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【本要約】カスタマーサクセス サブスプリクション時代に求められる「顧客の成功」10の原則 -ビジネスモデルは大きく変化する

本記事は『カスタマーサクセス サブスプリクション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』(2018年・英治出版)の要約・解説の記事です。本書は通称「青本」と呼ばれ、カスタマーサクセスの教科書として知られています。今後のビジネスにおいて重要度が増してきたカスタマーサクセスについて基礎から丁寧にまとめられた本で、発売から時間が経った今でもカスタマーサクセスの真髄を学べる必読書になります。

▼本書の概要

この本のポイントは以下です。

  1. 今後様々な業界を席巻するサブスク型のビジネスの概要を理解できる点

  2. SaaSに関わる人と話す際の共通理解になる点

  3. ハウツーだけでなく、その思想まで深く書かれている点

日本でも、2019年流行語大賞で「サブスク」という言葉がノミネートされ、NetflixやSpotifyなどの利用者が増えてきました。また、トヨタが「KINTO」というサブスク型のサービスを始めるなど、ネット業界だけでなく、あらゆる市場でサブスク型への移行が進んでおります。

そんな中、カスタマーサクセスという職種の求人を目にする機会も増えてきました。今後、市場価値が伸びていく可能性が高い、注目職種の一つです。

そんな「サブスク」や「カスタマーサクセス」に関して、基本的な理解をするための必読書となっているのが本書になります。

▼「カスタマーサクセス」とは何か

カスタマーサクセスとは、「顧客の成功につながる組織または理念である」と本書では説明しております。
詳細を解説するために、本書に出てくる用語を理解しましょう。

『サブスクリプション』
サブスクリプション方式はビジネスモデルの1つ。商品ごとに購入金額を支払うのではなく一定期間の利用権として料金を支払う方式。契約期間中は定められた商品を自由に利用できるが期間がすぎれば利用できなくなるのが一般的である。コンピュータのソフトウェアの利用形態として採用されることも多い。「サブスク」とも略される。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

例えば、DVDを買ったり、借りなくても映画など映像作品を楽しめるNetflix、CDを買わなくても音楽を楽しめるSpotifyなどがサブスクサービスに当たります。これまでの「購入してもらう」というビジネスから「長く利用してもらう」という発想の転換があります。

そんなサブスクモデルのサービスにおいて、大きな課題の1つは顧客のチャーン(解約、離脱)になります。サブスクのような定期収益ビジネスの魅力や価値とは、積み上げで売り上げの総額がどんどん増加する部分にあります。ただし、積み上げていくためには、新規顧客の獲得だけでなく、いかに解約せずにサービスを継続してもらうかが鍵になります。

そこで、解約せずに長く続けてもらうために生まれたのがカスタマーサクセスになります。本書ではカスタマーサクセスの役割はロイヤルカスタマーを生む心理ロイヤリティ(感情ロイヤリティ)を生み出すことだとしています。顧客のロイヤリティを上げることで結果的に顧客のチャーンを防ぐのが、カスタマーサクセスの目標となります。

また、カスタマーサクセスという言葉には3つの概念があります。
1.組織
2.原理原則

3.理念


日本だと、カスタマーサクセスは「組織」や「職種」として認知されていますが、本来は原理原則や理念の意味も含んでおり、カスタマーサクセス部門だけでなく、会社全体として普及していく必要があります。

また、日本だとカスタマーサクセスとカスタマーサポートが同一部署で実行されており、混合されがちです。この二つには以下の点で明確な違いがあります。

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そのため、明確に役割と責任範囲を分ける必要があると本書では指摘されています。

▼なぜ、カスタマーサクセスが重要なのか

次に、なぜカスタマーサクセスが重要なのかを見ていきたいと思います。
カスタマーサクセスに注力することで以下の点で効果をもたらすとされています。
1.チャーンの減少と管理

2.既存顧客の契約金増額

3.カスタマーエクスペリエンスと顧客満足度の向上


前述の通り、前提にはサブスク型へのビジネスモデルへの移行があり、サブスク型のビジネスモデルの肝となるのは、「予測可能な収益」と「ロイヤリティ」になります。
それらを実現するためには、顧客のチャーンをいかに防ぐかがポイントなります。

少し話は本書から脱線しますが、私は特に「ロイヤリティの創出」が今後のビジネスにおいて最重要ポイントになると思っています。

なぜなら、デジタルの力により限界費用が限りなく0に近くなった世の中では、模倣品がすぐに作れるようになるためです。機能が同じなら後は価格競争になります。価格競争になれば、資本力のある大手が強いため、独占・寡占が進んでいきます。(まさに今AmazonやGoogleなどの巨大テック企業によってそんな世の中になりつつあります)

ただ、ロイヤリティが生み出せる企業は上記の価格競争に巻き込まれることはありません。なぜなら、消費者がその商品を選ぶ理由が価格や機能ではないからです。
どれだけ同じような機能を持つスマートフォンが安価で出てきても、iPhoneを選ぶ理由がまさにロイヤリティです。
この辺りの詳しい内容( Appleがなぜ高いロイヤリティを実現できているか等)は過去の記事に書いてあるので、そちらも読んでみてください。
【本要約】Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学 -アップルがアップルたらしめる理由

最近、コンサルタントの山口周さんが提唱されている「役に立つ」と「意味がある」の4象限が世間に普及し始めて久しいですが、「意味がある企業=ロイヤリティの高い企業」を目指していかないと多くの企業は生き残れない世界になっていくと思います。

▼カスタマーサクセスの提供方法、カスタマーサクセスの10原則

本書の後半では、カスタマーサクセスの提供方法、取り組む際に理解が必要となる10の原則が解説されています。

提供方法については、顧客価値×顧客数に応じてセグメントします。
各セグメントごとに3つの提供方法が解説されています。

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ハイタッチ…大口顧客に対するサポート。個別対応によるコンサルティング。
ロータッチ…ハイタッチとテックタッチとの間。タイミングが重要である。
テックタッチ…テクノロジーを駆使し、効率的なサポートを実施。

利益を最大化するため、顧客がもたらす利益に対して、かけられるコスト(特に人員数)も変わってきます。ただどのセグメントにおいても、カスタマーサクセスの目標は変わらず、顧客の成功を支援し、高いロイヤリティを実現することで、チャーンを防ぐことです。

次に、10の原則について、一覧を確認しましょう。

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<補足情報>
原則1:正しい顧客とは自社のプロダクトで課題解決ができる(プロダクトマーケットフィット)顧客で、データ主導で見分けていきます。また、営業がサクセスを無視した無理な顧客を獲得してこないように、制度や権限委譲をトップダウンで行うことも大切です。

原則2:会社が正しく機能しているかはチャーンを防ぐ力と直結しています。本書では顧客が離れる要因を10個紹介しており、それぞれの対策を記載しています。

原則3:顧客は特徴や機能を使うため製品を買うのではなく、事業目標を達成するための手段として導入をします。そのため、顧客の事業目標やそれらをどのように計測しているかなど、顧客の成功の定義を理解する必要があります。

原則4:カスタマーヘルスとは、製品定着率や金額金額の増減など(本書では10個ほど紹介)で顧客の健全性を測れるものです。適切に把握し、管理ができれば、予測ができ、最善の施策を講じることができると本書では説明しています。

原則5:顧客との繋がりは組織的に仕組み化されていく必要があり、そのためには正しいセグメントとセグメントに合わせた施策が必要です。また、顧客同士の横のコミュニティ形成や顧客からフィードバックをもらう場を設けるなどの工夫も必要になります。

原則6:使いやすく、事業の本質となるような製品を生み出すことがサクセスにおいては最重要項目になります。それらの製品とカスタマーエクスペリエンスとの組み合わせが重要であり、エクスペリエンスを管理する部署は製品に対して、絶えず改善のためのフィードバックループを回す必要があります。

原則7:タイムトゥバリューとは、顧客が価値に気づくまでの時間を表す言葉です。つまり、顧客の期待値を越えるまでの期間であり、明確な成功の指標を固め、早期に達成可能なものから達成していくことが鍵となります。

原則8:チャーンとリテンションの両面から理解する必要があり、正しく定義・計画・理解するための5つのステップが本書では説明されています。

原則9:カスタマーサクセス部門に関する指標を明確にし、プロセスを管理、最適化していくことが重要です。本書では、主な指標が説明されています。

原則10:カスタマーサクセスとは単なる部署や手段ではなく、会社を大きく変革させる理念であり、それらは経営層を中心とした全社で取り組む必要があります。また、サクセスが必要になった背景はテクノロジーの進展やグロバリーぜーションなどの経済構造の変化によるもののため、避けては通れないと指摘しています。

▼まとめ

本記事では、カスタマーサクセスの教科書とされている通称”青本”を用いて、
基本概念や手法について解説させて頂きました。

結論としては、以下の3つを挙げさせて頂きます。
・カスタマーサクセスは今後必須になる
・単なる部署や手法の話ではなく、全社で取り組むべき理念である
・サクセスのためには、良い製品を作り、正しい顧客を選び、顧客を知り、指標やデータを用いて正しく理解し、仕組み化した施策を打つことが重要である

私も人材紹介のエージェントを担当していた際にカスタマーサクセス部門に紹介してきましたが、まだまだ日本では一部のトップSaaS企業を除き、正しく理解されていないのが現状かと思います。ただ、確実にサクセスが必要になる変化というのは不可逆的なものだと思うので、今のうちに、サクセスを正しく理解し、事業に活かしたり、キャリアを作っていくのは良い戦略だと思います。

本書は刊行されてから2年が経ち、そこからサクセスもさらに進化していってますが、非常に本質的で今でも教科書として良い本だと思いますので、ぜひご興味ある方はご一読ください。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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