なぜ熱狂的なコミュニティが過疎化してしまうのか?その原因と2つの対策
近年、多くのオンラインコミュニティが立ち上がり、世界的な盛り上がりを見せています。しかし、時間が経つにつれて「一部のユーザーしか交流してくれない…」という問題が生じ、アクティブユーザーが停滞し、コミュニティが過疎化するケースが散見されます。
本記事では、この問題の要因を特定したうえで、解決するために必要な2つのアプローチの提案を試みます。
コミュニティのコンセプトやテーマ設定を見直すこと
顧客体験サイクルのコアサイクルを適切にデザインし直すこと
これら2点が重要である旨を、コミュニティ失敗ストーリーや失敗要因に触れながら議論していきます。
なお、以下2点のコミュニティnote記事を前提土台にして議論を進めます。事前にご一読頂けたら幸いです。
熱狂的なコミュニティの失速
次のストーリーは新しくコミュニティを立ち上げたコミュニティ担当者の心情です。
コミュニティの立ち上げに大成功し、コミュニティは熱狂に包まれています。
しかし・・・。
いかがでしたでしょうか。
もしあなたが真面目にコミュニティ運営に取り組まれている方なら、このストーリーを読んで、冷や汗が出てしまうのではないでしょうか。
少なくとも私は胃が痛くなりました。
これはあくまで仮想的なストーリーです。
しかし実際、同様のシチュエーションを経験されたコミュニティ担当者は少なくないと考えられます。
なぜなら多くのコミュニティが「過疎化の課題」に直面しているからです。
初期の盛り上がりは幻想?:データが示す事実
実際のデータをもとに、コミュニティの成長と過疎化について詳しく見ていきましょう。次のデータは、いくつかのコミュニティをサンプリングして一般化したウィークリーアクティブユーザー数(WAU)のデータです。
コミュニティリーダーの育成に成功している、
オンラインコミュニティ
オンラインサロン
をいくつかピックアップしました。これらコミュニティはコミュニティリーダーの育成にある程度成功していると考えて下さい。コミュニティリーダー主導で企画が開催されています。
赤線がWAU(ウィークリーアクティブユーザー)で、1週間に1回以上プラットフォーム(Discord, Slack, facebook group)を起動したユニークユーザー数です。定期的にコミュニティに訪れるアクティブな人数をモニタリングできます。
青線はWeekly Post Userで、1週間に1回以上プラットフォーム上で投稿やコメントを行ったユニークユーザー数です。定期的にコミュニティ内で交流している人数をモニタリングできます。この数値が伸びているとコミュニティ内で会話が発生していることが分かります。つまり交流により人間関係のネットワークが形成されている(≒コミュニティ化している)と読み取ることが出来ます。
それでは各フェーズごとに見ていきましょう。まずは立ち上げ初期のフェーズです。
コミュニティ立ち上げ初期では、投稿ユーザー数とWAUが近い数字であることが分かります。
アクティブユーザーのうち大半が投稿活動もしているのです。これは自己紹介や初期企画の盛り上がり等で、積極的な投稿活動や交流が活発化するためであると考えられます。まさに熱量がコミュニティに伝播している瞬間を捉えています。まさに熱狂です。
次に1年後のデータです。
1年も経過するとアクティブユーザーが順調に伸び続けます。
しかし、アクティブユーザーの伸びに比べて、投稿ユーザー数が伸びていません。
投稿ユーザー数は、一定の水準で停滞し始めます。このあたりから「いつものメンバー」しか投稿活動が見られなくなります。
コミュニティ内の交流が活発化しない…。そんな不穏な空気を感じ始めるようになります。
そしてついに2年後です。
ついには投稿ユーザーも減少に転じてしまいました。「いつものメンバー」も減少しはじめてしまいます。彼らのモチベーションを保つのが難しくなってしまうからです。
加えて停滞していたアクティブユーザー数が減少に転じてしまいます。
アクティブユーザーも投稿ユーザーも両方減少する。
まさにコミュニティの過疎化です。
このデータは私たちに恐ろしい現実を突きつけます。
コミュニティの初期盛り上がりは実は幻想だったのかもしれないという現実です。
「コミュニティリーダーの育成に成功した!リーダー主導企画が回り始めている!すごい熱量だ!」と喜んでいる私達を、崖へ突き落とします。
なんと、コミュニティ立ち上げ初期に熱量が高まるのは「当たり前のこと」だったのです。
問題は、年単位の時間軸です。
年単位のスパンで見るとコミュニティの盛り上がりを持続させることは非常に難易度が高いことなのです。多くのコミュニティが過疎化の問題に直面すると考えられます。
このサンプリングデータは「コミュニティリーダーの育成に成功した」コミュニティです。
たとえリーダーを増やすことができても、このような状況に陥ってしまうのです。現実はあまりにも残酷です。
X年後のコミュニティ・グロース・ピラミッド
さて、このようなコミュニティの1年後や2年後のコミュニティ・グロース・ピラミッドはどのような状態になっているでしょうか?
コミュニティ・グロース・ピラミッドとは、コミュニティのアクティブ度合いを可視化するフレームワークです。リーダー、フォロワー、アクティブオーディエンス、ノンアクティブオーディエンスで構成されるピラミッド型のフレームワークです。
コミュニティ・グロース・ピラミッドの内訳は以下のとおりです。
・リーダー:何らかのイベントを企画したり、リーダーシップを発揮しコミュニティに貢献する人
・フォロワー:リーダーの企画に賛同し、コミュニティメンバーと共に交流したり、イベントに参加する人
・アクティブオーディエンス:交流活動は行わないが、コミュニティに定期的にアクセスし情報を得ているユーザー
・ノンアクティブオーディエンス:コミュニティに所属しているが、全く活動していない休眠ユーザー
コミュニティが過疎化に向かう時、次のような状態に陥ります。
リーダーは活動しているため良好な状態です。しかし「いつものメンバーしか交流していない」状況のため、交流するフォローワーに課題を抱えています。
また定期的にコミュニティにアクセスするアクティブユーザー数(WAU)も減少に転じているため、アクティブオーディエンスにも課題があります。
一体なぜ?:コミュニティの核と構造の理解
いったいなぜコミュニティが失速してしまうのでしょうか?
その理由を理解する前に、まずはコミュニティの核を思い出してみましょう。
コミュニティの核は「求心力の持続性」であることを過去noteで解説しました。
つまり、「人を惹きつけ続ける魅力」がコミュニティの核なのです。
人を惹きつけ続ける魅力があると、そこに人が集まり続けます。次第に人間関係のネットワークが張られ、友人関係ができるのです。
「価値があるから集まる」のではなく「友達だから集まる」という関係になり強固なコミュニティに成長します。
「求心力の持続性」これが核です。
そして構造です。
「求心力の持続性の持続性」が提供されるコミュニティでは、人間関係ネットワークが強固に結びつきます。
強い絆で結ばれた友人関係になるのです。
これを専門用語で「ネットワーク密度の高いクラスタ」と呼びます。
さらに強固なコミュニティでは、イベントAだけでなくイベントBやチャンネルCに参加する人が増えます。複数のクラスタに所属する人が増えるのです。
するとクラスタとクラスタを橋渡しするような人間関係ネットワークが張られます。
これを専門用語で「弱い紐帯(よわいちゅうたい)」と呼びます。
このような複雑なネットワーク構造を「複雑ネットワーク」と呼びますが、この状態が実現できると理想的で強固なコミュニティが実現するのです。
以上をまとめると、コミュニティの核は「求心力の持続性」でした。これがあると人を惹きつけ続けるので「ネットワーク密度の高いクラスタ」が形成されます。さらにクラスタ間を橋渡しする「弱い紐帯」が増え、最終的に、強固なコミュニティが実現するのです。
コミュニティ過疎化の原因は?
さて、コミュニティの核と構造を理解した上で、コミュニティ過疎化の原因に踏み込んでいきましょう。
なぜコミュニティリーダーの育成に成功しても、コミュニティが過疎化してしまうのでしょうか?
答えは「求心力の持続性」にあります。
リーダーを育成し維持することは出来ています。リーダーを惹きつけ続けることはできています。
しかし、フォロワーやアクティブオーディエンスを惹きつけ続ける「求心力の持続性」が不足しています。これが問題です。
アクティブオーディエンスはごくまれにイベントや企画に参加するかもしれません。(≒つまり一瞬だけフォローワーに成長するかもしれません。)
しかし1回イベントに参加した程度では友人はできません。
心を許せる関係にはなりません。クラスタは形成されないのです。
したがってフォロワーは1ヶ月も経過するとDiscordやSlackを眺めるだけの状態に戻ってしまいます。アクティブオーディエンスに戻ってしまうのです。
これがフォロワーが増えない要因です。求心力の持続性が不足しているからです。
それだけではありません。「求心力の持続性不足」はアクティブオーディエンスにも深刻なダメージを与えます。
アクティブオーディエンスは月に数回DiscordやSlackを立ち上げ、コミュニティの情報をウォッチします。情報収集目的でコミュニティを利用しています。
しかし、そんなアクティブオーディエンスも数ヶ月も経過すると、ワークスペースに訪れなくなります。
代わりに何をしているのか?
SNSです。twitter, YouTube, Tiktokなどのソーシャルメディアを眺めるようになり、DiscordやSlackから休眠してしまうのです。
なぜならSNSの方がDiscordよりも有益な情報が多いからです。
このように「求心力の持続性」が不足していると、アクティブオーディエンスを維持することが出来ません。すぐに休眠してしまうのです。
これは実質的にカスタマージャーニーが崩壊している状態です。
だからコミュニティは過疎化してしまうのです。
求心力の持続性が不足する理由1:コンセプト・テーマ設定
求心力の持続性が不足しているとコミュニティは過疎化してしまう。。
ではなぜ求心力の持続性が不足してしまうのでしょうか?その理由はどこにあるのでしょうか?
第一に考えるべき要因は、コミュニティのコンセプトやテーマです。
コミュニティとは共通の目的や価値観を持つ人々の集まりです。したがってコンセプトとは「誰に、どのような価値を届け、どんな目的を追求するのか」を明確にするものであり、コミュニティの軸です。
この軸であるコンセプトを明確にすることが重要です。
例えば17世紀フランスのサロンは、エリート階級の中で芸術、文学、哲学、政治などについて議論する場(コミュニティ)として設立されました。このサロンは以下のようなコンセプトであったと推測できます。
[誰に]
・教養豊かな上流社会の男女。政治家、作家、哲学者、芸術家などの知識人
[どのような価値を]
・知的興奮
・社会的ネットワーク
[目的]
・思想・芸術・文化の発展と社会的影響力の拡大
このように17世紀フランスの「サロン」は参加者に知的興奮と社会的ネットワークを提供していました。だからこそ多くの人を惹きつけ続けることができるコミュニティに成長したのです。
「求心力の持続性」はコミュニティコンセプトやテーマで決まってしまいます。
「コンセプトはないけど、とりあえず集まりましょう!」というコミュニティが人を惹きつけ続けることができるでしょうか?
当然否です。
したがって「人を惹きつけ続けられないコンセプトやテーマ」が設定されていないか、見直しが必要です。
例えば、「爪切りのハックを楽しむコミュニティ」と「マインクラフトのハックを楽しむコミュニティ」どちらの方が人を惹きつけ続けることができるでしょうか?
当然ながらマインクラフト(ゲーム)ですよね。マインクラフトの方が人を惹きつけ続ける魅力があります。マインクラフトコミュニティの方が盛り上がりが長期間持続するでしょう。
このようにコンセプトやテーマ設定で求心力の持続性が決まります。テーマを選んだ瞬間にコミュニティの寿命が7割型決まってしまいます。
求心力の持続性を高めるために必要な1つ目のアプローチは、テーマ設定やコンセプトを見直すことです。
「誰に、どのような価値を、どんな目的で提供するコミュニティなのか?」見直しをしましょう。
過去noteで解説したとおり、コンセプトやテーマ設定を見直すことで「求心力の持続性」を引き上げることが可能です。
求心力の持続性が不足する理由2:顧客体験のデザイン
適切なコンセプトやテーマを設定できましたか?これで「求心力の持続性」は安泰でしょうか?
残念ながらこれだけでは不十分です。乗り越えるべき壁がもう一つあります。
「コミュニティの顧客体験デザイン」
これが不適切だと、求心力の持続性が担保されません。
コミュニティユーザーの振る舞いは?
それを理解するためにはコミュニティにおける顧客体験の理解が重要です。まずはユーザーが、コミュニティでどのような振る舞いをしているか観察していきましょう。
N=1のフォローワーの行動を見ていきます。
フォローワーはイベントに参加したりチャット投稿するなどの交流活動を行っているユーザーです。
フォロワーは定期的にプラットフォーム(Discord等)にアクセスをして、そこに流れてくる投稿を閲覧します。コミュニティから有益な情報を得ます。
しかしフォロワーが行うのは閲覧だけではありません。
定期的にイベントや企画に参加したり、Discordでチャットする、懇親会で交流するなどの交流行動も見られます。
俯瞰して見える顧客体験のサイクル
ではフォローワーの行動を俯瞰して観察してみましょう。
フォロワーの基本的な動きを観察すると以下のような行動軌跡が見られます。
Discordを起動→チャネルの情報を読む→閉じる→Discordを起動→チャネルの情報を読む→閉じる→Discordを起動→チャネルの情報を読む→閉じる→Discordを起動→チャネルの情報を読む→閉じる→…
と、同じ行動が繰り返されている事に気が付きます。
そう。実はコミュニティ内のユーザーの行動は「繰り返されるサイクル」として捉えることができるのです。
このような繰り返される顧客体験を「顧客体験サイクル」と呼びます。
フォローワーは定期的に「起動→Discord閲覧」を繰り返し、顧客体験サイクルが回転しているのです。
しかしフォローワーの行動は「起動→Discord閲覧」の回転だけではありません。
定期的にイベントや企画にも参加します。チャットや懇親会での交流行動も見られます。
つまり「起動→閲覧→…」以外にも
「起動→イベント参加→起動→イベント参加…」
「起動→交流→起動→交流→…」
という複数のサイクルが回っています。
このような低頻度に繰り返されるサブ行動(イベント参加・交流行動)をサブサイクルと呼びます。
反対に高頻度で繰り返されるメイン行動をコアサイクルと呼びます。
フォローワーは、このようなコアサイクルとサブサイクルで構成された「顧客体験サイクル」が回転しているのです。
ピラミッドの各階層ごとの顧客体験サイクル
このようにフォロワーを観察すると、繰り返される顧客体験サイクルの回転が存在していることが分かりました。
ではコミュニティ・グロース・ピラミッドにおける、アクティブオーディエンスやリーダーはどうでしょう?
同様に顧客体験サイクルが回転しています。しかし、階層ごとに回転頻度やサブサイクルの状態が異なります。
たとえばリーダーは、積極的にコミュニティに貢献するユーザーです。フォロワー以上に、毎日のようにDiscordを閲覧しているはずです。コアサイクルはフォロワーのそれよりも高頻度で回転しています。
さらにイベント参加だけでなく、イベントの企画会議にも積極的に参加しています。フォロワーよりも様々なサブサイクルの回転が活発です。
反対にアクティブオーディエンスはどうでしょう?
基本的には時々Discordを閲覧する程度でしょう。コアサイクルの回転頻度も低いと考えられます。
以上のように、階層が上がれば上がるほど、コアサイクルが高頻度に回転し、サブサイクルも回転が活性化することが分かります。
反対に階層が下がれば下がるほどコアサイクル回転頻度が低下し、サブサイクルは停止します。
これらを構造化すると以下のとおりです。
求心力の持続性を保てない原因は?
さて、過疎化の問題に戻ります。
「コンセプトやテーマ」が適切でも「求心力の持続性」を保つことが出来ないのは何故でしょうか?
何が「求心力の持続性」を低下させてしまっていたのでしょうか?
答えは「顧客体験サイクルのコアサイクルのデザインに課題があるから」です。
そもそも、コアサイクルが回転しづらいデザインになっている可能性が高いのです。
例えば、このDiscordコミュニティのコアサイクルは「起動→Discord閲覧」でした。
つまりアクティブオーディエンスの顧客体験サイクルは、「起動→Discord閲覧」の低頻度な回転です。
アクティブオーディエンスは月に数回程度Discordを起動してチャンネル上の記事を閲覧します。
例えば月に2回閲覧したアクティブオーディエンスが翌月に閲覧する割合はどの程度でしょうか?
1回でしょうか?2回でしょうか?
突然アクティブ率が向上して10回程度閲覧する可能性もありますよね?
答えは・・・
確率的に2回前後です。
つまり、月に2回程度しか閲覧しないアクティブオーディエンスが、翌月もアクティブになる割合は、2回前後なのです。
突然アクティブ率が大幅に向上することは、滅多に起こりません。
そしてこのようなアクティブオーディエンスは数ヶ月も経過すると、いつの間にかDiscordすら開かなくなってしまいます。
Discordコミュニティが記憶から消えてしまいます。まさに休眠です。
では休眠してしまったアクティブオーディエンスは代わりに何をしているのでしょうか?
SNSです。
twitter、YouTube、Tiktok、Instagramなど、他のソーシャルメディアに奪われてしまったと考えられます。
「起動→Discord閲覧」
つまり、コアサイクルがこのようにデザインされていたからこそ、回転しづらい構造になっていたのです。
もちろんコミュニティマネージャーが頑張ってイベントを企画したら、その月は(サブサイクルが回転して)アクティブになるでしょう。
しかしイベントを止めた途端にサブサイクルが停止し、回転しづらいコアサイクルだけが残ります。
イベントを止めたら回転が停止する。。。だからイベントを回し続けないといけない。そんな自転車操業に陥ります。
このようなコアサイクル構造で、人を惹きつけ続けることができるのでしょうか?「求心力の持続性」を保つことができるのでしょうか?
難しいでしょう。
そもそものコアサイクルがこのようにデザインされている時点で、コミュニティは過疎化していく運命にあったと言えます。
コアサイクルのデザインが引き起こす宿命です。だからこそライトユーザーが育たず、交流ユーザーが「いつものメンバー」だけのコミュニティになってしまうのです。
解決策:コアサイクルをデザインし直す方法
求心力の持続性が保てない2つ目の要因は、顧客体験のコアサイクルの構造にあったのです。
したがって顧客体験のコアサイクルが高頻度で回転するように、デザインし直すことが有効です。
様々なアプローチがありますが、3点ほど具体事例を紹介させていただきます。
事例1|小学校:授業というコアサイクル
小学校ほど理想的なコミュニティはありません。
休み時間になると、鬼ごっこ、サッカー、トランプ、ボードゲーム、おしゃべり、と様々な小集団(クラスタ)が生まれます。
特に先生が強制した訳ではありません。なんと小学生達が自発的に様々なクラスタを作り出すのです。
さらに鬼ごっこで遊んでいたAくんも、次の日にはサッカークラスタで遊びます。
クラスタとクラスタを橋渡しする「弱い紐帯(よわいちゅうたい)」が多数形成されており、理想的なコミュニティです。
一体なぜこれほど理想的なコミュニティが生まれているのでしょうか?
多くのコミュニティマネージャーが「参加者に自発的にイベントを企画して欲しい…」と願い、苦悩しているにもかかわらず、小学校はそれをいともたやすく実現しています。
小学校を理想的なコミュニティにしている秘密はなんでしょう?
これもコアサイクルのデザインに秘訣があります。
コアサイクルが「授業と休憩」でデザインされているのです。
入学式、みんな初めましての状態です。友達もいません。
しかし授業と休憩を繰り返すことで、少しずつ顔と名前を覚えていきます。
そして少しずつ人間関係ネットワークが張られて、友人関係になっていくのです。
このようにコアサイクルがデザインされていると、人を惹きつけ続けます。「求心力の持続性」が働き、人間関係ネットワークが張られていくのです。
さらに小学校は、人間関係ネットワークが形成されやすいサイズに集団を細分化している点も秀逸です。
まずはクラスルームという制度で30名程度の組織に分割しています。加えて「班」という5-6人規模の小集団に分割して四半期ごとにシャッフルしたり、席替え制度を設けて座席表をシャッフルしています。
さらに入学アルバムやクラス名簿を配布するので、小学生は相手の名前を気軽に知ることが出来ます。そのため声掛けのハードルが下がります。
このような状態で「授業と休憩」というコアサイクルが回転するので、小集団内で人間関係ネットワークが構築されていくのです。
このように強固で盤石なコアサイクルがあるとどうでしょう?
インフルエンザで2週間学校にこれず、休眠してしまったとしても、復帰すればコアサイクルの回転に伴ってアクティブ状態が持続します。
転校生(新規ユーザー)がやってきても、コアサイクルが盤石なので、すぐにコミュニティに馴染むことができます。
そして盤石なコアサイクルがあれば、休み時間制度を設けて「遊べる自由時間」を用意して上げるだけで充分です。
自然に自発的なリーダーが生まれ、鬼ごっこグループやサッカーグループが生まれていくのです。
先生が鬼ごっこグループを主導する必要などないのです。盤石なカスタマージャーニーが実現します。
もちろん、小学校は義務教育として強制されるコアサイクルであることは否めません。
しかし大いに参考になるケースではないでしょうか。
事例2|ビジネススクール: 在籍期限制限と入会者制限
小学校は義務教育です。強制力のあるコアサイクルに「求心力の持続性」が伴うのは当然でしょう。
自由意志のコミュニティではそう上手くいきません。中には、求心力の持続性を保てないテーマのコミュニティもあるのです。コアサイクルが回転せず、難易度が高いです。
例えばファッション系オンラインサロンと、ビジネススキル系オンラインサロンでは、どちらが「求心力の持続性」が続くでしょうか?
当然ファッションでしょう。ファッショントレンドには終りがありません。反対に、ビジネススキルは学び切ってしまえばニーズがなくなります。寿命が短いです。
実際にオンラインサロンの月次リテンションレートのデータからも裏付けられます。(過去noteで解説したとおりです。)
ビジネススキルコミュニティで5年も8年も継続して学び続けるユーザーはほとんどいません。せいぜい1-2年で学ぶことが尽きてしまいます。
それを理解してか、実際に多くのビジネススクールコミュニティはこの「学び切ってしまえばニーズが無くなる特性」を踏まえたコミュニティモデルを実現しています。
具体的にはビジネススクールは6ヶ月間や1年間など、在籍期限を設けるのです。「1年後に卒業しなければならない」という制約環境を用意することで、生徒はビジネススクールに必死に取り組みます。
つまり「在籍期限」を設けることでコアサイクルが高頻度で回転しやすくなるのです。
またビジネススクールの多くは、入会者ゲートを用意し、入会者を絞り込み、流入タイミングをコントロールしています。
生徒がバラバラにコミュニティに流入するのではなく、1期生、2期生と集団ごとにコミュニティに流入してもらうことで、人間関係ネットワークが構築されやすくなります。
もしビジネススクールコミュニティで
・いつでも流入できる
・いつまでも在籍できる
状態だったらどうでしょうか?
おそらく、ほとんどのユーザーがコミュニティに馴染めず、休眠してしまうのではないでしょうか?
このようにコミュニティコンセプトやテーマの限界を見極め、在籍期限や入会者を制限すれば、それだけでコアサイクルは強固なものになります。
つまり環境や生態系に手を加えることで、間接的に、顧客体験のコアサイクルをデザインできるのです。
事例3|Midjourney:コアサイクルとコミュニティの連結
さて、サービスがコミュニティであれば比較的容易にデザインできます。
しかしプロダクト中心のコミュニティはどうでしょうか?
あくまでコアはプロダクトです。コミュニティはサブにすぎません。当然、顧客体験のコアサイクルは「プロダクトの利用」になります。
どのようにしてコアサイクルをデザインし直せばよいのでしょうか?
この壁を打開する事例としては「画像生成AIサービスのMidjourney」が参考になります。
Midjourneyはテキストで指定した画像を生成してくれるAIサービスです。例えば、「cute cat」と指定すると、数十秒後にかわいい猫の画像を生成してくれます。このテキストの指示を「プロンプト」と呼びます。
つまり、Midjourneyの顧客体験のコアサイクルは「プロンプト入力と画像生成」です。これがプロダクトとしてのコアサイクルです。
ではMidjourneyのコミュニティを盛り上げるためにはどうしたらよいでしょうか?
皆さんならどうしますか?
・・・
なんと、Midjourneyはプロダクトの利用場所をDiscordプラットフォーム上に制限したのです。
このためMidjourneyを利用するには、Discordコミュニティに必ずアクセスしなければなりません。
「cute cat」とプロンプトを入力して画像を生成するためには、Discordコミュニティにアクセスして、チャンネルに参加し、プロンプトを入力する必要があります。
そのおかげで、他のユーザーが「どのようなプロンプトを使っているのか?」「どのような画像を生成しているのか?」を垣間見ることが出来ます。自分自身の参考になります。
このようにMidjourneyではプロダクトのコアサイクルにコミュニティを連結させ、コアサイクルをデザインし直しているのです。
Midjourneyを利用するユーザーは必ずコミュニティにアクセスするので、ディスカッションチャンネルや、FAQチャンネルも盛り上がりやすくなります。
その他にもMidjourneyコミュニティでは様々なボイスチャットが盛り上がりを見せています。
このようにプロダクトのコアサイクルとコミュニティを連結させて、コアサイクルをデザインし直すことで、コミュニティが活性化しやすくなります。
みなさんはプロダクトのサポートページの片隅に、コミュニティの入り口を設けていないでしょうか?その状態だといつまで経ってもコミュニティのアクティブ率は改善されないかもしれません。
抜本的にコアサイクルをデザインし直すことが求められます。
以上、3つの事例を参考に、コミュニティのコアサイクルをデザインし直しましょう。
まとめ
本記事ではコミュニティ過疎化の問題を取り上げました。たとえリーダーの育成に成功しているコミュニティであっても過疎化の問題に直面してしまう現実をデータで示しました。しかしコミュニティ立ち上げ初期は、その熱量に圧倒され、過疎化の問題に気づかない事が大半です。数年経過後にはじめて「いつものメンバーしか交流しない」という過疎化の問題が表面化します。過疎化の問題は、コミュニティが「求心力の持続性」を保てないことに起因しています。したがって「求心力の持続性」を保つ取り組みが必要不可欠です。具体的には、1.コンセプトやテーマ設定を見直すこと。2.顧客体験サイクルのコアサイクルをデザインし直すこと。の2点が有効であることを事例を用いて提案しました。
最後に
コミュニティづくりは非常に複雑です。なぜなら「系のデザイン」や「生態系のデザイン」が求められるからです。とても難易度が高く私自身も苦悩しました。本noteがコミュニティづくりの一助になれば幸いです。
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