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技術的にプロフェッショナルで文化的にセンシティブな人材

    修士論文執筆もいよいよ佳境に入り、今日も朝から参考文献、「アジア日系企業における異文化コミュニケーション」(片岡・三輪 編著,1997年)。中国、韓国、マレーシア、フィリピンの日系現地子会社における丹念な調査に基く、読み応えのある一冊です。

    第6章「異文化ビジネス・コラボレーションの実態分析」で本章の筆者である河合・Jaffeは、日本企業が現地子会社に対して技術移転を行なう際の困難さを、野中郁次郎氏が著書「知識創造経営」で提唱しているSECIモデルにあてはめて説明しています。

    SECIモデルは、組織内にあるノウハウを「暗黙知」と「形式知」に分け、個人のもつノウハウが、「暗黙→暗黙(=共同化)」、「暗黙→形式(=表出化)」、「形式→形式(=連結化)」、「形式→暗黙(=内面化)」というプロセスを繰り返すことによって組織能力として定着、発展していくとするものです。

※SECIモデルが解り易く解説されているサイトをご紹介します (OSAMU HASEGAWA FILMSホームページ)

    筆者は、「日系企業が創造的コラボレーションを現地人と行おうとする場合、日本人のもつ膨大なノウハウの「ホワイ」部分(なぜ、そうするのか)をいかに現地人に伝達するのかが鍵になる。」として、「表出化」が単に図面や技術用語のみに拠らないことを指摘するとともに、「この暗黙知から形式知への変換は最も困難な過程ではないだろうか。」としています。

    さらに筆者は、その理由について、「暗黙知とは、心理的モデル、信念、視点から成り立っており、それらはあまりにも深く内在化しているので、普段は意識されることはなく、従って容易に言語化できないものである。」という野中の言を引用することで、コンテクストの異なる者同士で表出化を行なうことの難しさを示唆しています。

    日本企業のアジアビジネスは、コロナ禍によって一層“自立化”を迫られています。日本のモノ作りやサービスが比較優位であるとすれば、単にその“HOW”を伝えるだけでなく、日本流の“WHY”を伝えつつ、現地人材が持つ知識や知恵を引き出し、認めることでコミットメントを高めていくことが重要です。

   それに伴い、駐在員や出張者など矢面に立つ人材が、一層「実務面でプロフェッショナルで、文化的にセンシティブでなくてはならない」(筆者)ということは間違いなく、各社は適切な人材を採用・育成・選定する必要があります。


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