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障子は誰が破るのか?|障子あれこれ|建築家が設計した住まいの10年目レポート

このリノベ住宅の特徴のひとつである「障子」について。
この家にはドアなどの内部の開口部は収納部分を含めて13箇所あります。
両開き扉や引き込み障子などもあり、扉枚数は21枚。
そのうち、障子は10枚あり約半数を占めます。

なぜ障子を使うことになったか

障子との出会いは、いまでこそ和室がない家もありますが
幼い頃は当時どの家でもありました。
なので、特別な思い入れがあったわけではありませんでした。

建築を学びだしたころ、大学の設計課題で窓の研究があり、
実際に訪れた建物の窓をスケッチするものがありました。

そのときに出合った建築が衝撃的で、
いまでも影響を受けているものです。

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ジョージ・ナカシマ「桂カトリック教会」
教会なのに障子が使ってある!
建築を学びだしたころにみて、
この先入観を打ち砕かれたのをいまでも覚えています。
これが建築で、これが建築家の仕事か!
(ジョージ・ナカシマは家具デザイナーとして有名です。)

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曲面の屋根スラブに和紙の行灯。

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丸窓に障子。この形状との取り合いもいまでも斬新です。

どこにでもあるものを視点を変えた使い方をすることで新しさを生むことをができるんだと
感動しました。

この経験によって私の設計では常々考えて取り組むようになりました。

このリノベーションでも同様にどこにでもあるものや手法で
新しさや感動を生みつつ、豊かな居場所ができないかと考えました。

それとこの「桂カトリック教会」のように
包まれているような居心地を再現したい、
いずれはジョージ・ナカシマの家具を置きたい
ということが頭にありました。

特別、「和風に憧れて」というものではなく、
そういうことが障子を使うことになったように思います。

障子紙の種類

いざ障子を使うとなりました。
何もいわずに工務店さんに発注すると、
それなりにできてくると思います。

私の設計では、既製品も使うこともありますが、
手に触れる部分はできるだけオリジナルでこしらえることが多いです。

今回は特に障子を記号的に使うことはしたくありませんでした。

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さて、障子は何を考える必要がある?

まずは障子紙について。

障子紙の種類は大別すると紙とプラスチック系があります。

紙にも大きく3種類あります。
①手漉きの楮のもの、②レーヨン40%以上のもの、③パルプ80%以上のもの
です。
①手漉き楮は風合いがあります。高価です。
②レーヨン40%以上のものはパルプより強度があります。
③パルプ80%以上のものはよく市販されているものですね。

メンテナンスフリーをお求めのお客さまには
プラスチック系をおすすめする場合があります。

総じて、色も白といってもさまざまあるし、
和柄や日本の色など彩りも多いです。
紙のバリエーションは多いので選ぶのも楽しいかもしれません。
あとは桟や組子などの木部分(木でなくてもいいのか??)と
どう合ってくるかがデザインの鍵かと思います。

個人的には紙が好きです。
後述しますが、破れたらそれはそれで張り替えればいいかと思っています。

でも、できるだけ張り替え頻度は少なくしたいし、
案外メイン所なので、素人の手張りが見るに堪えることができるのか?
ここはプロの仕事で魅せたい。
ということで、我が家はレーヨン系を選びました。

また、紙とプラスチックでは、空気の浸透性が違います
やはり呼吸してほしいと思ったことも決め手でした。

障子のしつらえ

紙の次は桟などのデザインです。
ここで考えたことは、小細工しない。

といいつつ、最初は桟があると「和風」テイストが強調されるかなと思い
障子の両面に和紙を張る「太鼓張り」にしようかと考えていました。

といいつつ、破れたときに修繕が大変かな、
障子紙が倍必要な上、組子の見込寸法が通常の障子のつくりと異なったりで
コストが上がりそうなどで断念。

なので、デザインの力で魅力を引き出さざるを得ません。
参考にしたのは「吉村障子」。
桟・框・組子の見つけ寸法を全て同じにすることで数枚連なる場合でも
一枚の壁のように見えるしつらえになります。

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その見付け寸法は18mm程度だと思います。
18mmは細いぞ!いいかも!
と思い、検証のためいちど実寸を描いてみますと
桟や框としては薄くていいなと思いましたが、
組子はちょっとデカいと感じました。目をむくぞ。。

組子の寸法は再検討します。
参考にしたのは、建築行脚して宿泊先の旅館の障子で
組子は6mmでした。かなりすっきりとした印象でした。

桟と框は18mm、組子はその1/3の6mmとして
この寸法を障子の基本とすることにします。

ここで懸案事項。
障子は引き戸なので引手が必要です。
特に今回3箇所の障子は全て引き込みです。
とはいえ、引手をつけると野暮ったい。

框が18mmだと取付がなかなか困難。
でも、メインの1箇所はこの寸法は譲れないぞ。
頻繁に開け閉めするわけでもないし…
というわけで、メインの5枚引込障子には引手をつけませんでした。
引き抜くときはどうするか。
字のごとく、障子をつまんで引き抜きます。
(自邸だからできたかな。。)

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で、頻繁に開け閉めする和室の2箇所には
引手をつけました。
ただし、ペコッとつけるのではなく、
彫り込みました。
この箇所だけは框の見つけは、21mmに変更しています。

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結構格闘した甲斐あって、すっきりとした印象です。
(障子のこれらの寸法は、私の設計には珍しくフォーマットになっています。南障子w)

ここでの注意点は、組子が細いので
障子紙がプラスチック系の場合、張り替えは困難です。おそらく割れるでしょう。。


光を通す・間接照明・影絵遊び

メインを障子にした理由のひとつに
光を通すことが挙げられます。
ここでの光は、太陽光と照明です。

ちょうど西に面しており、西日がきつかろう、
設計当初は夫婦二人で日中いないので
夜が旨となるから、夜の表情がいいもの、

という具合です。

既存は2部屋あったものをワンルームにしたことで
窓がポコポコとふたつある表情です。
それはあまり美しくないなーと思い、
ここでは縁側を設けて、1枚の開口部かのように演出するために
5枚引込の障子にしました
(縁側については別の機会に)。

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そして、夜の表情を生み出すために
間接照明を足元に。
下から持ち上がる灯りは落ち着きを与えます

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昼は昼で、西日故に影絵になります。
植木越しに風を感じたり、なかなか表情豊かです。

障子紙、破るのは誰?

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紙だから破れる。

だけれども、代えがたい良さ、もしくは好きがある。

だからこそ、大事にあつかう。

我が家の障子の枚数は10枚。
桟で区切られた合計195マスのうち、
破れは3マス(1.54%)、うち2マスは引っ掻きキズ程度。
実質、1マスのみ(0.52%)。
ちなみに破ったのは、セガレではなく我々夫婦のどちらか。

障子は子どもがいるから〜という先入観を持つなかれ。

障子が生み出すコミュニケーション術

障子紙の「張り替え」はどの家でも年中行事でした
こういう「行事を生み出す空間コンテンツ」は
どうにか我が家にも設けたいと思っていました。
これによって家族間のコミュニケーションを生み出すのです。
建築が人をつくる」の体現です。
とはいえ、強い紙を使ったおかげで破れは3箇所程度。
張り替えはもう少ししてからかなーと思っています。
張り替えよう!という家族の意見もありますが、
ズボラしてます。

10年使ってどうだったか

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障子を使うと和の印象は出てきます。
知人からは「和風に洋風(?)の家具は意外と合うんだね」との
声もありました。

障子といえば破れる印象もありますが、
張る紙によってそれらは解消できていると思いますし、
あとは扱い方ですが、丁寧にするのに越したことはありませんが、
案外普段通りで大丈夫です。

かつての田の字プランなどのような日本家屋では
部屋(というか間取り)はふすまで区切られていました。
壁としては薄いですね。
音も漏れるでしょうし、プライバシーの観点では弱いでしょう。

障子は建具本来の用途で現代でも使える

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そしてそれに似た障子に包まれた暮らしですが、
思った以上に快適です

なにより、軽い
そのため、動かせやすいし、止めやすい。
引き戸があるのにわざわざ障子を開け閉めして出入りするくらいです。

いろんなドアがありますが、
私は障子は開口部として現代にも有効で推奨したいと思っています。


【追伸】

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ポータルサイト「HOUZZ」にて、
こだわりの和モダンインテリアをつくるヒント」として
取り上げられています。


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