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【連載】ある小学校で起きた冤罪 〈第2回〉事件の存在を否定する「現場の状況」 

【イントロダクション】
 千葉市のM小学校で1年生のクラスを担任していた講師の男性Jさんは、2018~2019年に、担任する1年X組の女子児童3人を個別に倉庫に連れ込み、服を脱がせて身体を触ったとして強制わいせつの罪に問われ、一貫して無実を訴えながら裁判で懲役3年6月の判決が確定した。現在は関東地区の某刑務所で服役している。
 私は、Jさんの裁判記録をもとに検証を重ねた結果、Jさんは無実であり、そもそも女子児童3人がわいせつ被害に遭ったという事件は存在しなかったのだと確信するに至った。このマガジンでは、そのことを検証結果に基づいて報告していく。
 
【バックナンバー】
〈第1回〉30人の児童がいるクラスの教室で目撃者はゼロ

「丸見え状態」の現場

 Jさんは無実であり、女子児童3人が訴えるわいせつ事件はそもそも存在しないものだったことについて、私は前回、以下2点の根拠を示して説明した。

【1点目】
 女子児童3人(Aさん、Bさん、Cさん)は被害内容について、Jさんに1年X組の教室から倉庫に連れて行かれ、服を脱がされ、身体を触られたと供述しているが、それぞれが被害に遭った時間帯を「3時間目の体育の授業が終わったあと」(Aさん)、「給食の時間中」(Bさん)、「図工の授業中」(Cさん)と説明しており、Jさんがそのような「1年X組の他の児童たちも教室にいた状況」で犯行に及んだという話には現実味が無いこと
 
【2点目】
 1年X組には30人の生徒が在籍していながら、Jさんが1年X組の教室から「被害者」とされる女子児童3人を連れ出して犯行に及ぶ場面を目撃した者が誰もいないこと


 この2点の根拠に基づく前回の説明は、読んでくださった人の多くにご理解頂けたと思う。
 
 今回は、「現場の状況」に基づいて、この事件がそもそも存在しないものであることを改めて説明したい。ついては、実際に現場の概略図を見て頂こう。

警察が2019年1月26日に行った現場検証の報告書をもとに著者が作成

この図で注目して頂きたいのは、以下2点だ。 

〈注目して頂きたい1点目〉
 1年X組の教室と廊下を隔てる壁がないこと 

〈注目して頂きたい2点目〉
 Jさんが女子児童3人を連れ込んだとされる倉庫(幅約140センチ、奥行き約220センチ程度)が1年X組の教室のすぐそばにあること


 さて、おわかり頂けただろうか。Jさんが女子児童たちを連れ込み、犯行に及んだとされる倉庫は、1年X組の教室から「丸見え状態」なのだ。
 
 こんな状況で、Jさんが、
 
「3時間目の体育の授業が終わったあと」(Aさん)
「給食の時間中」(Bさん)
「図工の授業中」(Cさん)
 
 といった時間帯に1年X組の教室から倉庫に女子児童を連れて行き、わいせつ行為をしたのだとすれば、1年X組の他の児童たちに見つかることを承知のうえでの犯行だったとみるほかない。そんなことが、ありえるだろうか。
 
 このような「現場の状況」を知れば、この事件はそもそも存在しなかったことが改めてよくおわかり頂けるはずだ。難しいことは何も無い。この事件は明白な冤罪だ。

他の教諭も事件を「想像しにくい」と証言


 実を言うと、M小学校の関係者の中にも、この事件が本当に存在するのか疑問に感じていたとおぼしき人がいる。Jさんが担任していた1年X組の隣にある1年Y組の担任だった学年主任のW教諭だ。
 
 W教諭は警察の取調べに対し、Bさんの事件について次のように供述している。
 
「正直、給食の時間は、時間がないので、Bさんが給食を食べている間に被害に遭ったと言っているのであれば、具体的な様子は想像しにくいのです」(令和元年5月31日付けW教諭の警察官調書)
 
 前回触れた通り、W教諭はJさんのことを好意的に評価していた人物だ。しかし、W教諭が、Bさんが被害に遭った具体的な様子について、「想像しにくいのです」と述べているのは、Jさんを人間的に信頼しているからではない。
 
 W教諭が供述しているように、たしかに「給食の時間は、時間がない」のだ。M小学校の給食の時間は、4時間目の授業が終わった午後12時5分から、昼休みが始まる同12時50分までの「45分間」だけだ。児童たちはこの間に給食を食べるだけではなく、準備と片づけも行わないとならない。仮にJさんが、本当に女子児童たちが供述するような犯行に及んだのであれば、「犯行に使える時間」は10分も無かったろう。
 
 この程度の時間で、Jさんが給食中のBさんを教室から連れ出し、倉庫の中で服を脱がせ、身体を触り、再び教室に戻らせる……そのような犯行をやり遂げるのは不可能ではないにしても、かなり難しい。そもそも、仮にJさんが女子児童たちにわいせつ行為をはたらくとしても、そんな時間的に余裕の無いタイミングで実行する必要は全くない。
 
 加えて、W教諭は1年X組の隣にある1年Y組の担任だったので、当然ながら、X組の教室から倉庫が“丸見え状態”であることを知っている。W教諭はそのように現場の状況を知っているからこそ、かえってBさんが供述するような被害状況を具体的に想像しにくかったのだ。
 
 現場の状況を知っている者であれば、少なくとも、この事件は存在しなかった疑いがあることくらいはすぐわかる。W教諭の供述はそのことを示している。


(つづく)
※次回は、1月26日(金曜日)公開予定です。

〈1月26日公開〉
ある小学校で起きた冤罪 〈第3回〉「物証に関する捜査結果」も事件の存在を否定

【ご留意ください】
 3人の女子児童は存在しないわいせつ被害を訴えてはいるとはいえ、決してJさんを貶めるために嘘をついているわけではありません。女子児童の保護者の方々も同様です。そもそも、捜査や裁判で子供の証言や記憶は取り扱いが難しいことはよく知られていることです。この冤罪の責任を問われるべきなのは、捜査関係者や裁判関係者です。
 女子児童や保護者の方々は、このような冤罪事件に巻き込まれたという意味では、やはり被害者です。このマガジンを読んでくださる方々は、そのことをご理解のうえ、女子児童や保護者の方々への批判はくれぐれもご遠慮ください。

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