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「環境×実証ミクロ」の最前線を伝える!:小西祥文「新しい環境経済学」スタート

■ 新連載スタート!

『経済セミナー』2022年12月・23年1月号より、新連載がスタートしました! 慶應義塾大学の小西祥文先生による、タイトルは、

新しい環境経済学:実証ミクロアプローチ

です!!! 環境経済学の分野では近年、因果関係を見出すための厳密なリサーチデザインやデータを通じた検証に基づく方法で、急速にエビデンスが積み上げられています。

この連載では、その名の通り、従来の実証手法を振り返りつつ、「新しい」環境経済実証のアプローチとその成果を紹介していく予定です。環境と経済活動、環境政策の効果などに関するさまざまな研究事例と、そこで活用されている方法を、じっくり丁寧に解説していきます!

■ 著者紹介

簡単に、著者の小西祥文(こにし・よしふみ)先生についてご紹介します。現在は慶應義塾大学経済学部教授で、環境政策(制度・施策)の効果を実証ミクロ経済学のアプローチで検証する「環境経済実証」を専門とされています。

  • カーボンプライシング

  • 交通と環境

  • 脱炭素・EV政策

  • 排出量取引市場

  • ライドシェアの環境効果

など幅広いテーマの研究に取り組んでおられ、日本の環境政策の設計にも役立つ知見を蓄積されています。

小西先生は、2008年にミネソタ大学大学院応用経済学研究科博士課程にてPh.D.(応用経済学)を取得されました。ゴールドマン・サックス証券投資調査部証券でアナリストとしても勤務されたご経験を持ち、Ph.D.取得後はウィリアムズ大学経済学部助教授、上智大学国際教養学部准教授、筑波大学システム情報系社会工学域准教授等を経て、2020年より現職。2022年には、環境経済・政策学会より学術賞を受賞されました!

12・1月号掲載の連載第1回のタイトルは、「新しい経済実証と環境経済学」です。今回は、本連載全体のガイダンスということで、小西先生が本連載に込める想いや、環境経済学の動向は背景を交えて、ここでいう「新しい環境経済実証」の何が一体「新しい」のかを解説していきます。また、環境経済学分野でのリサーチクエスチョンの変遷に関する議論も非常に興味深いです(一般的な問いから、より実践的・政策的な問いへ)。小西先生ご自身のご経験も踏まえ、本連載で何を提供していく予定を語っていただいています。

このnoteでは、この第1回の一部部分をご紹介します。ぜひご覧ください!!


■ 本連載のコンセプト:連載第1回より

1990年代以降、経済学における実証研究の手法および方法論は飛躍的に発展したといわれている。それを象徴するように、近年のノーベル経済学賞は、その発展を牽引してきた研究者たちに贈られている。2019年には、フィールド実験を用いて貧困問題の解決に資する実証研究を行ってきたアビジット・バナジー(A. V. Banerjee)、エスター・デュフロ(E. Duflo)、マイケル・クレーマー(M. R. Kremer)の三者が受賞した。また2021年には、観察データにおいて因果関係を正しく識別・推定するために「自然実験」を利用する方法論を確立したデヴィッド・カード(D. E. Card)、ヨシュア・アングリスト(J. D. Angrist)、グイド・インベンス(G. W. Imbens)の三者が受賞した。環境経済学の先端的な実証研究では、このような「新しい」経済実証の手法および方法論が頻繁に用いられるようになっており、環境経済関連のトピックに関する実証研究でトップジャーナルをめざそうとする研究者にとって、このような経済実証の手法と方法論を学ぶことは不可欠となってきている。

一方で、第5節で詳しく紹介するように、環境経済学分野の代表的な教科書では、このような「新しい」経済実証の手法および方法論が必ずしも市民権を得ているとはいえない。現存する多くの教科書は、環境経済学の理論や環境問題のトピックを中心にまとめられており、経済実証の手法や方法論をベースにまとめられた教科書はきわめて稀である。それ以上に問題だと考えられるのは、これらの教科書で紹介される実証研究がこういった「新しい」経済実証の手法や方法論に基づいた研究成果なのか、あるいはそうでないのかが、明確に区別されないまま説明されていることである。

新しい経済実証では、実証結果が「どのようにして」得られたかを重視する。正しい実証的作法に則り、いくつもの頑健性チェックを行い、実証研究のデザイン上の仮定を明示したうえで(無作為実験であっても!)初めて、実証結果を正しく解釈することが可能であるとするのが新しい経済実証の考え方である。別の言い方をすると、単に「このデータを使って、この推定法を用いて推定した」というだけでは、それが正しい実証結果なのかどうかを判別することは不可能だとみなすのが、新しい経済実証の考え方である。本連載では、そのような「新しい」経済実証の手法および方法論を反映した環境経済学について解説していきたいと思っている


なお、本連載の背景にある問題意識は、小西先生ご自身で執筆された、以下のインタビュー記事、コラムにも反映されています。あわせてぜひご覧ください!!

https://www.econ.keio.ac.jp/about/t_interview/yoshifumi-konishi

■ 連載の予定

第1回は、本連載の導入として、これまでの環境経済学と「実証ミクロアプローチ」による「新しい環境経済学」を俯瞰していきます。

それをふまえて、第2回では、一般的な環境経済学の教科書でよく解説される「環境評価」について再検討しながら、「新しい」環境経済学との違いを解説していく予定です。

そして、第3回以降から,実際に実証ミクロアプローチに基づく環境政策の評価と政策デザインの解説に入ります。現時点では、以下のような連載ラインナップをご予定いただいています(あくまでも、2022.11.29時点のもので、変更の可能性があります)。

  • 第1回:新しい経済実証と環境経済学

  • 第2回:構造推定と誘導形推定:環境評価手法(ヘドニック価格法)の事例で学ぶ

  • 第3回:効果的な環境政策を考える (1):戦略的な行動を予測する

  • 第4回:効果的な環境政策を考える (2):環境ナッジを考える

  • 第5回:環境政策の技術進歩促進効果を考える

  • 第6回:意図せざる政策効果を考える:住宅・商用建築物向け省エネ規制を事例に

  • 第7回:電力市場の脱炭素政策を考える:カーボンプライシングは必要か 

  • 第8回:気候変動の社会的費用を考える:統合評価モデルと実証ミクロアプローチ

具体的な実証手法、リサーチデザインの設計やどんなデータが必要なのかといった方法論として、また膨大な研究成果を読み解く視点として重要な知識はもちろん、ホットな政策課題にもフォーカスして、現実の政策面でご関心のある皆さまの関心にも応えるべく、工夫頂いています。

ぜひ、新連載=小西祥文「新しい環境経済学:実証ミクロアプローチ」にご期待ください!!!


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