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企業がサブスクリプションを採用したくない理由を考えてみよう

世の中「サブスクリプションモデル」という形態のビジネスがドンドン増えていると感じる。ぼくらの私生活だけではなく、会社にも入り込んで一大勢力になりつつある。

そんなサブスクリプションモデルというビジネスについて少し考えてみたい。ぼくが経営者だったらあまり採用したくない理由も添えて。

■サブスクリプションモデルはようは従量課金制

サブスクリプションと聞くとあたかも新しいビジネスのような錯覚を覚えるが、昔からあるビジネスモデルで何も新しいことはない。

昔からあるモデルだが、最近のIT技術のテクノロジーの発達、例えばクラウド技術と通信速度の向上が寄与して再度ITサービスの世界で増えているというのがぼくの認識だ。

サブスクライブ”Subcribe”するという意味は直訳すると加入するという意味で、月額で利用に応じて支払うということを意味しているに過ぎない。

サブスクリプションの利点はとにかくモノを所有しないことにある。従来は、モノさえ買えばそれが使い放題というのが常識だったが、サブスクリプションモデルではモノは基本的に所有しない。

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一番最初にこのビジネスが普及するきっかけを作ったと一説では言われているのは最近富士フィルムとゴタゴタしているゼロックス。

ゼロックスは1960年代にコピー機は所有せずに、コピーした枚数に応じて料金を支払うというスタイルを確立し爆発的に成長した。

ダスキンだってそうだ。

昔はモップを売っていただけのビジネスを月額制にして常に新しいマットやモップを提供して取り換えてくれるサービスというのは本当に楽で、企業・レストランから個人宅でもかなりつかわれている(ぼくの実家は契約をしていて洗わなくていいから便利らしい)。

■ぼくらの生活に溶け込むサブスクリプションモデル

企業活動は後段で書くが、ぼくらの生活はサブスクリプションモデルであふれている。例えば動画や音楽。Netflix, Amazon Prime, Apple Music, Spotify,DZN, iTunesなどなど月額ビジネスであふれかえっている。

Netflixはいち早く単なるDVDレンタル会社からこのモデルに切り替えた会社の一つ。今までのビジネスモデルを変えてサブスクリプションで一気にビジネスが爆発したといわれている。

ストリーミング配信サービスにかえたことで今ではディズニーやアメリカ最大のケーブル会社であるComcastなどを超えて規模でも一位だ。

彼らはオリジナルの映画やドラマを本格的な経費をかけてNetflixでしか見られないものを呼び水に月額での加入を誘って見事成功している。

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他の例としてはすでに撤退はしているものの、一時期話題になったZOZO。ZOZOスーツが話題になったが、毎月月額料金で服が配達されるシステムがアパレスの世界でも生まれたりしている。実はAOKIも参入して撤退している。

いまのところアパレルで続いているのは若い女性をターゲットとしたearth Music & Ecologyの提供するメチャカリというサービス。

メチャカリは新品を月額制で送って返品されたら中古で売り出すサイクルを作っていて、アパレルの世界でまさに究極にサイクルが短い言葉通りのファストファッションが確立できるのか見物だ。

オジサンのぼくとしては宮崎あおいから広瀬すずにモデルが変わったのをうれしさ半分、寂しさ半分で見ているだけだけど。

■ビジネスの世界でもサブスクリプションが侵食している

一方の企業にとってはどうか。

様々なサブスクリプション型のサービスが出てきていて、正直採用せざるを得ない面が増えてきている。主にITサービスの部分が大きい。

例えばセールスフォース。顧客情報をシェアしたり、プロジェクトの進捗を共有・管理したり非常に便利なサービスでアカウントあたり月額の料金が取られる。常に全員が情報をセールスフォースの仕組みにアップすることが前提にはなるが、いったん習慣化すればだれが何をどこでどんな活動をしていてどのクライアントとどういった状況かというのが一発でわかる非常に便利なサービスだ。

他にはAdobe Creative Cloud。今まではデザイナー向けに何十万もするパッケージソフトを売っていたAdobeが月額制にきりかえた。当時は結構バッシングをされていたりしたが、今ではすっかり定着しているといえる。

クリエイターたちは常に最新のAdobe環境で創作に打ち込めるし、何年に一回とてつもない金額のソフトを買うよりも月額制の方が払いやすいという評価を得ている。

あとは管理系でいえば、SAPなどのERPパッケージソフト。これまでは各部門ごとに人件費等の費用が発生していたところ、こういった企業の業務を統合して一括管理するソフトウェアを導入すれば人件費を減らせるし、数字をとったりする手間が一気に省けるソフトだ。

導入費用はとてつもなく高く数十億円かかったりするし、ライセンス費用などが月額で発生する。企業は人件費を払ってそういった管理をする人を雇うかERPのソフトを導入するかという選択をしなければならないが、いったん投資額を回収できればランニングは安いといわれている(人によって意見は様々)。

■ 企業にとってのサブスクリプションの魅力

このように仕事場にも侵食しつつあるサブスクリプションモデルは魅力がたくさんある。

入口はとても簡単に設定してある。「月額たったこれだけ」といった形で様々なサービスが提供されているので非常に手軽にサービスをはじめられてしまうのである種の引き寄せられる魔力がある。

例えば採用するメリットは以下であるとぼくは思っている。

1)使った分だけ払える

人数(アカウント)あたりいくらという形なことが多いので、利用する人数を絞ることができるというには大きな魅力である。普通の売り切りのソフトであれば利用していようがいまいが、初期投資が膨大になりいったん導入してしまうと永遠とその投資したコストが重くのしかかってきて、P/L上の利益が圧迫されることになる。

2)人件費が減らせる

次に人件費、主にITサービスに係る人件費を自社で持つ必要が薄まるというメリットがある。

大きな投資をして巨大なコンピューターを買ったり、ソフトウェアに投資をしたりすると基本的にIT部門が社内で必要になってくるが、外部のサブスクリプションサービスを使えば基本的にその業者が対応をしてくれる。

自社でサーバーを持つ必要もなくなるし、インターネット環境さえあればとても便利なサービスを使える。

3)常に最新の環境で仕事ができる

サブスクリプションモデルのITサービスは大半がクラウド技術を応用して、サービスを提供している側でシステムを動かしている。利用者となる企業の方はネットを通じてそれを利用しているだけになる。

これが何が良いかというとバージョンアップをするときはサービスを提供している側の方で1回更新をすればよいだけになる。

売り切りのソフトウェアを買ったら、買った側でアップデートをしたりメンテナンスをする必要があるのでとても手間がかかってしまうが、こういった点を払拭できる。

4)初期投資を抑えられるし減価償却費が発生しない

少し会計的な話で申し訳ないが、やはり初期費用を抑えられるというのが大きい。iphoneを割賦払いをしているような気持ちというか、月額料金しかかからないというのは企業にとっても魅力である。

何か大きな投資をした場合、企業というのは一定の期間でそのコストを分担して損益を計算している。支払いとしては一括なのだが、費用としては償却年数というのがあって何年かで分散して費用計上している。

分かりやすくいうと売上100万円の会社で100万円のソフトを買って使う場合、買った年に費用にして100万-100万円の0円が利益というようにしないで、100万円を10年で費用として計上すると1年間の費用は10万円となるので、100万円-10万で利益が90万という考え方をする。

この考え方に基づくと、莫大な投資をした場合、何年にもわたってそれを費用として考えなければならないので利益が毎年圧迫されることになる(実はこれは見かけの利益なのだが詳細は割愛)。

こういった投資の考えではなく、「月3千円でいいですよ」となると企業はとても導入がしやすくなる。

■ ようは固定費の変動費化がサブスクリプションモデルの鍵

いくつか企業にとってのメリットを書いたが、まとめると「月額のライトな費用に」できるということが最大の特徴といえる。

特に投資もいらないし、使っている間だけ月額で払えるというのは企業の投資枠を圧迫しないというのは本当に会社にとってはメリットがあると感じるポイントなのだ。

人件費だろうが、設備投資だろうが、企業はそういったものを固定的な費用として売上から支払っている。そういった負担を減らそうとしているのがサブスクリプションモデルであり、普及につながっている。

「使った分だけ」というのは、会計の世界では変動費という。コーヒーショップでコーヒー豆を原料として使うが、1杯のコーヒー当たりの豆を利用した量に応じて費用として考えるのだが、そういったものを変動費といっている。運搬・輸送費も変動費の代表例。通信費もそう。

変動費があれば固定費もあって、これは人件費などを指す。人の人件費は売上が増えても減ってもかかるものなので「固定的に発生する費用」として考えられている。

このように、企業の「固定的に発生している費用」を「月額制の変動費」にしてあげるというのがサブスクリプション型のビジネスモデルということになる。

■サブスクリプションモデルを採用したくない理由

そんなに便利なサービスであればなんでkeikyはあまり採用したいと思わないか。いくつか理由を書いてみる。

(1)ドンドンあがる依存度

これが一番のリスクであり、サブスクリプションモデルを提供する企業としては狙っているところ。入口はとても安く設定して、徐々に依存させて抜けられなくするのがサブスクリプションモデルの神髄である。

サブスクリプションモデルのビジネスを展開している会社はドンドン便利にして企業や個人をそのサービスから抜け出せない状態を作ることが商売のカギを握っているといってもいい。

企業でいえば、たとえばセールスフォースのサービスを導入したらドンドン営業データが蓄積されて、ドンドン便利になっていく一方、そのサービスなしでは生きていけなくなっていく。

そうなればサブスクリプションモデルの依存度が上がり、値上げをされたら受けるしかなくなり、スイッチングコスト(他のサービスに切り替えること)がとても高くなるので、なくなくそのサービスを継続して使わざるを得なくなってしまう。

(2)変動費にもデメリットはある。

固定費と変動費の話をしたが、メーカーのような装置産業はある一定量を超えると利益が倍増するビジネスをしている。大きな設備を抱えているので、需要量が減ったら結構赤字になったり大変だが、ビジネスがでかくなったときの利益はサービス業の比ではない。

一方のサービス業についてはある程度量が減っても利益はでるが、売上が増えても利益が爆発的に増えたりはせず一定量で徐々に大きくなる。

何の話をしているかというのは損益分岐点というまたちょっと難しめの会計の話になるので詳細はまたの機会にしたいが、コストの中で変動費が占める割合が増えると不況には強くなるけど景気よくビジネスを伸ばしている時も常にコストが一定量かかってくるので損をするということ。

この違いはもっと複雑だが、ここでは変動費にするデメリットもあるよということだけお伝えしたい。

(2)コストが固定化する(せっかく変動費にしたのに)

これはちょっと逆説的だが、せっかく変動費にしたのに、依存度があがればそれは固定費といえるのではないか?という点。

超超超長い目で見れば固定費は存在せず全て変動費であるという話は置いておいても、せっかく変動費にしたコストが毎月かかるんだったら固定費じゃんということも言える。

設備投資をして、償却期間が終わればまるまる利益がでるのに、サブスクリプションモデルのサービスは永遠の月額制の費用がかかる。

賃貸でマンションを借りていると毎月かかるが、マンションを買って、ローンを払い終わればそれ以降はタダで住めるのという違いと全く一緒。どちらが良いというのは一概には言えず、両方ともメリットデメリットがある。

(3)社員が楽するだけか、生産的な仕事にシフトできるかは採用した会社次第

これは結構根深い問題。

途中でサブスクリプションモデルのサービスに会社が切りかえたとする。そうするとそれまで働いていた人が不要になる。

その人をリストラできるのかという問題があって、日本では容易に整理解雇はできないのが現実的なので、人件費は今まで通りかかっていて、そこにさらにサブスクリプションモデルのサービス費用が掛かってくるとなると、ダブルで費用を払っていることになる懸念が高い。

また、利用する自社のスタッフも結局そういったサブスクリプションモデルのサービスを導入することで確実に作業は楽になるので実は社員が暇になる可能性がある。

だいたいの企業では上記のような理由から、「今いる社員をより生産的な仕事にシフトさせる」ということを目指すようになる。

ここでの問題は2つある。

一つは「今まで生産的でなかった人たちが急に生産的になれるのか問題」。クリエイティブな人はどの会社でもごくわずかしかいない中で、今までルーティンの仕事しかしたことがない人が急にその仕事をなくして企画をやれって言われても無理な話。

結果としてやらせることがない人が社内であふれる可能性が高まってくる。企業の人材の新陳代謝は徐々にしかできないのでなかなか難しい。生産的でありクリエイティブであるべきだけどそうはなかなかなれないのが現実なのだ。

そこで2つ目の問題につながるが「社員を育成、変えていく覚悟が会社にどれだけあるか」という点。せっかくサブスクリプションモデルのサービスを採用検討するのに、「単に楽になる」では上記のような問題に直面してしまう。

結局企業はサブスクリプションモデルを採用するにあたって、「自社の社員を再教育して、人に投資して、もっとビジネスに直結するような仕事をしてもらうコストをさらにかける覚悟があるのか」ということが問われるのだ。

このあたりの動機が単に楽になるとか、コストが抑えられるということが先行すると、最後には「高いおもちゃ」で終わってしまう可能性が非常に高いと僕は考える。


今回はサブスクリプションモデルについてぼくなりに考えたことをまとめてみた。とっても便利なサービスである一方、企業は賢く使わないと、単にサブスクリプションモデルの餌食になるだけで高コスト体質が変わらない可能性があるということは考えなければならない。

そしてサブスクリプションモデルのベンダーやベンチャー、巨大なIT会社の方々は、上記のように考えている企業に対してどういったメリットを出してデメリットを抑制したサービスを提供できるかが競合との勝負の分かれ目になるだろう。

keiky.



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