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【2023年5月】カルチャージャンキー月報

今月は、2023年の目標として、舞台や音楽ライブなどのナマモノ?一度だけのもの?ライブ?を多く観に行こうと決めていたので、舞台に、ライブに行くことができ、元気を取り戻しアクティブに活動できた1ヶ月でした。
その分、映画に行くお金がなく劇場鑑賞は1本のみです…。

5月の月報です。ご査収ください。

舞台・演劇

ダウ90000第5回演劇公演「また点滅に戻るだけ」

作・演出:蓮⾒翔
出演:園⽥祥太 / 飯原僚也 /上原佑太 / 道上珠妃 / 中島百依⼦ / 忽那⽂⾹ / 吉原怜那 / 蓮⾒翔
音楽:chelmico

コントユニット・ダウ90000の演劇公演。今まではユーロライブなどの比較的小さめの箱の公演だったが、今回は本多劇場にての公演。
音楽は、chelmicoが担当している。

ダウ90000をはじめて観たのだが、とても良かった。
コントではなく、演劇公演として、笑いと演劇の中間というか、どちらの要素も入れつつ舞台に落とし込んでいて、どちらともないダウ90000の世界観を作っているなと思う。
蓮見さんの出すボケやツッコミのワードセンスと、半径5メートルで繰り広げれられる男女の関係性のリアリティさと滑稽さが本当に絶妙。リアルとフィクションのちょうどいい間合いだった。本当によく笑った。

今まで、俗にいうお笑い芸人のライブを観たことがなかったのだが、You Tubeやテレビで見るとは違う、その場での笑いや、身体性、偶然性があって面白いなと思う。また、ダウを舞台で観たいと思える公演でした。

チケット倍率高いけど、東京03やバナナマン、空気階段、シソンヌのコントライブにも行きたくなったぞ…!

初日公演が配信されていて、見逃し視聴が6/30までできるので、気になる人はぜひ。

こっちは1カメの固定映像です。


ライブ

椎名林檎『椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常』

2023年5月10日 / 東京国際フォーラム ホールA

椎名林檎の5年ぶりとなるソロ名義の全国ツアー。全国11か所22公演の最終公演、千秋楽に行ってきた。椎名林檎のファンクラブに遅ればせながら2017年より加入している、椎名林檎、東京事変のファンである私。
5年ぶりに観た椎名林檎は、良すぎて放心状態になり、言葉がでなかった。椎名林檎、東京事変、椎名林檎Remix、楽曲提供など、椎名林檎の25年が詰まっているかのようなセットリスト。
東京事変のライブ中止や、林檎さん本人、コロナ禍での私たちの気持ちを表すかのようなアンコールラストの「ありあまる富」が本当に良かった。

今回は、ブラスバンドなし、浮雲もいなく、ギターが名越さんだけと比較的シンプルなバンドメンバーだったが、ドラムに石若駿が加入。
今までは玉田豊夢さんやみどりんがドラムを担当していたが、今回はmillennium paradeやくるりなど様々なバンドやアーティストのドラムをサポートする石若駿が担当した。
完全に石若駿活かす構成で、シンプルながら音の厚さ、音数がエグく、今までとはまた違った椎名林檎の楽曲の魅力を引き出していた。映画「BLUE GIANT」やミレパなどで凄さは分かっていたものの、生で彼のドラムを聞いて肌で凄さを体感した。石若駿の椎名林檎を聞いてしまったらもう他のバンドメンバーじゃ満足できないかも(笑)

あと、相変わらず児玉裕一 大先生の映像演出はキレッキレでした。「鶏と蛇と豚」の映像は色んなメッセージが込められていて鳥肌モノ。

チケットなかなか取りにくいけど、ぜひ椎名林檎と東京事変のライブには一度行って欲しい。演出含め一流のクリエイターが関わった最高の時間を味わえるので。

映画

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3

クセが強くてワケありな銀河の落ちこぼれたちが結成したチーム「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の活躍を描く、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の人気シリーズ第3弾。
アベンジャーズの一員としてサノスを倒し、世界を救ったものの、最愛の恋人ガモーラを失ったショックから立ち直れないスター・ロードことピーター・クイルと、ガーディアンズの仲間たち。そんな彼らの前に、銀河を完璧な世界に作り変えようとする恐るべき敵が現れ、ロケットが命を失う危機にさらされる。固い絆で結ばれた大切な仲間の命を救おうとするガーディアンズだったが、ロケットの命を救う鍵は、ロケット自身の知られざる過去にあった。

https://eiga.com/movie/95011/

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品の中で、一番好きなシリーズ、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」その最新作。
MCUの中でキーとなる「アベンジャーズ/エンドゲーム」や「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」などの監督を務めてきたジェームズ・ガンが今作も監督を務める。
ガーディアンズの人気キャラであるアライグマのロケットの過去をメインに描き、アクション、ギャラクシーモノとして完璧な展開をしていた。
ロケットの過去が悲しすぎたし、一見明るそうなガーディアンズの面々はみな様々な過去をもっていたのだなとしみじみした。

ガーディアンズのもうひとつの魅力としては、やはり音楽だと思う。
これだけ多種多様な音楽を効果的に使っているSF映画はあまりない。
Beastie Boys『No Sleep ’Til Brooklyn』が流れたシーンは最高だった。


AIR/エア

1984年、ナイキ本社に勤めるソニー・ヴァッカロは、CEOのフィル・ナイトからバスケットボール部門を立て直すよう命じられる。しかしバスケットシューズ界では市場のほとんどをコンバースとアディダスが占めており、立ちはだかる壁はあまりにも高かった。そんな中、ソニーと上司ロブ・ストラッサーは、まだNBAデビューもしていない無名の新人選手マイケル・ジョーダンに目を留め、一発逆転の賭けと取引に挑む。

https://eiga.com/movie/99032/

ベン・アフレック監督作品。ナイキの伝説的バスケットシューズ「エア・ジョーダン」の誕生秘話を映画化。

話の盛り上げ方が凄くうまく、胸が熱く、高まっていく。
冒頭の映像からこれからどんな歴史の1ページを見せてくれるんだと、期待値が上がり、そこからマイケル・ジョーダンをどう口説いて、エア・ジョーダンを生み出すまでになったのかを一気に見せていく。音楽も効果的に使われていて、それも高揚感を高める。
マイケル・ジョーダンの栄枯盛衰を描いたシーンには少し悲しくもなり、スポーツをまったく興味のない、ジョーダン世代ではない自分ですら知っている彼を作り上げたエア・ジョーダンの偉大さをまざまさと見せつけられた。熱くなり、仕事を頑張ろうと思える映画。

Amazonのプライムビデオで配信中なので、ぜひご覧ください。


NOPE

田舎町で広大な敷地の牧場を経営し、生計を立てているヘイウッド家。ある日、長男OJが家業をサボって町に繰り出す妹エメラルドにうんざりしていたところ、突然空から異物が降り注いでくる。その謎の現象が止んだかと思うと、直前まで会話していた父親が息絶えていた。長男は、父親の不可解な死の直前に、雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃したことを妹に明かす。兄妹はその飛行物体の存在を収めた動画を撮影すればネットでバズるはずだと、飛行物体の撮影に挑むが、そんな彼らに想像を絶する事態が待ち受けていた。

https://eiga.com/movie/97088/

SFとホラーの中間というか、どちらも溶け混じり合った不思議なスリラー映画だなと思った。間合いというか、何かが来るという緊迫した空気の作り方はさすがジョーダン・ピールだった。冒頭のシーンから本当に、本当に…。ねえ。って感じ。
何を書いてもネタバレになりそうなので、とりあえず観て欲しい。


Amazonのプライムビデオで配信中。


ちひろさん

海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働く女性・ちひろ。元風俗嬢であることを隠さず軽やかに生きる彼女は、自分のことを色目で見る男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も、誰に対しても分け隔てなく接する。そんなちひろの言葉や行動が、母の帰りをひとり待つ小学生、本音を言えない女子高生、父との確執を抱える青年など、それぞれ事情を抱える人たちの生き方に影響を与えていく。ちひろ自身も幼少時の家族との関係から孤独を抱えて生きてきたが、さまざまな出会いを通して少しずつ変わり始める。

https://eiga.com/movie/97680/

優しい人は、寂しい。寂しさや孤独を持つ赤の他人同士が繋がっていく。そんな映画だった。いまの自分の心にすっと響くような映画。
孤独は悪いことだけじゃないし、みんな何かしら満たされなさを抱えて生きているんだと思う。


8 Mile

デトロイトの工場で働くラビットこと青年ジミーには夢があった。ラッパーとして成功し、どん底の日々から抜け出すこと。プロデビューを目指す彼は街で行なわれているラップ・バトルに出場しようとするが、繊細な性格ゆえにプレッシャーを感じ、棄権してしまう。モデル志望の娘アレックスとの恋、トレーラーハウスに暮らす家族との生活、そして仲間たちと思い描く成功の夢。ジミーは迷い、傷つきながらも、やがてラップのバトルステージに立つ……。カリスマ的人気を誇るラップ・ミュージシャン、エミネムの半自伝的な青春物語。

https://eiga.com/movie/5670/

いまさらながら観た8 Mile。2002年公開で、エミネムの自伝的映画。
ブラックカルチャーの中での白人ラッパー。フリースタイルバトルシーンは鳥肌モノだった。
物語自体は、売れる前夜のサクセスストーリーの序章なのだが、真摯にヒップホップ、ブラックカルチャーや当時のアメリカ社会の中にある様々な問題を描いている。2002年当時でこれだけ描けているのだから、2020年代で作ったら多角的に社会問題を盛り込み、また違った感じになるのかなと思ったり。

あと映画を観て気になりエミネムの年齢を調べたのだけど、今年51歳という衝撃の事実…


ドラマ

Netflix『サンクチュアリ -聖域-』

借金・暴力・家庭崩壊…と人生崖っぷちで荒くれ者の主人公・小瀬清が、若手力士“猿桜”として大相撲界でのし上がる姿を、痛快かつ骨太に描く人間ドラマ。 世界的な知名度を誇り、1500年以上も日本の伝統文化、神事として継承されながら、未だ神秘のベールに包まれている大相撲の世界。その戦いが行われる土俵は、異常の上に成り立つまさに“サンクチュアリ”(聖域)。
小瀬は、やる気もなく稽古もサボり気味、先輩には盾突きまくり…と手が付けられないクズっぷりだったが、徐々に大相撲にのめり込んでいくことに―。小瀬を筆頭に、小瀬を筆頭に、相撲愛に溢れながらも体格に恵まれない清水や、相撲番に左遷された新聞記者・国嶋など、生きづらさを抱えた若者たちが土俵の世界を取り巻く人間ドラマと絡み合う。 “サンクチュアリ”(聖域)に翻弄されながら、ドン底でもがく若者たちの熱き“番狂わせ”が今、はじまる。

https://youtu.be/yirqWhlHnAg

Netflixオリジナルドラマ。原作なしの完全オリジナル脚本。
高齢者が観て楽しんでいるものだと思っていた相撲。その相撲を題材に、人間ドラマ、成長、嫉妬、スポーツ内の政治要素など様々なものを組み合わせてドラマ化している。

スポーツ物のドラマは、泥臭く汗まみれ、青春と涙みたいな感じで昔から好きではなかったのだが、このサンクチュアリは違う。
不良の成り上がり的な物語を主軸に、スポーツではなく日本の国技である特異な相撲文化を、サンクチュアリというタイトルの通り聖域であった相撲界を内面から描いている。神事である相撲。伝統と格式を重んじ、未だに変わることのない相撲界。
その現代の価値観にそぐわない不都合なところも描きつつ、相撲という一種のスポーツの面白さや熱さを真正面から描いている。

主演の一ノ瀬ワタルの役作りが凄くて、本当の現役力士並の肉体になっている。インタビューで「稽古から撮影まで、全部で2年半。最低ラインで100kgというのがあって。一人ひとり、役によって目標体重は設定されていて、それに向けて増量して稽古しました」、「肉体改造も段階があった。最初は“だらしなくしてくれ”と。段々絞れてきて筋肉が浮き出てくるときとで稽古が違った」と語っている通り、最初と話が進んでいくにつれての肉体の仕上がりが違っていて、日本のドラマでここまでやるのかと思った。

また、脇を固める俳優陣も素晴らしく。ピエール瀧に、松尾スズキ、染谷将太、岸谷五朗など、ヤクザ映画でもやっているのかというくらいの迫力の面々。この方々の凄みや、その他の力士たちの肉体改造、役作り、キャラ作りも素晴らしい。

一部、脚本や演出に古臭いお色気みたいなのもあって、そこら辺は微妙だな。いらないな。と思いながらも、その他が良いので相殺されている。そこの演出がなければもっと集中してイッキ見できたのにと思う。



島田潤一郎『電車のなかで本を読む』

夏葉社の島田潤一郎さんが、これまでに読んできたなかから、49冊の本を紹介。高知新聞社のフリーペーパーに連載されていたものをまとめている。

⁡個人的な感情や自身の体験をまじえて紹介しているのだが、ブックレビューや書評本とは違う島田さんと本との物語を読んでいるようだ。本のことや出版についてはもちろん、子育てや家族のことなど、とても私的なことが主として語られている。それは高知の親戚たちに向けて書いてるためだ。島田さんは本や読書の力を信じて、だが過信せずにその魅力を伝えている。

第一章の「本を読むことの意味」にこんな一節がある。
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 こころの底から絶望したとき、救ってくれるのは、だれかの言葉でしょう。
 それは指針としてではなく、座右の銘でもなく、自分の言葉がだれかの言葉のなかに溶けてしまうという経験において読者を救います。
 自分の言葉だけでは足りないとき、それが足かせになり、牢獄になり、自分を苦しめるとき、本を読み、だれかの言葉を膨大に浴びることによって、読者はこころのなかの風景を塗り替えることができます。
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まさに、自分の読書のひとつとして、誰かの言葉を受け取りたいというのが多い。弱ってるときにこそ本を読みたいし、そしてその言葉を自分の言葉にするために考える。ただのブックレコメンド集でも、書評集でもない、人生のなかの読書、生きるための本、そんな本について島田さんを通して知ることができる。


VACANCES 2

「心のバカンス」を追い求める独立系カルチャー雑誌『VACANCES バカンス』。第2号は「やさしいともだち」というテーマに、【雑談】 澤部渡(スカート)×蓮見翔(ダウ90000)、 【インタビュー】 杉田協士 安藤奎(劇団アンパサンド)×佐久間麻由(爍綽と) 、栗原×テリー 【寄稿】 福富優樹(Homecomings)、 ゆっきゅんなどが掲載されている。

スカート澤部×ダウ蓮見の雑談がとてもよく、イエデンの話やお姉ちゃんの話は笑いながら読んでいた。また、杉田監督のインタビュー、巻末のカルチャーレビューも良かった。
この空気感のカルチャー誌は、商業誌の中ではほとんどないので、定期的に読みたい。


『VACANCES 1』もめちゃくちゃ良かったので、ぜひあわせて購入して欲しい。


AWOL ZINE

代田橋にある本屋『バックパックブックス』とインディペンデントマガジン『inch magazine』の2者が一緒に作ったZINE。
インディペンデントな働き方や生き方をする人々に注目し、その仕事観や考え方を書き記していきます。
第1号のissueは「隣」。
隣同士や近くにいながらじっくり話したことのない2人の対談を2本収録しました。 両側から1本ずつの対談を読むことができる作りになっており、両A面ならぬ両”B”面対談集。

印刷は、リソグラフにてされており、質感までインディペンデント。

内容としては、代田橋にある『omiyage』の店主・ロボ宙さんと『バックパックブックス』の店主・宮里さんの対談、インタビューと、インディペンデントマガジン『DAWN』の二宮さんと『inch magazine』の菅原さんとの対談を収めた一冊で。近くにいる2者が代田橋のことや、雑誌のことなどを語っている。
代田橋に住んでいた身、雑誌が好きで読んでいた身からすると、とても興味深く、共感しながら読んでいた。
ぜひ、このZINEを定期的に出して欲しい。


雨宮まみ『東京を生きる』

雨宮まみのエッセイ集。
⁡自分のことを書いているかのような本だった。ある程度の規模の地方都市から出てきて、カルチャーにどっぷり浸かり、それに近い業界にいる人たち刺さるであろう言葉が詰まっている。
⁡雨宮まみさんは、何となく知っていて存命のときに記事などを読んだことがある程度で、この本が初めて読む本だったが、雨宮さんの書く東京の文章に引き込まれた。というか、引きずり回された感じ。

「はじめに」書いてあることから心を持っていかれ、俺のこと書いてるのかな?ってなり、何者にもなれていない東京で必死に生きる者に突き刺すような描写が多く、胸が締め付けられる。東京で生きるってことを改めて考えた。

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東京以外の場所にいると、自分が日常の輪郭を失い、何者でもない自由な人間であるような気持ちになる。
その感覚を求めて、さまざまな街を渡り歩きながら生きていったって、いいのだろう。
だけど、輪郭をすべて失ってしまうには、まだ早すぎるのだ。はっきりのした輪郭なんて、まだ持てていないのだから。
(「東京を生きる」はじめに)
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畑野智美『国道沿いのファミレス』

第23回小説すばる新人賞受賞作。
東京から1時間半の地方都市のファミレスを中心とした人間関係をリアルに、半径5メートルの世界で起こる平凡かつ本当にありそうな物語。地方都市出身者として、「うっ。リアル…」と思いながら読んでいた。
主人公の佐藤善幸は、ファミレスの社員。会社で左遷され、6年ぶりに故郷に戻った25歳の仕事、友人、家族、恋人と様々なしがらみをフィクションながら本当にあった出来事かのような描写で描いている。

個人的には、主人公の善幸と幼馴染のシンゴとの関係性やシンゴを思ったセリフにぐっと来た。
ファミレス内で起きる話というより、国道沿いの寂れかけたファミレスがある街で起きる日常と、その日常の中にいる数名の関係性を淡々と描いている。それは、この善幸が特別な主人公というわけでもなく、地方都市の各グループ、コミュニティの中で起こっている様々なことのひとつなんだと思う。地方のロードサイドノベルとしてとても優れた作品でした。



日比野 コレコ『ビューティフルからビューティフルへ』


第59回文藝賞受賞作。18歳にて受賞。
高校生たちの不思議で淡々と過ぎていく日常を、既存の小説の概念にとらわれない言葉で描いている。
「なんだこのリリックは。」となる。文章というよりリリックという表現の方が相応しい。パンチラインの応酬が凄い。
久しぶりにワンセンテンスで鳥肌が立った。本当に凄い小説を読んだなと思う。

言葉遊びだろと言う大人もいると思うが、革新的な表現の小説であることは確か。
映像化しやすい文章だったので、ぜひ気鋭の誰か若手監督で映画化して欲しいな。クールで尖った映像表現で。


向田邦子ベスト・エッセイ

脚本家、エッセイストの向田邦子のエッセイを末妹の向田和子が選んだベストエッセイ集。
家族や食、旅行、仕事、こだわりの品など、向田邦子の視点から見る日常、彼女だからこその言葉と視線が詰まった一冊。

単体で何編かエッセイを読んだことがある程度で、はじめてこれだけの量の向田邦子のエッセイを読んだが、彼女の体験の豊かさと、その言葉と情景描写に凄く引き込まれた。女性のエッセイのこの面白さはなんでだろう。性別で区切る、分けるのは良くないと思うのだが、男性には書けない独特の読後感がある。


展示

市川慧󠄁・東春予・masiki・宮野かおり『ニニフニ(而ニ不二)』

MEDEL GALLERY SHU / 4月25日〜5月7日
キュレーション:飯島モトハ

飯嶋モトハさんキュレーションのグループ展。
男性作家の美女画、男性向けのマンガ、アニメの作品が一般的になる中、少女マンガをイラストではなく、絵画として美術文脈への接続を試みる展示。

男性向けの少年マンガがメジャーで、女性向けの少女マンガがインディーズ、そんな状況や思い込みがある中で、文化としての少女マンガやアートとしての少女マンガを考えるきっかけとなるような展示。
村上隆のスーパーフラット以降、もう当たり前にアート業界にあるアニメ、マンガの影響を色濃く受け、それを美術として昇華していくムーブメント。その中でも新たなひとつのカテゴリとして、時代の空気や流れと合流し、この少女マンガの表現は残るような気がした。 

特に写実的な表現と魔法少女的なキャラが融合した市川慧󠄁さんの作品が良かった。正直存じ上げなかったのだが、Twitterではすでに人気で知らない世界があるなと改めて感じた。


Geoff McFetridge「BELIEF IN SPRING (ASLEEP UNDER ICE)」

GALLERY TARGET / 4月21日〜5月13日

ロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト、ジェフ・マクフェトリッジの個展。
GALLERY TARGETの移転の柿落としにジェフを選ぶのさすがだなって思います。グループ展でも国内作家でもなく。
⁡個人的にはrelaxの表紙で知って好きになったアーティスト。本物を観れて感動…!純粋にかっこいい。


Tom Sachs “CHAWAN”

小山登美夫ギャラリー / 4月15日〜5月13日

現代アーティスト、トム・サックスの個展。「茶碗」をモチーフにした作品を展示。
久しぶりの彼の作品はやっぱりいい。クラフトとインダストリアルの融合。文化盗用と言われる可能性もあるが、茶の湯を学び、長次郎の形で作る茶碗。本当にかっこいい。
⁡割れたものを金継ぎしたり、釉薬塗りと素焼きと変えてたりと、芸が細かい。
⁡小さな頃から家業柄、工具やインダストリアル的なものに囲まれて育った身としてはこうやって新たなカルチャーとして生まれ変わらせる姿勢は本当に尊敬するし、自分の暮らしの目指すべきひとつの姿勢のひとつ。


空山基『Space Traveler』

NANZUKA UNDERGROUND / 4月26日〜5月27日

空山基の新作個展。セクシーロボットのヒューマンサイズの彫刻作品が圧巻だった。今にも動き出しそうな質感と、女性、人間としてのしなやかさ、美しさ、そして艶やかさ。生命ではないはずものなのに、人間的な動物の美を感じる。
2階のキャンバス作品のアイアンマンかっこよすぎだ。アイアンマンでありながら空山作品のロボットになっている。空山さんは純粋に美しさを求めていて好きだな。

John Pawson

The Mass&StandBy / 4月14日〜5月14日

ロンドンを拠点に活動し、世界で広く認知されている建築家、ジョン・ポーソンの写真展。ポーソンの世界に対する独自の視点を体験することができる構成だった。
StandByには月のような今回の展示のために制作された瞑想的な立体作品が展示されていて、キャットストリートの半屋外の建物と共鳴していた。


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