを単純に比較した場合は確かに"後払い"と言えます。

 一方で、推薦した候補者を採用した企業の"満足"と"支払い"の前後関係はどうでしょうか。

 並いる競合に勝利して業界や専門分野の有力者を採用することができた、というような分かりやすい場合はまさに"成功"報酬になります。また全社の人員計画(採用計画)を充足することを目標としている人事部の採用担当者にとっては自身の業績目標達成に対する"成功"報酬となるでしょう。

 しかし経営者や採用部門はどのタイミングで満足するでしょうか。

 言うまでもないことですが、人材、特に近ごろ多くの人材会社が好んで使う「ハイクラス」の人材を採用する背景には必ずその人に成し遂げてほしいミッションがあります。

 新たな事業の立ち上げやイノベーション、組織変革や不振事業のテコ入れといった"目的"に対して人材採用は"手段"です。

 そして経営者が「この人を採用してよかった」と心から思うのは、その"目的"が達せられた時に他なりません。

 仮にこれが正論だと支持されたところで人材紹介手数料が「お支払いは候補者の入社後、その人の活躍が認められた時点で」ということには絶対になりません。しかし、人材紹介サービスに携わる人が【紹介手数料=前金】という価値観でクライアントと向き合ったとしたら、間違いなくサービスの品質は向上するでしょう。

 期待値調整という大義のもと、いたずらに妥協を促して募集要件を緩和し、応募のハードルを下げたところで、"応募したい人"を広く募るニュアンスの求人票を作る。
 その時点で、企業が求める"真の採用ターゲット"にとっては何の興味も挑戦心も湧かない凡庸な求人票になっていることに気付かず、汎用的なテンプレートを使って当てはまりそうな全ての人にメールで拡散する。

 そこで集まった応募者を、あたかもそれが現実的にベストな候補者であるかのように推薦し、納得が得られなければ"市場感"(市場観、市場性という単語の誤用)という辞書にはない珍妙なワードを振りかざして妥協を迫る。

 そんなサービスは、採用人数目標を達成することに貢献することはできても、後に「あの時、時間はかかったけど○○さんの言う通り妥協せず▲▲もできる人を採っておいてよかった」というような豊かなユーザー体験を与えることはできないでしょう。

 労働市場の流動化が進み、優秀人材の獲得競争が一層熾烈になる中、クライアントの採用を"成功"に導く人材紹介の難易度はさらに高まりますが、だからこそ、何が成功なのかという本質を理解し、大切なクライアントをそこへと導くために研鑽を重ねたいと改めて思います。

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