不登校と中学受験(40)
ある子どもの中学受験と不登校(3)
灘高校を目指しているのに、公立トップ高校目指している上位の2人に勝てず、中3の夏休みに突入し、何にも勉強しないまま過ごしてしまった彼。
心療内科に行き、投薬を受けることになったのですが、薬もあまり飲まず、夏休み後半からは完全に昼夜逆転の生活になってしまいます。
中3の2学期が始まっても、学校に行くこともできず。勉強することもできず、ただ、時間だけがすぎていく生活を送ります。
それでも、本人の中では灘高校への夢は諦めておらず、受験だけはすると言い続けていたようです。
9月に入った頃から、受験の話が出ると、自室で暴れるようになったそうです。
しかし、中学3年生です。
受験への時間が迫っている中で、決断をしなければならなくなります。
彼にとってよかったことは、この中学3年生の時の担任の先生が、本当に辛抱強く彼と話をすることをしてくださる方で、不登校になってからも、自宅まで来て、会えなくてもお母様に丁寧にお話くださり、また、お母様のお話を聞いてくださったようです。
そのこともあり、彼は上位2名と同じ公立トップ校の受験をできるようになったのです。
しかも、彼があれだけこだわっていた灘高校を、彼自らが受験しない、というところまで、担任の先生は、本当に粘り強く、彼の思いを尊重しながら、彼の将来を考え、彼と一緒に考えて、彼に自分で決められるようにしてくださったのです。
この経験は、これから数年後にものすごく生きてくるのです。
この経験がなければ、まだ、共通テストの受験もなかったでしょう。
そのくらい、彼にとっては大きな出来事でした。
学校に行けなくなり、11月の実力テストだけは何とか受験しようと、担任と話をして、学校の実力テストを別室受験をした彼でしたが、結果は17位。
それでも、何の勉強もしていなかったにも関わらず、200人近くいる1学年の中で、17位は十分なのです。
彼本人は、もう少しできると思っていたようなのですが、順位はもっと悪いと思っていたので、少し気持ちが上を向いたことはあったようです。
これで公立トップ校の受験ができることにもなり、灘高校から方向転換したこともあり、塾も辞めてしまい、自宅で少しずつ勉強をするようになっていきます。
期末テストもそれほど良い成績ではないのですが、少しずつ彼は勉強をして行くようになるのです。
冬休みも、以前ほどではないものの勉強をするようになり、顔にも笑顔が出始めていたようですが、冬休み明けからも不登校のままで、学校に行く気配は全くなく、自宅で勉強だけをする日々を送ります。
再び昼夜逆転が始まり、ご家族とは朝ごはんと晩御飯の時に少し顔を合わせるだけで、ほとんど話すこともなく、夜中に勉強をしているのか、何をしているのかもわからない状態になっていきます。
そうしながら、何とか併願私立高校受験直前を迎えるのですが、この私立高校入試2日前に、「やっぱりこんな私立は受けない」と言い出すのです。
「やはり、灘高校を受験したかった!失敗した!もう俺はダメだ!」と自室で感情を爆発させてしまうのです。
気が狂ったように暴れてしまい、部屋の中のものをボロボロになるまで破壊し、お父様が力づくで取り押さえ、ようやく止まったのですが、お父様もあちこちをケガするなど、たいへんだったとのことでした。
彼の中学受験からのことをずっと聞いていて、何度も襲ってくる脅迫的なまでの
「勉強しなければ!もっともっと上位を目指さなければいけない!」
という思いが彼をここまで苦しめたのだと思います。
実は、ご家族は一度も、もっと勉強しろなどと言ったことないそうです。
まして、中学受験をするようになどとは言ったこともないそうなのです。
中学受験すると言ったのも、彼本人で、灘中を目指すと言ったのも、全て自分で決めていたのです。
そもそも、塾に行きたいと言い出したのも本人で、ご両親は公立中学、地元の公立高校で十分とおっしゃっていたようなのです。
これは、本人からもご家族からも聞いています。
どうやらこのことは、間違いのないようなのです。
それでも、ここまで苦しむことになるのです。
この私立高校受験日、結局、彼は、併願私立高校に受験に行けないのです。
(つづく)
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