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濃桃

理科の授業で使う人体模型が
そこにあった

土曜日の放課後
少し早めに部活を切り上げ
食欲旺盛な
女子中学生だった私達は
買ってきたパンと
炭酸の缶ジュースを飲んでいた

「matchて最高!!」
当時ブームになっていたジュースだ

ジュースは良かったが
ブルーベリーガムを
噛んでいて先生にこっぴどく怒られた

ビンタとかないでしょ


数十年して
そのことを先生は謝った
覚えているところがすごいと思った
どちらも痛かったということだ

先生は
部活をサボったことを
怒っていたのだけど
私は
そこはスルーしていた
お弁当は良くてガムがだめなんて
わけわかんない、と


子どもには子どもの事情がある
ちょっとやりたいことが他にある日もある
今なら
口からでまかせにでも
先生の立場を悪くさせないように
部活をお休みさせてもらうことができるが
その当時
半ばわざとそういう言い訳はせずに
目立つように悪さをした

不良の始まり?
なにが?
ガムを噛むのが?
まさか
騒ぎ過ぎだよ
大人になれば
全部楽しかったと思えるようになる

管理されたくない
されないためにどうするか
もがいていた

管理することの必要性も
後には知る

安心と安全を目指していた時代
こうすればきっとこうなる、と
予測され
できればみんな
安心が欲しかった

ある時は
それが窮屈なんだって

勉強だけが全てじゃない
クラスだけが全てじゃない
学校で教えてくれることの、
真逆が世の中にはある

知りたくなるのはなぜ?
教えて
おじいさん、
ハイジも歌ってるじゃない



純粋な女の子は
知っておいた方がいい

男の子だけじゃない
危険な狼は
意外な人物だ

本当にそれは意外な形で現れる
安全など
この世にはない

思い込むことが危険なのだ



誰からともなく
はやりの
占いをやろうと準備した

紙に五十音
入口と出口

あの人を呼び出す
占いの儀式だ


ふざけ半分でやることは
いけないことだった

「あのね、彼の好きな人を教えてください」
○、○、○
○で名前が囲まれていく


なんだって、
私のことを好きな人は
タヌキオヤジって、
ナンダイ、ソレは

笑えなかった

純粋なんだよ
乙女は、さ


本気でやっていた
いつも
輝いてた


とはいえ
ペンを持つメンバーの
思う通りに動いていたようにも受け取れた



ガターンッ!

そのとき
人体模型が前のめりに
倒れた


キャアーーーッ
叫び声に余計怖くなって
半泣きでみんな教室を飛び出した


いつも冷静なキャプテンの桃代が
倒れた模型を起こし
空っぽの腹部に
内臓を詰め込んでいく

胃の後ろに入れないと
入り切らないんだね
膵臓って
グロテスクな膿い桃色だった




父と職場の上司が同姓同名、
父の命日と息子の車のナンバーが偶然一緒
結婚相手の親族の名前が
互いに妙に被る

こういうことの確率は
案外よくある

なんの不思議もない


模型が偶然倒れるよりは
はるかに起こりやすい確率だ

そういうことにこじつけて
印象を深めようというのが
バスケ部の碧海さんだった


寂しさを埋める
きっかけを求めているに違いない



占いは信じている
自分を信じるのと同じくらい

占い師というのが
国家資格になれば良いと思っている
良質な占いは
全体の流れを良くする


卑弥呼の時代から
私達は
不思議なことを言ってもらうのが
楽しかった



模型が倒れたから
それ以来その占いはやらなかった


もちろん
私のダンナさんは
オヤジだ
タヌキにもそろそろ近づいている

当たった、といえそうだ




*細かいことは覚えていないのですが
くれぐれもふざけてやることはいけません
やり方をお示しするのはやめておきますね

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