
BtoBマーケティングの全体像を1枚絵にしてみた
いま私は金融業界でBtoBマーケティングを推進しています。マーケティング界隈は横の繋がりが強いもので、多くのマーケターと交流する機会があります。また今年はプロモーション・ITシステム・売上成果創出、3つの領域で賞をいただき、表彰式やイベント・個別打合せで数多くのBtoBマーケターと意見交換をさせてもらいました。
そんな中で感じる違和感があります。会社・立場によってBtoBマーケティングの全体像に対する認識が一致していないということです。全体像の捉え方が違うから論点がズレる、だから会話がイマイチ噛み合わないというシーンがあります。
特にズレが大きいのが、部門としてのマーケティング部なのか、事業経営としてのマーケティング活動なのかです。マーケティングの定義は諸説ありますが「顧客に買ってもらえる仕組みを作ること」とも言われます。マーケティングとは事業経営そのものと言われるケースもあります。たった1部門の活動ではないんです。
100人以上のBtoBマーケターとの会話を通じて整理した「BtoBマーケティングの全体像」について私なりの理解を紹介します。
前提
マーケティングは「狭義」と「広義」2つの捉え方がある
まず前提として、マーケティングが意味する範囲は非常に広いです。なので1部門としてのマーケティング部だけがその役割全てを担うわけではありません。マーケティングには「狭義」と「広義」の2つの捉え方があると考えています。
狭義=部門としてのマーケティング部
広義=事業経営そのものであるマーケティング活動
今回は広義のマーケティング=事業経営そのものという前提で整理します。
役割と部門は分けて考えるべき
マーケティングにおける役割と部門は分けて考えるべきです。例えば「インサイドセールス」という役割を、会社によっては営業部が担っているケースもあるし、マーケティング部が担っているケースがあります。会社によって役割を担う部門が違うので、部門で会話すると認識がズレます。これを混同しないことが重要です。
今回は役割について全体像を整理していきます。
BtoBマーケティングの全体像
以上を踏まえて整理した、事業経営としてのBtoBマーケティング全体像が以下です。

緑色の部分が自社の範囲です。事業経営として捉えるとはつまり会社経営と同様の捉え方をするということです。なので資金調達元としての株主・金融機関と、価値提供先としての顧客も全体像に含める必要があります。
事業経営として捉えるとは
BtoBマーケティングを事業経営として捉えるということは、1事業を1企業として捉えるということです。例えば法人カードのマーケティングをするなら、法人カード株式会社の経営をすると捉えるのです。

株主・金融機関は企業に対して投資・貸付けを行い、その対価として一定水準の利回りを期待します。経営はその期待に応えるため、事業にヒト・モト・カネを投資して利益を得ます。
事業で創出した価値は、顧客がそれを認めるときに売上となって返ってきます。価値創造にかかったコストを差し引いたものが利益となります。経営は株主や金融機関から期待される以上の利益を求めます。
この循環が適切に回るための仕組みを創ることが広義のBtoBマーケティングと言えます。広告宣伝だけやる・リード獲得だけやるような、特定部門に閉じた活動ではないと理解できます。BtoBマーケティングに必要な役割を明確にし、どの部門がその役割を担うかをもとに協力することで、広義のBtoBマーケティングが効果的に実行できます。
役割①:組織戦略
BtoBマーケティングに必要な役割は多岐にわたりますが、大きく3つに分類できると考えています。
1つ目が売れる仕組みを作るための組織戦略です。

ここはマッキンゼー提唱のフレームワーク「7S」を参考にすると整理しやすいです。組織戦略をハード面とソフト面、トータル7つの要素に分けたものです。これをベースにBtoBマーケティングに合うようアレンジしています。
マッキンゼーの「7S」とは
世界的に有名なコンサルティングファーム マッキンゼー・アンド・カンパニー社が提唱した 7S モデルは、組織の全体像と要素間の連携を捉えるためにとても有用なフレームワークです。組織の要素を 7 つの S で表し、それぞれの要素間の関係がどうなっているかを明らかにすることができます。
Salesforceブログ
ハード面は組織構造に関するものです。決めさえすれば狙い通りの状態を実現しやすい傾向があります。
戦略
マーケティング戦略の策定。STPのフレームワークなどを使い、どの市場でどんな勝ち筋を作るか全体戦略を決める組織体制
BtoBマーケティング実行のための組織体制の策定。そのうちセールス&マーケ部分についての代表例がいわゆるTHE MODEL型組織システム
BtoBマーケティング実行を支えるシステムの導入・運用。代表例はCRM(顧客管理システム)、SFA(セールスフォースオートメーション)やMA(マーケティングオートメーション)
STPとは
STPとは、「セグメンテーション(Segmentation)」、「ターゲティング(Targeting)」、「ポジショニング(Positioning)」の頭文字をとったものです。STPマーケティングとは、企業がオーディエンスをセグメンテーションし、適切な購入層をターゲティングし、最大の効果をもたらすように製品をポジショニングするマーケティング手法です。
Adobe Experience Cloud Blog
ソフト面は人に関するものです。狙い通りの状態にするには人を動かす必要があり、実現までに時間がかかる傾向があります。
スキル・能力
組織としてのマーケティング力を底上げする仕組み創り。代表例はセールスイネーブルメント(広義のBtoBマーケティングにおいては営業部門も全体像のうちの1つ。セールスの役割を担っている)コミュニケーション
部門間連携をスムーズにするための社内コミュニケーション。定例会の設定やレポートライン策定など仕組み化をベースにしつつ、組織文化や風土の形成が必要。代表例はアジャイルビジョン・バリュー
事業としてのビジョン・バリュー。社内で共通の価値観・理念を持つとともに、顧客コミュニケーションにおいても一貫性を持たせるもの
これらは個々に取り組むものではなく、全体が連携・整合していることが重要です。例えばTHE MODELにならって組織の箱を作る、それだけでは全体が上手く回りません。著者の福田氏も言及しているとおり、分業制の組織体制というハード面と合わせて、コミュニケーション創り・カルチャー創りのソフト面も不可欠です。
いまアジャイル組織が注目を集めている理由は、ハード面・ソフト面の両方に効くものだからなのかもしれません。
『THE MODEL』の著者が明かす、本当に伝えたかった“営業組織“とは?
福田 康隆氏
THE MODEL =分業制と認識されていた中で、そこだけではないよということを伝えたく本を書いたのですが、どうしてもプロセスとか分業とかにフォーカスされがちですね。
(中略)
パーフェクトな回答はないと思っているのですが、コミュケーションを取りながら、社員にどういう方向に向いてもらうかを考えるのがポイントですね。これがまさにチューニングという観点です。
LiB CONSULTING コラム
役割②:中期的売上(=サイエンス)
2つ目は中期的な売上創りです。

リード獲得、ナーチャリング、セールスの一連の活動により中期的な売上を創ります。その特徴は以下です。
組織戦略がコストセンター(≒バックオフィス)的な役割なのに対して、売上を創るプロフィットセンターの役割
マーケティングの4PのうちPromotion(販促活動)とPlace(提供方法)が該当する
事業モデル/成長戦略において、セールスがプロダクトを売るSales-Led Growthのとき力を入れる領域
価値を伝達する活動
活動がデータ化・数値化しやすい、サイエンスの領域
4Pとは
Product(自社の製品・サービス):どのような価値を市場に提供するのか
Price(価格):いくらで提供するのか
Place(販売場所・提供方法):どのような形で提供するのか
Promotion(販促活動):どのような販促を行うのか
Salesforce
PLG・SLGとは
・PLGとは、Product-Led Growth(プロダクトレッドグロース)の略で、「プロダクトがプロダクトを売る」という事業モデル/成長戦略です。
・SLGとは、Sales-Led Growth(セールスレッドグロース)の略で、「セールスがプロダクトを売る」という事業モデル/成長戦略です。
Commune コミュニティコンパス
この領域はシンプルにいうと a) 誰に、b) 何のアクションをして、c) どんな結果になったか、その組み合わせを最適なものにするものです。それらはデータ化・数値化しやすいので、サイエンスの領域といえます。
a) 誰に
BtoBマーケティングにおける顧客は2階層構造になっています。どの企業の(企業レベル)、誰か(人レベル)です。
企業レベルの顧客情報は一般に販売されています。第三者提供データ(3rd party data)として時間をかけずにお金で買えるということです。昔は市場調査部のようなところが自社収集データ(1st party data)として集めていましたが、いまはそんな手間をかける必要はありません。
日本に存在する企業数は定義によりますが200~300万社といわれています。この中からターゲティングすべき企業群を定めるのがマーケティング戦略策定の1つです。市場データが網羅的に存在するので、データ活用により効率化・精緻化できます。
b) 何のアクションをして
アクションをする段階になると人レベルの顧客情報が必要になります。これは自社収集データ(1st party data)として集めるのがメインになります。アクションとデータの格納先は主に以下のようなものが一般的です。

SFAとMAはシステム的に連携させて使うのが効果的です。それにより営業系接点・マーケ系接点、どちらも一元的に管理できます。逆にいうと、1人の顧客に対して営業・マーケがそれぞれどんなアクションをしているか一元的にデータ化できるということです。
c) どんな結果になったか
インサイドセールス、フィールドセールス、セミナー、Web訪問、メール、それぞれの接点でどんなリアクションがあったかはもちろんですが、最も重要なのは成約・売上のデータです。一連の活動が成約・売上に繋がったのか否か、正解だったか不正解だったか答え合わせに使うからです。
これらのデータを一元管理して分析することで、誰に、何のアクションをして、成約・売上・利益に繋がったのか、傾向や確率を科学的に可視化できるのがこの領域の特徴です。
確率が分かるということは未来の確からしい予測ができるということです。先述のとおり、経営は事業に対してヒト・モト・カネを投資する対価として利益を求めます。未来も含めて確からしい答えを出せるのがこの領域ともいえます。
役割③:長期的売上(=アート)
3つ目は長期的な売上創りです。

商品開発やブランディングにより長期的な売上を創ります。その特徴は以下です。
組織戦略がコストセンター(≒バックオフィス)的な役割なのに対して、売上を創るプロフィットセンターの役割
マーケティングの4PのうちProduct(製品・サービス)とPrice(価格)が該当する
事業モデル/成長戦略において、プロダクトがプロダクトを売るProduct-Led Growthのとき力を入れる領域
価値を創造する活動
活動がデータ化・数値化しにくい、アートの領域
この領域はどこかに正解があるようなものではありません。ゼロ→イチで新たな価値を創造するものです。社会や経済の変化、テクノロジーの進化、市場や顧客の潜在ニーズなどを総合的にみて価値創造したりそれに向けた試行錯誤をするものです。創造性が高くて再現性が低いので、アートの領域といえます。
②の価値を伝達する役割と③の価値を創造する役割、これらの性質が異なることは歴史が証明しているといえます。
自動車メーカーの本田技研工業。技術開発の本田宗一郎氏、販売営業の藤沢武夫氏、2人が異なる役割で成長を牽引したことは有名です。電気機器メーカーのソニーも井深大氏、盛田昭夫氏が同じように役割を分けて成長を牽引しました。
役割が大きく違うから別々の人間が担った、一方で強く連携したから大きな顧客価値を創ることができたと考えられます。
おわりに
以上が私なりに理解したBtoBマーケティングの全体像です。
BtoBマーケティングはサイエンスとアートが交わるとても刺激的で楽しいものです!また日本企業の生産性向上に貢献するものと捉えています。事業経営に貢献するBtoBマーケティング確立のためには、全体像をどう捉えるべきか継続的にアップデートしていく必要があります。
業種業界、企業規模、企業の成長ステージによって見える景色は様々。考慮できていないこと・ツッコミどころについて継続的に検証していきたいと思います。